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一章 後宮へ

馬車に乗って揺られること一時間近く、やっと王宮が見えてきた。

アンは窓から、それを見つめた。

(とうとう、王宮に来たわ。それにしても、私を妃にするのにあんな理由があったなんて)

そう、公女殿下を妻にと欲していたらしいスルガ国の王に渡せないという理由であった。

ただ、身代わりに嫁ぐらしいリサがかわいそうではある。

スルガ国に自分が嫁がされる予定であった事も驚きだった。それをくい止めたのが皇太子のサミュエル殿下だ。

だが、公女殿下を妃にと最初は言っていた王がリサを受け入れてくれるかは疑問だった。

アンが嫁いでも一緒だっただろう。

スルガ国王がサミュエル殿下の妹君でもある公女殿下をさらおうとしたとも父のガレスは言っていた事が思い出された。 いろんな思惑が絡み合うのが感じられて、背筋が寒くなる。もしや、自分が側妃になるというのは表向きで裏では公女殿下の身代わりにという作戦が展開されているのだろうか。

ふと、そんな考えが頭をもたげる。

その可能性はないだろう。

そう、思い直そうとするもさらわれたのが正妃だと問題があるが。

側妃であれば、放っておかれて闇に葬り去られる可能性もある。

あまりにも大それた自分の考えに身震いした。

今は不安になりやすいのだろう。

アンは頭を横に振りながら、違うことを考えようとした。


公女殿下ーリナリア様は金髪に緑色の瞳の可憐な美少女だという話は聞く。

才色兼備という言葉がぴったりの方らしいとは兄のエドワードが言っていた。

ヴェルナード公国は建国されたのが今から、確か五百年前だと聞いた。

今の大公陛下は二十五代目だったはずだ。

大陸の東側の半島に位置する国で気候は比較的温暖である。 国土は広くないが、その分、農業が盛んであった。

軍隊も騎士団を筆頭に大陸中の国で指折りの強さを誇る。

そんな国と隣接するスルガ国も新興国ではなく、歴史のある国ではあった。

建国六百年でヴェルナード国よりも歴史が長い。

そこまでを思い出していると馬車が停まった。

しばらく待っていると、御者役の男が恭しく、扉を開けてきた。

「お嬢様、王宮の門前に着きました。こちらは北門で後宮に近いらしいですね」

「…そう。ありがとう。自分で降りられるから大丈夫よ」

アンは自力で降りようとする。

だが、ハイヒールを履いているため、慣れないのもあってこけそうになった。

「…きゃっ!」

石畳に体を打ち付けるかと思った時だった。

ふわりとした浮遊感があって、温かな何かに顔がとんと当たった。

目を閉じていたのを開けば、誰かの顔が間近にあったのだ。 「…危なっかしい。急いで、迎えに来てみれば。確か、メアリアン嬢だったな?」

低い声が自分の体に響いて、アンは見知らぬこの人物に寄りかかっていることに今更、気がついた。

アンが慌てて体を立て直そうとしたら、その人物ー青年は支えていた腕をどけようとはしなかった。 「…メアリアン嬢。俺が支えるから、立てるかな?」

耳元でささやかれて、顔が熱くなる。

それでも、ほぼ抱き抱えられながら、アンは体のバランスを取ろうと足を地に着ける。

青年はアンの背中と肩に腕を回し、胸にもたれていた彼女を離した。

「…あの、ありがとうございます」

小声でいうと、青年は苦笑いした。

「…侍女に助けられながら降りていたら、こけずにすんだはずだ。連れてこなかったのか?」

「はい。侍女は連れてきてはいません。急いでいたもので」

つい、うっかりと答えてしまう。

青年は笑みを消すと、真顔になる。

「そうか。だったら、新しい侍女を付けるしかないか。本当はもっと、大人数で迎えに来たかったんだが。俺一人と近衛騎士四人だけでな」

その言葉を聞いて、アンはさらに驚いた。

近衛騎士と言われて、飛び退きたい気分になる。

「…あの、もしや。皇太子殿下でいらっしゃいますか?」

つい、口にしてしまうと青年はアンを見て、面白そうに口元を歪めた。

「気が付かれてしまったか。確かに、俺はこの国の皇太子。名をサミュエル・ヴェルナードという」

御者役の男が慌てて、膝を折り、ひざまずいた。

アンもひざまずこうとした。

よすようにサミュエルは言ってきた。

「膝はつかなくていい。俺、私は皇太子ではあるが。今は緊急事態でな。妹のリナリアがさらわれそうになった事は知っているだろう?」

「ええ、知っています。公女殿下が隣国の王に妃にと要望されていたとか」

それにサミュエルは頷いた。

「そうだ。父はシンフォード家の令嬢を代わりにしたらどうかと言っているが。私は反対だ」

はっきりと言われて、アンは目を(またた)いた。

「どうしてですか?」

「…令嬢であるにせよ、妹であってもスルガ国にやれば人質も同然だ。スルガ国は三十年前まで我が国とは戦をする仲だったからな」

真剣な顔で説明をされる。

事態は自分が思ったよりも深刻なようだ。

皇太子が外見を目当てにアンを側妃にと言ったのはスルガに彼女を嫁がせない為だった。

ようは表向きの理由なだけで、実際はアンを安全な王宮に保護するために無理矢理、妃にという話が出たのだ。

そこまで考えて納得すると、アンは頭を下げた。

「皇太子殿下、私を公女殿下の身代わりにされるのでしたら。良きようにお使いください」

そう言い放つと、サミュエルは驚きのあまり、黙り込んでしまった。

しばしの沈黙の後、アンにサミュエルは夕刻に近いから休むように言うと、王宮へ帰って行った。


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