謎の黒仮面
なんとかナコを引き剥がして着替えを済ませ、もう一度街へ降りた。
が、手掛かりも何も無いこの状況では手詰まりだ。今更だが。
「……戻るか?」
とんぼ返りというやつだ。ん?
……あれは近衛騎士団長。直々に出向いていたのか。
近衛騎士団長は勇者の平均の三分の二程度の実力だろう。
人間の中ではかなり強い方だ。
「シャロン様、そちらはどうでした?」
「いや、関係無い奴を一人捕まえただけだ」
そうだ、近衛騎士団長なら知っているだろうか。
「何かそいつに特徴は無いのか?」
「特徴は……おそらく強力な魔法使いだと思われますが、証言によると剣も使うようです。学院長が被害を抑えたようですが、学院長でも捕まえられなかった程の相手です、油断は出来ません。あとは、黒い仮面をしていたようです」
学院長はそこそこ強いらしい。それより強いか。
「全く問題は無いな」
「そうですね、魔神を倒した救世主様ですから」
「ところで、城は守らなくても良いのか?」
「はい、出てきたのは私一人ですし、部下達は精鋭揃いです」
まあ、それならいいのだろう。多分。
「それにしても、犯人は何故魔道学院を狙ったのでしょうか」
「検討はつかないのか?」
「生徒を狙ったか、教師を狙ったか、あるいは地下迷宮か、ですかね……」
「地下迷宮?」
「学院の地下には迷宮があるのです。学院が厳重に管理していて、内部の調査は今も続いていると聞きます」
何が目的にせよ、捕まえてしまえば問題無いだろう。
「学院長に話は聞いたのか?」
「それが、気を失っていまして」
なるほど、なら仕方が無いな。
……面倒な事だ。また騒ぎでも起こしてくれれば楽なのだが。
そう思った瞬間、また爆音が響いた。
爆発? 城の方だ……ナコは無事か? すぐに確認に行こう。
「先に行かせてもらう」
「頼みます!」
今度は一度の跳躍で城の上まで跳び、煙の上がっている場所へ方向を変えて飛ぶ。
「居た……ナコ?」
ナコは乱れた芝生の上で仮面と対峙していた。
側には、白い体毛に赤い目をした兎と、黒い体毛に同じく赤い目の兎が、二本足で立っている。
「だから! お願い、私に力を貸して」
ナコの様子がおかしい。一体何をしようとしている?
兎達が目を細め一度鼻を鳴らすと、一人と二匹は光に包まれた。
あれは危険なものでは無い。直感でそうわかった。
私の直感はほとんど当たる。……ほとんどだが。




