日ノ下の国へ
今日は日ノ下へ行く日だ。ナコはさっき色々あって今は眠ってしまっているが、起きるまで待つわけにもいかないのでそのまま日ノ下へ行くことになった。
今は地下施設の前で別れの挨拶をしている最中だ。イヴは先に準備をしていると言って奥に行っている。
「ねえ、ナコちゃんをぎゅってしていい? いいよね?」
ファルナが唐突におかしなことを言い出した。
「ファルナ……最後までそれなの?」
もうすでに構えているファルナからナコを遠ざける。
「駄目だ」
「え!? これまではよかったでしょ?」
「もう駄目だ」
「何で?」
「ナコにそうやっていいのは私だけだからな」
「そう、残念だけど仕方無いわね」
「それで諦めるんだ……ってさらっと凄いこと聞こえた気が!?」
『シャロン、準備が出来たわ』
施設にイヴの声が響く。うむ、ではそろそろ行こうか。
「二人とも、短い間だったがありがとう。また来たときもよろしく頼む」
「もういいや、疲れた」
「これを持って行って」
これは手紙か?
「ナコちゃんに渡しておいて欲しいのだけれど」
「わかった、渡しておく」
「じゃあね、またいつか」
「また会いましょう」
「ああ、いつかまた会おう」
『誘導するからその通りに進みなさい、間違えないでよね』
「わかった、頼む」
誘導に従い進むと、中央に輪のような物が台座の上に置いてある部屋にたどり着いた。
「準備は出来てる?」
イヴと少年が輪の前で待っていた。
「ああ」
「忘れ物は無い?」
「問題ない」
忘れる程の荷物は無いからな。
「……女王様、忘れ物をしました」
「はあ?」
「取ってきてもよろしいでしょうか」
「何を忘れたの?」
「人形を――」
「――ふざけないでよアンポンタン!!」
「申し訳有りません……」
「すぐに取ってきなさい! じゃないと粘りけ三十倍の納豆のプールに沈めてやるから! もがけばもがくほどねばねばだから!」
その人形はそんなに怒るほど大切な物なのか?
「はっ、わかりました!」
青い顔をして少年が返事をした。納豆とは恐ろしい物のようだ。
それからすぐに少年は戻ってきた。
「今度こそ忘れ物は無いでしょうね?」
「はい、今度こそ忘れ物は有りません」
「じゃあ、行くわよ」
「ちょっと待て、その人形とやらは……」
少年が背負っている人形は普通の人間と同じ程大きく、そして顔には黒い仮面をしていた。
「……後でちゃんと説明するわ」
「今すぐしてくれ」
流石にこのままでは日ノ下へは行けない。
「…………」
「私達を襲ったのはお前達だったのか?」
「いえ、これは自分が勝手にしたこと。もし罰を受けるならそれは自分だけです」
「イヴは関係無いのか?」
「関係無い……訳じゃないけど……」
「自分が女王様の命令を勝手に曲解してのこと。どうか自分だけを罰してください」
「…………」
「……ごめんなさい、やっぱり私の責任よ。最初に命令を出したのは私だもの」
イヴが王冠を手にもって頭を下げた。
「女王様!? 女王様の分まで自分が罰を受けます! どうか女王様だけは――」
「――いや、罰を与えたりは……ふむ、ナコが起きてから決めよう。襲われたのはナコだからな」
信じきった訳ではないが、真偽は進めばわかるだろう。
「わかったわ、……ありがとう」
「自分はどんな罰でも受けます」
イヴが手に持った小さな箱のような物を操作すると、輪の内側に光の膜の様なものが現れた。
「これをくぐればもう日ノ下よ」
警戒しつつ一歩踏み出し、眠ったままのナコをしっかりと抱き締める。これからどんなことが起こるのだろうか。
たとえどんなことが起きても私がナコの側に居ることに変わりはない。
もう一時も離れることは絶対にしないと、そう約束したからな。
約束もナコも守ってみせるさ、私の愛は本物だからな。
三章完




