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シンジのダンジョン  作者: 我輩も猫である
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第10話

 前のうるさい警告の教訓を得て、10人以上入ってきた場合のみ警告が反応するようにしていた。にも拘らず、反応したってことは


「大人数で来たのか?まぁ、見てみれば分かるか」

「お兄ちゃん、誰か来たの?」

「まぁね。今から誰が来たのかを調べるところだ」


 俺はノートパソコンでマップを選び、遺跡の入り口を見ようとすると後ろでシノと黒騎士が話し合っていた。


「……シノ……戦闘…準備を………」

「うん!クロキシさん!トックンのセイカをみせるの!」

「……その…調子だ………」


 うん!うん!仲良きことは美しきかな。

 もう少しシノと黒騎士の会話を聞いていたかったが、誰が侵入してきたか見ないといけないため中断。



 相手は多分、元の世界で言う蜘蛛女アラクネだ。上半身は人間の女、下半身は蜘蛛の姿をしている。20体くらいで全員髪と目は黒く、美人だった。上半身は白い質素な服を着ている。ただ、全員怪我やら一部分なくなっている者達もいる。


 前に見たことあるような光景だな。この世界に来てすぐに見た光景と同じだ。まぁ、相手はゴブリンだったうえ、すぐに殲滅しちゃたけどな。

 あのときとは違い、ダンジョンの奥に入らなければ殺す気はない。ゴブリンだったら殺していたかもしれないが。今、蜘蛛女アラクネは入り口の広場で休んでいる。動き出す気配はない。体力回復しているのだろう。しばらくはこの状況が続きそうだな。



…………



……………………



…………………………………………




 三時間経過した。これだけの時間があればダンジョンに潜ってくると思ったんだが、全く動かない。どうしたものかな。


「お兄ちゃ~ん。ま~だ~?」


 シノはもう待つのに疲れ始めてるぐらいだ。まぁ、三時間も待てば疲れるだろう。シノが三時間も待てたことにも驚いたがな!もちろん、いい意味で。

 黒騎士はというと、


「…………」


 特に変化はなかった。ときどき、シノの相手もするが今は沈黙していた。


 ホントにどうしよう。このままだと俺や黒騎士はともかく、シノが限界だ。

 ん?別にいいか!蜘蛛女アラクネが入り口のドアを開けたときに呼べばいいのか!そうと決まれば!


「シノ、黒騎士。各自自由にしていいぞ。あの侵入者達がドアを開けたときに呼ぶからそれまでいいぞ」


 俺がそのように伝えると、


「ホントに!?ホントにいいの!」

「ああ。いいぞ。あの様子じゃあ、まだ動きそうにないだろう。ただし、俺が呼んだときはすぐに来てくれよ?」

「うん!まかせてなの!」


 そう言うとシノは家から飛び出していった。

「黒騎士も自由にしてくれ。それとシノの相手もしてくれると助かる」

「……承知……」


 短い言葉を交わし、黒騎士は出ていった。


 蜘蛛女アラクネが前のゴブリン達と一緒で追われているのならダンジョンの奥に進もうとするはず。自分達の安全のためにな。すぐに入ってくると思って待ってたけど入ってこない。なら、盗聴するか!

