表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/48

勇者と奇跡

 また客か。

 今度はいったいどんな人間なのだろうか?

 こんな場所に、もう何人目だろうか。

 ふむ、四人組の男女か。何をしに来たのだろうか。


「なにこの骨……城の地下にこんな……気持ち悪い」


 ローブの女が驚く。こういうのを失礼な奴と言うのだったか。


「油断するな、この骸骨、あの魔王よりもヤバそうだぜ!」


 黒装束の男が警戒するように姿勢を低くし、腰の辺りに手をやる。


「チッ、こいつは使わずに売っぱらおうと思ってたのによ」


 私はいつも来るものたちに恐れられているようなのだが、やはり見た目が悪いのだろうか。

 人間の骸骨に似た私の体が悪いのだろうか。

 血が乾いたような赤黒い襤褸を纏っているのが悪いのだろうか。

 黒い目玉のような水晶の嵌め込まれた杖が悪いのだろうか。

 だが、私はここから動けず、今身に着けている以外に触れたものは腐り無くなってしまうのだ。

 どうすることも出来ないのだ。


「我が主よ……」


 神官服の男が祈りを捧げている。

 神が本当にいるのなら、そろそろ私を自由にして救って欲しいものだ。

 私が声を出せないのは残念だ。きっと話せたのなら楽しかったのだろうな。

 来る人間の大半が私に襲いかかってくるのは少し寂しい。

 人間の感情は大方理解できるが、まだわからないことも多く、私自身の感情はどうやら乏しいらしい。

 私は泣いた事も、笑ったこともない。

 私の体の構造上、出来ないというだけかも知れないが。


「この先へ進むにはやるしか無い」


 先へ進む? それはだめだ。

 私はここを通さないための門番だ。

 進みたいのなら私に対価を支払わなければならない。

 そういう決まりだ。


「勇者さん!」


 勇者か、人間の中での選ばれた存在。

 魔王を倒すために選ばれるらしいな。


「行くぞ!」


 私は魔力を向かってくる勇者に向けて放った。

 しかし勇者の勢いは止まらず、周りの仲間も動き出し始める。


「くらいやがれっ!」


 黒装束の男が何かを投げつけてくるが、軽く払うとぼろぼろと崩れ落ちた。


「な、なにしやがった?」


 続いてローブの女が火球を飛ばして来た。

 私はそれを呑み込むほどの火球をローブの女に向けて放った。


「うそ……でしょ?」


 私の放った火球が女の放った火球を呑み込み、神官服の男が張ったバリアを破壊して女に直撃した。

 すぐに神官服の男が火達磨になった女の傷を癒し、部屋の隅へと引きずっていく。


「姫を助けないと……生き返らせないといけないんだ!!」


 勇者が叫んだ。

 この先に行っても誰かを生き返らせる事など出来はしない。

 いや、この先にあるものを使えば出来るのかも知れないが、使える者などいないだろう。

 私が首を振ると、勇者が眼前に飛び込んで来た。


「うおおぉぉおお!!!」


 勇者がきらびやかな装飾の施された剣を振り下ろし、私はそれを受け止め、折る。

 折られた剣はすぐさま腐り始めた。


「くっ……」


 絶望したような顔をした勇者だったが一瞬で気を取り直し、剣を投げ突進を仕掛けて来た。根性は認めるが、私に触れればいかに勇者と言えど、腐った死体になるだけだ。


「な、なんだ!?」


 勇者が驚いた様な声をあげ、よろめく。

 突如として、何もかもを吹き飛ばさんとするかのような暴風が吹き荒れ始めたのだ。


「勇者さ……う、うわぁぁ!!」


 門が開いている? このままでは根源に飲み込まれてしまう。

 既に勇者と私以外が根源に飲み込まれた。このままでは私達も同じく飲み込まれてしまうだろう。


 「一体何なんだこれは! どうにもならないのか! くそっ」


 勇者が必死に門にしがみつき、仲間達の名前を叫ぶ。

 魔法の力が弱まっていく? 力が、抜けていく……まるで体が崩れていくかのようだ。

 勇者の手が門から離れ、私の体も根源へと吸い込まれる様に床を滑っていく。

 根源へと落ちれば、体も魂もただでは済まないだろう。

 ばらばらに分解され、根源の一部へと還る事になる。

 ここまでか……。



 ……私はそのまま根源へと落ちた……はずだ。

 勇者と戦っている時に突如突風が吹き、私達は吹き飛ばされた。

 そして開くはずの無い門は開き、私達はその先にある《根源》へと落ちた。

 根源とは全ての始まり、全ての終わり。

 生はそこより始まり、死はそこへ行き着く。

 そのまま私達は、根源という力そのものに呑まれ滅びた。

 はずだった。

 しかし私は生きている? 確かに根源に呑み込まれたはずだが……。

 とにかく辺りの様子を確認するべきだろう。

 ここはどうやら小さな洞窟のようで、見慣れたあの門のある部屋ではないようだ。

 見回したり気配を探ったりしたが、目の前に少女が一人座っているだけで、他には誰もいないらしい。


「えっと……」


 目の前の少女が困惑したような声を出した。

 この私を見て怯えないとはなかなか肝が据わっているようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