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サラリーマンと苦栗たちの休日

作者: 森野カエル
掲載日:2014/11/22

 その日、俺は仕事が休みで、ソファーに座りながらテレビを見ていた。

 好きなバラエティー番組に大笑いしつつ、俺はソファーの前にあるローテーブルの上のお茶を取って飲んだ。

「ご主人様」

 鈴を転がしたような可愛らしい声が、隣の下の方から聞こえてきた。

 見なくても分かる。

 苦栗だ。

 俺はキノコ育成キットから生えてきた五人の小さな女の子、苦栗たちと暮らしていた。

 苦栗たち五人の名前はイチ、ニイ、サン、シイ、ゴウ。

 本来の名前はただのナンバーだったが、俺は少しだけ変えて呼んでいた。

 小人サイズの女の子が生えてきた時は驚いたが、今ではすっかり慣れ、五人の女の子たちとの同居生活を違和感なく送っている。

 この声は五人のうちの誰かだろう。

「何だ?」

 俺はテレビから視線をそらさずに返事をした。持っていたお茶をテーブルに置く。

 テレビではちょうどお笑い芸人が罰ゲームを受けるところだった。二つあるシュークリームのうち片方に大量のカラシが入っている。二人で食べて、どちらかがカラシ入りに当たるという古典的なものだが、カラシを食べる瞬間を見逃したくなかった。

 俺の予想だと右のシュークリームがカラシ入りだ。

「ねえねえ。ご主人様!」

「ああ?」

 俺はまた声の方を見ずに返事をした。

 今はお笑い芸人二人がシュークリームの前で悩んでいるところだった。

「ご主人様ってば!」

「何だよ」

 イケメン芸人が右のシュークリームを取った。

 よし来た!

 ぶざまな姿を晒すがいい!

「ご主人様!」

 怒鳴り声とともに腕を引っ張られた。

「何だよ。聞いているから話せ」

「こっち見てください!」

「聞いているからいいだろ」

 芸人がシュークリームを手に取る。シュークリームを食べるカウントダウンが始まった。

「ねえねえ!」

 うるさいな。

 五。

「ご主人様ったら!」

 もうすぐだ。

 四。

「もう……!」

 三。

 ん?

 急に静かになったな。

 まあ、いいか。

 二。

「ご主人様ーーー!」

 苦栗の叫び声とともに目の前が暗くなった。

「あ! こら!」

 顔面がぬくい。

 俺は顔に貼り付いた苦栗を、つまみ上げて剥がした。

「テレビが見えないだろ!」

 慌ててテレビを見ると、CMが流れていた。

 どうやら気になるシーンはCMの後で! となったようだ。

 とりあえず、芸人がシュークリームを食べる瞬間を見逃していないことに、俺は安堵した。

「いったい何なんだ?」

 俺はため息を吐きながら苦栗を見た。

「やっとこっち見てくれたー!」

 俺の目の前でぶら下げられた苦栗が、頬を膨らませる。苦栗の腰の辺りを俺が摘んでいるので、苦栗は身体を腰で曲げ、両手両足がブラリと浮いていた。赤い光を放つ紫色の瞳が俺を見ている。

「何度も呼んだのにー!」

 苦栗が身体を揺らすと、黄色っぽいワンピースと肩を覆うだけの蜘蛛の巣状のショートマントが苦栗とともに揺れた。

「ん?」

 俺は五人のうちのどの苦栗か確認しようとして、硫黄色の短い髪を見たのだが、目当てのものが見付けられない。

「ヘアピンはどうした?」

 苦栗たちは名前のナンバーと同じ数字のヘアピンを、いつも頭に付けている。

 苦栗たちは顔がそっくりなので、パッと見で見分けるのは難しい。

 俺は数字のヘアピンを見て、どの苦栗か判断していた。

「ふふふ」

 苦栗が不敵な笑みを浮かべる。

「何だ気持ち悪いな」

「気持ち悪いって何よ!」

 怒った苦栗が暴れだした。手足をバタバタとさせて大きく動くので、摘んでいた苦栗の服が、指の間から逃げた。苦栗が落ち、苦栗はじゅうたんの上に着地する。そして、そのまま走りだし、テーブルの上に登った。

「あれ」

 テーブルの上には、いつの間にか他の苦栗たちも揃っていた。

「どうしたお前ら?」

 他の苦栗たちもヘアピンを付けていない。

 落ちた苦栗が合流すると、五人の苦栗たちは手を繋いで、素早くぐるぐると円状に回りだした。

「何だ何だ?」

 いきなり何を始めたのか。

 ぐるぐる回るのをやめると、今度はテーブルの上をうろちょろと走り回り、ジグザグにお互いの間を駆け抜ける。しばらくそうしていたかと思うと、苦栗たちは一列に並び整列した。

「さあ私はだーれだ?」

 真ん中の苦栗が手を上げる。

 ああ、なるほど。

 ヘアピンなしでどの苦栗か当てろということか。

 俺はため息を吐いた。

「何かと思えば……」

「だーれだ? だーれだ?」

 手を上げた苦栗がぴょんぴょん跳び跳ねる。

 頭にある三本のアホ毛を揺らしながら。

 こいつらは忘れているのだろうか?

「……サンだろ」

「当たり!」

 サンが驚いた顔をした。

「じゃあ私は?」

 サンの右隣の苦栗が手を上げる。

「ゴウ」

「凄い凄い! 当たってる!」

 その後も他の苦栗が一人ずつ手を上げ、俺はそれを当てた。

「ご主人様凄い!」

「私たちのこと分かってる!」

「さすがご主人様!」

 苦栗たちがテーブルの上でキャイキャイはしゃぎだした。

 うん。

 これは完全に忘れている。

 苦栗たちを見分ける方法はヘアピンだけではない。

 頭のアホ毛の数でも見分けることが出来るのだ。

 俺はアホ毛を見て当てただけだ。

 苦栗たちはアホ毛のことを忘れ、大喜びしている。

 ……わざわざ言う必要はないな。

 ちょうどCMが終わったので、俺はテレビに視線を戻した。




end

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