 ノートパソコンにはダンジョン内ならどこにでも声を届けることができるし、聞くこともできる。

 この機能を使い、盗聴する。有益な情報も手に入るかもしれない。無いかもしれんがな。まぁ、どちらにせよ、聞かないことには分からん。


「さてさて、どうなるかな?」





~~~




<ミーファ視点>



 私達は森にひっそりと住む蜘蛛女アラクネ。いえ、住んでいた蜘蛛女アラクネと言うべきね。私達の暮らしていた村は焼きつくされてしまったもの。


 村を焼きつくしたのは七名の人間。私達もそれなりの強さを持っていると思っているけれど手も足もでなかった。


 私達は火に弱いわ。けれど、それを利用して今まで生き残ってきた。それすら利用してきたのが襲撃してきた人間どもだった。


 私達を狙ってきた理由は恐らく、いえ、間違いなく私達の糸が原因ね。私達の糸は硬く、魔法にも耐性のある。人間どもがこぞって狙ってくるわ。私達は強いけれど、数の暴力に勝てるほど自分達の力を過信していない。だから森でひっそりと暮らし、人間どもが大勢で来た時いつでも逃げられるように準備までしていたくらいよ。でも、それも過信していたみたい。少人数だから大丈夫なんて思ってしまったから今こうして逃げているのだから………。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、みんな無事?」


 私は人間どもが追ってきていないことを確認すると一緒に逃げてきた皆に聞いた。


「う、うん。私達は大丈夫だけど他の皆は……………」


 村には50人ほどいたが今は30人ほどしかいない。残りの20人はあの人間どもに殺されてしまったか、捕まったかのどちらかだろう。

 殺したい!今すぐ戻ってあの人間どもを八つ裂きにしてやりたい!皆の仇をっ!

 でも、他の皆のことを考えるとそんなことできない。無駄に皆を死なせてしまうだけだ。少ししか見ていないがここにいる皆の力を合わせたとしても勝てない。私には相手のステータスが見ることができる。できてしまう。人間どもの力を知ってしまう。勝てないと。


 周りの皆を見ると疲労の色を濃くしていたので休憩にする。これ以上走り続けていたら足が使い物にならなくなってしまう。本当は休んでいる暇なんてない。人間どもが追ってきている様子はないけれど、私達を追う術などいくらでもある。少し休憩したらすぐにこの場を離れる。


「皆聞いて!ここで少し休憩したら出る!私達ではあの人間どもに勝てない!だから、私は少し遠くまで逃げようと思うの!


 だから、皆も決めて!


 私と一緒に来るか、私とは違う道を行くか決めて!」


 本当は皆と離れたくない!でも、それは私の都合。皆の意思を無視したくない。私は自分の意見を変えたりしない。これが最善だと思っているから!


「わ、私は………」

「どうしよう。どうすればいいの!」

「私はミーファに着いていくわ」

「………」


 皆迷っていた。私は相手のステータスが見えるからそこそこの信頼を得ている。だから、今まで私の指示に従ってきた。でも、これからは自分の意思で決めてほしい。


「私はミーファに着いていくわ!」


 え?


「私も着いていく!」

「あ、あたしも!」

「ミーファはこの中じゃ一番賢いもの。着いていくよ!」

「一番、心も強いしね!」


 止めて、止めてよ!私は!私はそんなに強くない!皆が思うほど強くない!




 私は弱い。



 能力ではない。



 心が弱い。





 皆の意思を尊重したいと思っているが本当は違う。

 本当は責任を負いたくないから。

 心が弱いから自分の意見を尊重して、なんて言っているけど責任から逃げるため。こう言えば、たとえ皆が死んでしまったとしても自分で決めたことでしょう、と言い訳できるから。

 だから、お願い!もう、私を誉めないで!私は皆が思っているような、賢くて強い人じゃないの!


 だから、………お願い………。




 結局、20人もついて来てしまった。四、五人くらいだと思っていたのだけれど。

 そして、私達は洞窟を見つけた。


「皆、あそこで休もう。あの洞窟で怪我人の手当てを」


 あれから2日経ち、人間どもからは逃れられたと思う。けれど強い魔物に襲われて死人はでなかったけれど皆が怪我を負ってしまった。

 皆も、もう疲れてすぐに私の意見に従った。



「嘘でしょう………」


 誰かの声がよく響いた。私達が洞窟の中に入った瞬間、景色が変わり遺跡がそこにはあった。


 これは……まさかダンジョン!?


 昔、聞いたことがある。外から見て、ただの家だったのに中に入ると海が広がっていたと、そして奥に進んで試練を乗り越えると至高の宝が手に入る。その場所をダンジョンと呼んだ。

 ダンジョンは今も数は少ないが存在する。各国の王達が血眼になってダンジョンを攻略しようと躍起になっていると聞いた。本当かどうかは分からない。


 そんな場所に入ってしまった。でも、もう動くのは無理。皆、疲れきって歩けないもの。


「皆、ここがどういう所か分からないけれど予定通り休憩するわ。もちろん、危険かもしれないからドアを開けないこと。それといつでも逃げられるようにすること。

 後は、トースフィンとマーダは外の見張りをお願い。その他は自分の怪我や皆の怪我の手当てをお願い」


 そう言うと、私は怪我人の手当てをし始めた。


 もし、ダンジョンの主がいるのならば、どうか、少しだけでいいので私達を匿ってください!

 そう思わずにはいられなかった。




…………



……………………



…………………………………………





「2日ほどここで休んだら行きましょう」


 私は皆が大分、落ち着いて来たところを狙って言った。


「ね、ねぇ。ここを村を作るのはどうかな?」

「それも考えたのだけど、ここは恐らくダンジョンよ。なんの準備もなく入るのは得策とは言えないわ」


 ここに入って安全を確保し、拠点にすることも考えたのだが、何があるか分からない以上危険をおかすべきじゃない。特に今の私達は。


「ここがダンジョン!?」

「あ、あの至高のお宝があるっていう?」

「でも、試練があるって噂じゃ」

「ダンジョンって?」

「厳しい試練を乗り越えると至高の宝が手に入るって言う伝説の場所よ」

「で、でもまだダンジョンと決まったわけじゃないよ」


 ダンジョンと言う言葉に食いついた。皆もダンジョンのことを知ってるみたいね。話す手間が省けたわ。


「ここはダンジョンじゃないかもしれない。でも、ダンジョンかもしれないの。もし、ダンジョンなら試練がある。その試練が途中で止めることができなかったら私達は全滅してしまうかもしれない」

「そ、それは………」

「そうかもしれないけど………」

「なら、ここに村を作るのはどう!結構、時間たったけどまだ試練は始まってない!ドアを開けたら試練が始まるとみて間違いないよ!ドアを開けないでここに村を作ろう!」


 私もそれは考えたけど、ここはもうダンジョンの中。今は害がないけれど、勝手に村なんて作ったら何が起こるか分からないもの。


「でも、ここはもうダンジョンの中よ。今は立ち寄っただけだから何もないけれど、勝手に村なんて作ったら何が起こるか分からないわ」

「それはっ…………そうだけど……でも、もう皆限界よ!人間どもから逃げて逃げて逃げて、仇も討てず魔物に怯える日々はもう無理なの!!あなたみたいに誰もが強いわけじゃないわ!!」


 他の皆も賛同する声は上がらなかったけど、彼女の言うことに賛同する雰囲気だった。



 その言葉に私の何かがキレた。



「私だって!


 私だってもう嫌よ!!


 あなた達は私のことを強いと言うけれど、私は弱いわ!


 弱くて臆病で仇を討ちたい気持ちはあるけど、自分が死ぬのが嫌な女よ!


 弱くて臆病で死ぬこともできない自分のことが大っ嫌い!!その事を話すことができないような自分も!!


 私は!!


 私は!


 私は……………


 もう無理なの………もう皆の期待に答えるのはできないの………………」


 私は自分の気持ちをぶちまけた。嫌な女、本当に嫌な女よ!私は!自分の気持ちにすら蓋をするような嫌な女よ……………。


「「「「………………」」」」


 皆はもう何も言わない。当然だ。言えるわけがない。だって、私の本性を知ってしまったもの。私が弱くて臆病なやつだと………。目の前が涙で滲む。きっと、私に幻滅しているに違いないわ……………。



スッ



 気がついたら私は抱き締められていた。


「ごめんね、ホントにごめんね……」


 え?


「気づいてあげられなくてごめんね……。もう無理しなくていいの」


 え?え?え?


「ううん、もう無理しないで。私達に任せてもいいのよ。我慢しなくていいの」

「そ、そんな、駄、目だよ。わ、たし、が、悪、い、のに」

「ごめんなさい。ミーファに酷いこと言っちゃた。ホントにごめんね」

「わ、たしも、八つ、当たり、しちゃ、しちゃ」

「なら、おあいこ。皆でこれからのことを決めよう。もうミーファ一人に押しつけたりしないわ」

「あ、あぁぁぁぁぁーーーーーー!!うわぁぁぁーーーーーーん!!ご、ごめんなざい!!本当にごめんなざい!!」


 無理だった。もう泣かないなんて。私は一人じゃない、一人じゃないないって分かった!感情が壊れたんじゃないかと思うくらい泣いた。




……………



…………………………



……………………………………………………




「落ち着いた?」

「う、うん」


 は、恥ずかしい!恥ずかし過ぎる!いい大人がおお泣きなんて恥ずかしい!しかも、皆の前でなんて!うぅ、恥ずかしいよ~。


「もう大丈夫よ。そ、それよりこれからのことを話しましょう!」


 皆の前で泣いたことをこれ以上考えたくなかったので無理矢理別の話題を出してそちらに集中しようと思う。


『いや、それにしても凄い泣きっぷりだったな』

「な、もういいでしょ!気にしないでよ!」

『いやいや、失敗を繰り返して成長していくものさ。気にしなきゃあ駄目だろ』

「余計なおせ………」


 待って。今、私誰と会話しているの?蜘蛛女アラクネに男はいない。今のは男の声ね。

 他の皆にも聞こえたようで声の持ち主がどこにいるか探している。


『俺のことを探しているのか?残念だが俺は自分の声をそっちに届けているから探しても何処にもいないよ』

「誰!?あなたは誰!?」


 声を届けている!?……………まさか!


『頭のいいやつならもう分かっていると思うが俺はこのダンジョンの主だ』


 やはり。なら、一体何のようで声をかけてきた?


『そんなに身構えなくても大丈夫だ。そのドアの向こうにいかない限り俺からはなんの手出しもしない。ただ、お前達の話で有益な情報が手に入ったからな、一つ助言をしようと思ってな』


 私達の会話に?そんなに有益な情報など…………いや、私達にとってはそんなことどうでもいい。問題は私達に対して情報の見返りをくれるというところ!見返りなど、しなくてもいいのに見返りを用意してくれたことから律儀な性格。これならっ!


『実はす「お待ちください!」…………なんだ?』


 よし!賭けだったけれど、聞いてくれた!




「見返りは情報ではなく、私達の保護にしてください!」




 他の皆がとても驚いたような表情を向ける。私達が一番生き残る可能性の高い選択。これが駄目なら最悪の場合、死んでしまうけれど私達にはこの道しかない!



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