何度やっても同じこと
これで何度目だろう。
繰り返し人生をやり直しさせられている。
公爵家の娘に生まれ、王子の婚約者になり、苦しい教育に耐えた末に
断罪され、処刑される。
一度目の人生では、訳もわからず流されるまま処刑されていった。
二度目は、処刑を回避できないかと、抗ってみた。
しかし無駄だった。
三度目は逃げてみた。
すぐに捕まって、結局殺された。
もうここで私の心は壊れてしまったのだろう。
四度目は、婚約者になる前に自殺した。
五度目は、生まれた時から婚約者と定められていたので、歩けるようになったらすぐに自殺した。
現在六度目をやらされている。
そして腰に手を当て、ふんぞり返った女が私に文句を言っている。
「どうして前みたいにおとなしく婚約者にならないの!
おかげで思うようにシナリオが進まず、困っちゃうじゃないの!」
「そんなこと知りません。私は、あの王子が嫌いです。
何度も自分を陥れて殺した人間を好きになるはずがないでしょう。
誰が何を言っても、婚約することはありません。
そうなるくらいなら、死んだほうがましです。」
「だから!そうやってすぐ死のうとするの、やめて!
重要登場人物がいなくなると、話がおかしくなるんだから。」
この女は何を言っているんだろう。
シナリオ?
この人生が芝居か何かとでも言うの?
馬鹿にしないで!
「わかったわ。今まで断罪やら処刑ばかりで、楽しいことがなかったから、すねちゃったのね。
だったらヒロインと交代させてあげる。素敵な殿方との恋を楽しんで!」
女はパチッと指を鳴らす。
すると私は、王子と一緒に私を断罪した、男爵令嬢ララの姿になった。
何、これ?魔法?
女は私の姿になっている。
「ふふっ!女神の力に驚いた?
しばらく私が人間になって、悪役令嬢をするわ。
私が書いたシナリオどおりにね。
もともとのヒロイン、ララの魂は、だれかその辺の人間の中にでも入れておきましょう。
あなたは処刑までその姿でいなさい。」
「処刑?また私が処刑されるの?」
「そうよ。女神の私が処刑されるわけにはいかないわ。
処刑はあなたの担当。人間の状態だと私だって死んでしまうもの。」
ああ、何度生まれ変わっても、同じこと。
最後はいつも処刑で終わる。
私の絶望した表情を見た女は、にやりと笑って
「今度はどういう処刑がいいかしら。
毒杯を賜るというのは、観客がいないから面白くないわね。
この前は、ギロチンだったかしら。ちょっと見に行きましょう。」
嫌だと逆らっても、無理やり連れていかれた。
魔法陣のようなもので転移した先は、倉庫のようだった。
「これでしょう?前回処刑されたとき使われたのは。」
私は思わず嘔吐しそうになった。
何度も私の首を落としたギロチンだ。
処刑の時を思い出して、吐き気がとまらない。
私が絶望しているのが面白いのか、無防備に女神がギロチンに寝転んで言った。
「こんなふうにうつぶせになって処刑されたのよね?
今まではうつぶせだったけど、仰向けの方が迫りくる刃で、恐怖も倍増しそうじゃない?」
傲慢な女神は私のことを見下し、高笑いをしながら、そんなことを言う。
それを聞いた私は、思わずギロチンのストッパーを外していた。
女神の高笑いを聞き、体が勝手に動いてしまった。
何度も首を落とされた道具だ。
仕組みはわかっている。
ガシャーンという音がして、そのあとごろんと丸いものが転がった。
人のことを道具みたいに扱って......。
私の絶望が、そんなに面白かった?
私は、こみ上げる吐き気を抑えながら、来た時の魔法陣に乗った。
着いたところは、王都の外れだった。
使用済みの魔法陣は、やがて跡形もなく消えていった。
公爵家には帰れない。
今の私は、元平民の男爵令嬢ララだ。
たぶんまだ男爵家には引き取られていない。
ただの平民だろう。
彼女の実家のパン屋に行こう。
そこしか行けるところがない。
前に彼女のことを調べたので、実家の場所は知っている。
このままなりすまして生きていくしかない。
パン屋の両親はすでに亡くなっており、遠くの街にいた叔父が戻ってきて後を継いでいる。
ララは、パン屋を手伝って家に置いてもらっていた。
あまり親しくはないのか、本人ではないことに叔父は気づいていないようだった。
私にとっては、都合がよい。
王宮の倉庫で公爵令嬢が首を切られて死んでいたという噂が、私の耳に届くことはなかった。
醜聞を嫌う公爵家が、内々に収めようとしたのだろう。
王子やララのその後は知らない。
平民の私の耳には入らないし、もうどうでもよい。
私は、女神を殺したその手で毎日パンをこねている。
パンを作るのは、とても楽しい。
天罰は今のところない。
六度目にして、やっと平穏な人生を手に入れたのだ。
女神の死によって。




