王立魔道学院入学
学院長は猫の姿をしていた。服を着て、机の上に座っている。
「よく来てくださった」
「猫がしゃべった!」
猫はにゃあと鳴くものらしいからな。言葉を話せば驚かれるだろう。
「こんな格好で申し訳ないのぅ……元の姿には戻りたくても戻れなくてな」
「なんでそうなってしまったんですか?」
「魔術の実験で失敗して、目が覚めるとこのような……」
「魔術って何ですか?」
私も聞き慣れない単語だ。
「魔術とは、魔力を直接放つ魔法とは違い、魔法陣や詠唱に魔力を込めて発動する、謂わば高度な魔法ですな」
「へえー」
「魔方陣や詠唱は確かに使いやすく正確性も高いが、制限も多い。魔術と呼ばれるものよりも魔法の方が有効なことも多いぞ」
「ふむ、シャロン殿はどうやらそう言った類いの事にお詳しい様子、少しばかり語り合いたいですな」
「いや、さっそく要件を話したいのだが」
「そ、そうですのぅ」
「シャロンは驚かないの?」
猫の姿の事か?
「昔似たようなものを見たことがあるからな」
「なんですと!?」
食い付いたのは学院長だった。
「それはどういうもので、いつ、どこで! ……失礼した」
私と兎達からの冷ややかな視線に気付いたのだろう。興奮を収めた学院長が頭を下げる。
「もしや元に戻る方法がわかるやもと……失礼、要件とは何でしたかな」
「要件とは、つまり知識の提供をして欲しいということだ。見返りは要求があれば聞こう」
呑むかどうかは内容次第だが。
「なるほど、手紙の通りですな。しかし報酬は国から出ると書いてあるのですが?」
「それとは別に何かあれば、ということだ」
「わしは国からの報酬は特に必要無いですし、お二方にして欲しい事も……ううむ……そうですな、学院に入学してはいかがですかのぅ」
姿を元に戻す方法を求めるかと思ったが、違うのか。
「ええっ!? 入学?」
「ダメですかのぅ、一日の体験入学というだけでもよいのですが」
「ここには少し長めに滞在しようと思っていたのだが、それは有難いな、ここにいる間は一生徒としての扱いをしてもらいたい」
もちろん、ナコがそれでいいならだが。
「わたしは良いけど、シャロンも?」
「もちろん、お二方には同じクラスで同じ寮の同じ部屋に入っていただきたい」
「ナコがそれで良いなら私も構わない」
「それでは書類を用意しますので、その間に寮の準備をさせましょう」
「させるって、誰にですか?」
「扉に張り付いている二人じゃないか?」
「え?」
「そうですのぅ、それがよいでしょう」
逃げようとしていたが、二人が逃げるより学院長が器用に扉を開けて廊下に出る方が速かった。
「あ、ファルナとマリー!」
「ご、ごめんなさい! 打ち首だけは、どうかご勘弁を~!」
「ほんの出来心で……」
マリーは慌てて、ファルナは真っ青だ。見付かってこうなるなら何故盗み聞きなんてしたのだろうか。不思議だ。
「打ち首?」
「そうしますかな?」
「いや、止めてやってくれ」
打ち首の代わりに二人には色々手伝ってもらおうか。




