書庫にて、愛とは
まだフラフラとして顔の赤いナコを連れて王城巡りを始めた。
ナコは休むかお姫様抱っこかという選択肢に対して、自分で歩くと言って聞かなかったので、普通に歩いてもらっている。
近衛騎士団長には「心配性ですね」と笑われてしまったが、仕方無いだろう。
「ここが書庫になります」
中では少年が何か本を読んでいるようだった。
傍らには本に埋もれるようにして小さな人のような何かが寝ていた。
「殿下、陛下が探しておられましたよ」
殿下ということは王子だろうか。
「うるさいな、僕は今忙しい……って誰だよそいつら」
「んあ、なんじゃ王子殿おられたのですかい?」
どうやら人間だったようで、小さな何かが喋った。王子に気付かずに寝ていたらしい。
「この方々は救世主様です。私は陛下より護衛と案内の任を任せられました」
「救世主だって? そいつらが?」
まあ、見てわかるものでは無いだろう。
私は世界を救ったことについてはどうでも良い。
ナコは気にしていないようだ……目を背けているだけな気もするが。
「王子様? すごい、本物!」
はしゃぐナコに王子はそっけない態度をとる。
「王子ったってどうせ王位を継ぐのは弟だし、父上は僕なんかどうでも良さそうだけどな」
「そんなことはありません、陛下は殿下に期待されているようでしたよ」
「うるさいな、どうでもいいんだよ。僕は父上のように強くないし、弟のように頭も良くない。姉上のように品格も無い。母上のように性格も良くない!」
そう言うと書庫を走って出ていってしまった。
「もうほっといてくれ!」
なんだか複雑なようだ。私は人間が嫌いではないが、人間関係というやつはわかる事もあれば全くわからない事もある。
難しいが、そこが面白くもある。どんなに観察しようが読みきれるものではない。
「行ってしまわれましたか、王子殿下も大変ですのう」
「殿下は誰よりも優しく誰よりも賢く、それ故あのように……」
「手伝ってやってもいいと思うんじゃがのぉ」
「ええ、ですが私も器用では無いので。……救世主様、ご無礼をお許しください」
「いや、構わない」
面倒なので素直に謝罪を受けておく。王族もいろいろあるようだ。
ナコは近くにあった本を手にとって表紙を見つめている。私も適当に本を取って開いてみると、そこには愛について書かれていた。ふむ……なんと……。
「沢山本があるね」
「う、うむ。そうだな」
読みきるどころか読みたい本を探すだけでも大変そうだ。
「また今度ゆっくりと読みに来たいのだが」
「ええ、構いませんぞ」
小さい老人の許可を得たので、また今度来て本の海に溺れるとしよう。
「では、次に行ってもよろしいですか?」
「お願いします」
「頼む」




