番外編皇太子と妃の日常2
翌日、サミュエルとメアリアンはシグルとカタリナを連れて庭園で散策をした。
この日は春真っ盛りで日差しも柔らかく散策には最適の天気だった。今年で二歳になったシグルをサミュエルが抱き抱えながら歩いている。まだ、生まれて半年のカタリナはメアリアンが抱き抱えていた。側にはシグルたちの乳母が四人と侍女がカトリーヌたち四人、護衛の騎士たちも十人と大勢でサミュエル一家を守っている。何といってもシグルとカタリナが皇位継承権を有する事もあった。一番はサミュエルだが彼であれば、自身で身を守る術を身に付けている。だが、シグルは二歳でカタリナはまだ赤子だ。どうしても、優先権は子供たちになっていた。サミュエルもメアリアンもこれには不満は持っていないが。
「…シグル。今日は良い天気だな。昼寝するには最適だぞ」
「…うー」
二歳とはいえ、利発なシグルは言葉を喋り始めだした。今ではサミュエルを父上と呼べるようになっている。が、今は眠くて不機嫌なのか返事がぞんざいになっていた。
「…ん?シグルは眠いようだな」
サミュエルが気づいて言うと乳母の一人が駆け寄ってきた。
「…殿下。いかがなさいましたか?」
「ああ、マリーか。シグルが不機嫌なんだ。もうそろそろ、昼寝の時間ではないか?」
「ああ、そうでした。今はもう、二時を過ぎておりますからお昼寝の時間ですね」
「やはりな。起こしても悪いから寝かせてきてくれ」
「わかりました。では、失礼いたします」
サミュエルからシグルを受けとる。乳母のマリーは早足で室内へと入っていった。
サミュエルはふと、娘のカタリナも気になってメアリアンの近くに歩いていった。彼女も眠ってしまったらしいカタリナの背中を軽く叩きながら、自分の肩に寄りかからせて抱いていた。カタリナは泣きもせずによく寝ている。
「…アン。カタリナも眠ってしまったか?」
サミュエルが小声で尋ねるとメアリアンも頷いた。
「…ええ。すっかり、春の日差しで眠くなってしまったみたいです」
そう言いながら乳母を手招きする。すぐに、残った乳母がやってきた。
「…シェリル。カタリナを寝かせてきて。シグルはもう部屋に入ったみたいだから」
「…わかりました。カタリナ様はわたしがお連れします」
シェリルもカタリナを受けとると先ほどのマリーと同じように室内に入っていく。
次々と眠ってしまった子らに二人は苦笑いする。仕方がないかと互いに言いながら室内へ入った。
シグルたちが昼寝しているのでサミュエルはメアリアンと夫婦の使う居間でイザベルやゾフィーの淹れた紅茶を飲んでいた。今日は公務や執務を早めに終わらせていたので午後は空いている。久しぶりに妻や子供たちと寛ぐ時間を持ちたいと部下たちに伝えてやっと作れた時間だった。
「…それにしたってアン。シグルはまた、重くなっていたな」
「ええ。今では体重も十キロ近くになりましたから。カタリナも生まれた時よりはだいぶ、大きくなりましたよ」
「そうか。子供の成長は早いものだ」
しみじみと呟きながらサミュエルはメアリアンの肩を抱き寄せる。妻はもう、正妃になってから二年と半年が過ぎていた。メアリアンを側妃にした年月を合わせれば、三年半は過ぎている。年月が過ぎ去るのは早いとサミュエルは思う。
「…アン。今日は久しぶりに昼寝でもするか」
「…でも、予定があります」
「それは明日に回してもいいじゃないか。といきたいところだが。侍従たちから文句が出そうだな」
サミュエルが苦笑いするとメアリアンはそうですよと言ってきた。こういう時でもなかなか、彼女は甘くない。仕方がないかとサミュエルは思った。
「まあ、昼寝はいつでもできるし。アン、私はこれから父上の元へ行くが。君は部屋でゆっくりと休むと良い」
「…わたくしも今日は公務があります。休んではいられませんけど」
「じゃあ、私が代行しよう。今日は公都の孤児院の視察とラインフェルデン公爵家のお茶会が入っていたな。後、宮殿での夜会もあるが。アンは体調が悪いとでも言っておこう」
とんでもない計画を立て出した夫にメアリアンは眉をしかめる。
「…サミュエル様?」
「…アン。先ほど言った事はそなた付きの女官、シンシアに伝えておく。それで一日の予定を組み直してもらおう」
サミュエルは決めたと告げるとさっさと居間を出ていってしまった。呆気に取られるメアリアンたちだった。
その後、本当にメアリアンの午後からの予定は全てが変更になった。その代わり、サミュエルが代行するという形になったが。最初、サミュエルにメアリアンの今後の予定を自分が代行すると聞かされた時、シンシアは大いに驚いたらしい。
大急ぎでメアリアンが体調不良を起こした事を予定を組んだ侍従に伝え、さらに待っているはずの孤児院の院長やラインフェルデン公爵家にも体調不良の旨を手紙で伝える。
代わりにサミュエルが赴くとも知らせておいたが。シンシアと侍従たちはサミュエルが孤児院などを訪問する前に知らせたりしなければならず、かなり迷惑をこうむっていた。
「…サミュエル様。本当に私の代わりに行ってしまったわ」
メアリアンがぽつりと呟くと側にいたイザベルとゾフィーも本当にと頷いた。
「…殿下がアン様の代行をなさるだなんて。珍しい事です」
イザベルが言うとゾフィーは苦笑いする。
「まあ、アン様に殿下はベタぼれですからね。それで代わりにとおっしゃったのでしょう」
「だとしても、アン様も動かないと体がなまってしまわれます。殿下も過保護過ぎるというか」
イザベルが言うとゾフィーはまあまあと宥めた。
「イザベルさん。殿下にあまり、文句は言わない方が良いですよ。後が怖いですから」
まあ、それもそうねとイザベルは頷いた。そんな二人のやり取りにメアリアンはまた、ため息をついたのだった。




