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召喚少女

「ぅ……」


 しかし、すぐに目に涙を溜め今にも泣き出しそうになってしまった。

 やはり私の見た目が……ん? これは、どうなっている?

 私の体は骨だけではなくしっかりと肉があり、皮があり、まるで生きている人間のようだった。

 身に付けていた物は無くなり、裸だ。胸には二つの膨らみが有る。私はどうやら女性、というやつらしい。

 ならばなぜ泣く?


「なぜ……」


 思わず声が出た。声が、出た。


「あ……」


 驚いている内に抱き付かれてしまった。いけない、これではこの子が死んでしまう。

 しかし少女には何とも無かった。人に触れる、人と話せる?

 わんわんと泣く少女を優しく抱き締めながら、私もまた静かに涙を流した。泣くのは生まれて初めてだ。

 涙と人の肌とは温かいものなのだな。

 全くわけがわからない状況だが、どうやらもう孤独は感じなくて済むかもしれない。

 私は感情が薄いとはいえ、何も感じない訳ではない。永い時の中で何人もの人間と出会い、そこから様々なものを感じ、学んできたのだ。

 大勢の者達に敵意を向けられ続け、私は疲れていた。

 この少女が初めての希望になるかもしれない。

 優しく少女を撫でながらそんな事を考える。



 暫くしたあと、少しづつ泣き止み始めた少女がぽつりぽつりと独り言のように話し出した。


「わたし、日本っていう国に住んでて、でも、朝起きたら知らない場所にいて……」


 目が覚めていきなり知らない場所に放り出されるのは相当驚くだろう。私も驚いた。


「それで、誰かいないか探してみたんですけど、誰も見つからなくて……」


 こんな子供が独りぼっちというのはかなり辛かっただろう。


「ステータスが見えて、頭が変になったんだって思ったけど、本当に見えて……」


 ステータスとは何だろうか? もう少し落ち着いたら聞いてみるか。


「見たことない、大きな動物の骨があったり、変な花とか木が生えてたり、夢だと思ったけど、ずっと変わらなくて……」


 ずっと遠い所から来たのか? どんな所から来たのだろうか。

 どんなところにせよ、私の居た場所よりはましだろうが。


「それで、ステータスに召喚術って書いてあって、使い方も書いてあったからやってみたんです。そしたら……」


 私が出て来たのか。ううむ、だとしても謎だらけだ。


「ごめんなさい。わたし、急に泣いたりして……」


「いや、辛かったんだろう?」


 きっと仕方のない事だろう。

 改めて少女を観察してみる。

 この小さな洞窟で何日か暮らしていたのだろう。服や体は土で汚れて、小さな怪我もいくつかあるようだ。

 食事もとれていないのだろうか。随分とやつれてしまっている。

 私は人間では無い。だが、それを少女に伝えるには酷だろうし、もしかすると人間になってしまったのかも知れない。それならそれでわざわざ言わなくてもいいだろう。

 『根源』がどうなったのかは気になるが、場所などわからないし、門の前から動けたということは私はもう門番では無いのだろう。戻ってもどうなる訳でも有るまい。

 ……本音はもう戻りたくは無いのだ。

 機会があれば戻るが、あれは人にどうこう出来るものでは無いのだ、その時が来るまでは少し休んでもいいだろう。


「あ、あの……」


 話して落ち着いた様子の少女がこちらをちらちらと見てくる。どうしたのだろうか。


「服が……」


 服。確かに私は裸だが、今までもローブ一枚だったし、大して変わらないと思うのだが。

 それとも肉がある、ということだろうか。

 感情が有るとはいっても無くはない程度なのだ。

 それに私は人間とは何もかも違かったので感覚がおかしいのだろう。

 どうやら少女に従っておいたほうが良さそうだ。


「服はどうしたんですか?」


「服は……無いのだ。私は無くても平気だが?」


「だ、駄目です、女の人が外で裸なんて!」


 むう、怒られてしまった。しかし服か、どうするか。


「しかし、どうすれば良いのだ?」


「えっと、それは……その……」


 悩む少女の視線はただ中空を漂っているだけの様にも見えたが、何かをはっきりと捉えている事は少し見ていればわかった。

 何を見ているのだろうか?

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