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番外編 とある側妃の結婚生活2

スージーの元に夫のアレクセイが戻ってきたのは真夜中の十二時を過ぎた頃だった。スージーはドアがそっと開けられる音で目が覚めた。

上半身だけで起き上がるとドアの隙間から顔を覗かせるアレクセイと目が合う。

「…ああ、すまない。起こしてしまったね」

アレクセイはすまなそうに笑いながら寝室に静かに入ってくる。スージーもベッドから降りようとした。だが、アレクセイに止められた。

「ああ、そのままでいいから」

「…ですけど。寝たままなのも悪いですし」

「いいんだよ。君は今、大事な時期なんだから。体を冷やしてしまう」

アレクセイにそう言われてスージーはベッドの中で頭を下げた。

「旦那様。お帰りなさいませ」

「…わたしの事はアレクと呼んでもかまわないんだけど。君はなかなか呼んでくれないね」

アレクセイは肩を竦めながらベッドに近づいた。端に座るとスージーを見つめる。

カーテンは閉めきられていて部屋の中は真っ暗だ。アレクセイの姿はシルエットみたいにしか見えない。

「…すみません。けど、慣れなくて」

スージーが謝るとアレクセイは彼女の頭を撫でる。骨ばった手は見かけよりも固くてごつごつとしてはいるが。剣だこもあって女の自分とは全く違う。だが、そんな手で頭を撫でられるのは嫌ではなかった。

「…まあ、今はいいよ。けど、いずれは呼んでもらいたいな」

「…努力します」

ぽつりと答えるとアレクセイは笑いながらスージーの頭から手を離した。彼女を抱き寄せて膝の上に乗せる。

「…アレク様?!」

スージーが悲鳴をあげるとアレクセイはしぃっと指を口元に持っていって静かにと注意をする。

「スージー。大声を出したら部屋の外まで聞こえてしまうよ。静かに」

腹の子を気遣いながらアレクセイはスージーの肩とみぞおちの辺りに腕を回した。彼女を前に向かせて自分の膝の上に座らせる。

「…あ、あの。こんな体勢だと恥ずかしいです」

スージーが困ったように言うがアレクセイはなかなか、下ろしてくれない。耳に軽くキスをされる。

「…ひゃっ?!」

小さく悲鳴をあげるとアレクセイはくつくつと笑った。

「…まあ、今日はこれくらいにしておくよ。じゃあ、わたしは寝る支度をしてくるから。スージーは先に休んでいて」

「…わかりました」

スージーが答えるとアレクセイはそっと立ち上がって膝の上から彼女をおろした。顔を赤らめているらしい妻にお休みと告げるとバスルームに行ってしまう。スージーはまったくと言いながらもベッドに潜り込んだのであった。




翌朝、目覚めるとアレクセイはまだスージーの隣で眠っていた。スージーはアレクセイよりも早くに目覚めたので静かにベッドを下りた。

洗面所に行って顔を洗おうとしたが。侍女がいないのでタオルや歯磨き粉などの洗面用具がない事に気づく。それでも、アレクセイを起こすべきか迷った。躊躇いを感じている間にううんと彼の背伸びする声が聞こえる。

アレクセイはゆっくりと瞼を開けた。そして、既に起きているらしい妻の姿に気がつく。「…ん?あれ、スージー?」

寝ぼけ(まなこ)でこちらを見る夫にスージーはゆっくりと歩み寄りながら微笑んだ。挨拶を口にした。

「…おはようございます、アレク様」

「…ああ。おはよう」

スージーの朝の挨拶にアレクセイも微笑みながら返した。やっと、眠気が取れてきたらしい。

スージーはまだ侍女が来ていない事をアレクセイに告げる。だが、彼は気にする事はないと穏やかに言った。

「それだったら、侍女が来るまで後少しだから。待てば良いよ」

「わかりました。あの。アレク様が夫で良かったです」

スージーはにっこりと笑いながら何気なく言った。そのつもりだったが。

何故か、アレクセイはみるみる顔を赤らめだした。耳までうっすらと赤い。

「…ちょっ。それは反則だな。わたしを煽ってどうするんだ」

ぼそぼそと呟いた言葉はスージーには聞き取れなかった。アレクセイはこほんと咳払いをすると手招きをする。

「…まあ、それよりも。スージー、そんなところにいたら体が冷えてしまうよ。まだ、春だからね。どうしても朝方はひんやりしているし」

「そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて」

スージーはベットに戻り、再びアレクセイの横に寝転んだ。彼は妻に腕を伸ばすと自身の(がわ)に引き寄せた。腕の中に華奢な妻の体はすっぽりと収まってしまう。

そんな彼女をそっと抱き締めた。アレクセイは瞼を閉じる。昨日の疲れはとれているが妻はどうだろうか。そんなことを考えながら二人して二度寝をしたのだった。




それから、一時間後に侍女が起こしにきた。二人仲良く添い寝をしていたのを侍女のイリスに見られてしまい、生ぬるい視線を送られたのは言うまでもない。それに居たたまれない思いをしながら、スージーは身支度をするためにアレクセイから離れた。名残惜しそうに彼が見送ったのをスージーは知らなかった。

そうして、妻が洗顔や歯磨きをしている最中に執事から知らせをアレクセイは受ける。それを聞いて彼は一気に先ほどの甘い気分など吹き飛んでしまう。

「…それは本当か?」

「はい。何でも、大公陛下が退位されるそうです。病になられて明日をも知れぬ容態とか」

執事はしっかりと頷く。アレクセイは普段、穏やかであるはずの表情を厳しいものに変えて考え込んだ。

「…そうか。今すぐに身支度をする。馬車の手配を急いでくれ」

「畏まりました」

執事は恭しく一礼をすると寝室を出ていった。アレクセイはベットから降りるとふうとため息をついたのだった。




そうして、王宮にアレクセイが到着したのは一時間も経たない頃だった。大公陛下のおられる後宮の奥に彼は急いだ。案内役として騎士が随行する。

「…こちらでございます、ファルキリ子爵」

ファルキリというのはアレクセイの持つ、父から受け継いだ爵位である。

「…ああ、案内ありがとう」

礼を告げると騎士は頭を下げて扉の脇に立った。アレクセイはノックをして返答を待った。

少し経ってから返答する声がした。アレクセイはドアを開けて中へ入る。そこは応接間になっていて皇太子のサミュエル殿下や側近で現正妃の兄でもあるエドワードやジェイミーの姿があった。三人はソファーに腰掛けて深刻な表情をしている。それを見てアレクセイはやはり、陛下のご容態は芳しくない事を見て悟った。眉をしかめながらも三人に近寄った彼だった。

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