第20章 魔王の本拠地攻略? 否、建設だ
翌日、蒼太は仲間たちを集めて、真実を共有した。
「世界の柱……?」
ゴルドが眉を顰めた。
「そんな話、聞いたことがないぞ」
「俺も、昨日初めて聞いた」
蒼太は宮廷魔術師から聞いた話を、そのまま伝えた。
リーナは顔を青ざめさせた。
「世界が……崩壊している……」
「そうらしい。で、この塔を完成させれば、崩壊を止められる」
「だから、魔王軍が妨害してきてたのか」
バルトが低い声で言った。
「塔が完成すれば、魔王の計画は終わる。だから、全力で阻止しようとしている」
「その通りだ」
蒼太は全員を見回した。
「今まで以上に、妨害は激しくなるだろう。魔王軍の総攻撃が来るかもしれねえ」
「……」
沈黙が流れた。
やがて、ゴルドが口を開いた。
「で、どうする気だ」
「どうするって?」
「魔王軍が攻めてくるんだろう。逃げるか、戦うか」
蒼太は首を振った。
「俺たちは、戦わねえ」
「はあ?」
「俺たちは、建てる」
全員が、蒼太を見つめた。
「俺たちは職人だ。戦士じゃねえ。剣を振ることはできねえ。でも、塔を建てることはできる」
「だが、魔王軍が——」
「軍は、軍に任せる。女王陛下の軍が、魔王軍を迎え撃つ。俺たちは、その間に塔を完成させる」
「そんなことが、できるのか」
バルトが問うた。
「やるしかねえだろう」
蒼太は真っ直ぐにバルトを見た。
「塔が完成すれば、世界が救われる。魔王軍は力を失って、撤退する。つまり、俺たちが塔を建てることが、最大の戦いなんだ」
「……」
「俺たちの武器は、剣じゃねえ。ハンマーと鑿と鉋だ。俺たちの戦場は、戦場じゃねえ。足場の上だ」
蒼太の声が、力強くなった。
「俺たちは、俺たちのやり方で戦う。建てることで、戦う」
沈黙が続いた。
やがて、ゴルドが鼻を鳴らした。
「……ふん。相変わらず、無茶を言う奴だ」
「無茶か?」
「いや」
ゴルドは蒼太を見た。その目には、確かな信頼があった。
「お前らしい。気に入った」
リーナも頷いた。
「私も、あなたについていく。最後まで」
バルトが立ち上がった。
「俺たちは、お前の仲間だ。お前が建てると言うなら、俺たちも建てる」
全員が、蒼太を見つめた。
蒼太は、静かに頷いた。
「ありがとう。じゃあ、始めるか」
「何を」
「最終工期だ」
蒼太は塔を見上げた。
「残りは百五十メートル。魔王軍の総攻撃が来る前に、完成させる」
「無理だろう」
ゴルドが言った。
「百五十メートルを、どれくらいで建てる気だ」
「一ヶ月」
「一ヶ月だと!?」
「今までの倍のペースだ。無理じゃねえ」
蒼太は計算を始めた。
「【共鳴】を最大限に使う。俺が仲間に能力を付与して、作業効率を上げる。夜間作業も増やす。休憩時間を調整して、常に誰かが働いている状態を維持する」
「過労で倒れるぞ」
「倒れねえように、管理する。それが俺の仕事だ」
蒼太は全員を見回した。
「きついことは分かってる。でも、やらなきゃならねえ。世界を救うためじゃねえ。俺たちが生き残るために」
「……」
「塔が完成すれば、全部終わる。俺たちも、家族も、仲間も、全員が助かる。だから——」
蒼太は拳を握った。
「最後まで、走り抜ける。全員で」
沈黙が続いた。
やがて、バルトが口を開いた。
「分かった。お前についていく」
「俺もだ」
ゴルドが続いた。
「私も」
リーナも頷いた。
蒼太は、仲間たちを見回した。
「ありがとう。じゃあ——」
その時、遠くで角笛の音が響いた。
全員が、音のする方を見た。
「あれは——」
「軍の角笛だ」
エドが駆け寄ってきた。
「ソウタさん! 大変です! 魔王軍が——魔王軍が動き出しました!」
「何だと!?」
「斥候からの報告です! 魔王軍の本隊が、王都に向かって進軍しています!」
蒼太は空を見上げた。
北の空に、黒い影が見えた。
無数の飛行魔物。その向こうには、さらに大きな影が——
「総攻撃だ……」
蒼太は呟いた。
「来やがったか」
* * *
王城の会議室。
女王アリシアを中心に、将軍たちが集まっていた。
「魔王軍の規模は、約十万。飛行魔物、陸上兵、そして——魔王本人も、いるようです」
レオンハルトが報告した。
「魔王が……」
アリシアの顔が、引き締まった。
「王都に到達するまで、どれくらいだ」
「現在の進軍速度では、三日。しかし、飛行魔物だけなら、一日で到達します」
「我が軍の兵力は」
「約三万。魔王軍の三分の一です」
沈黙が流れた。
「……勝てるのか」
「正面からぶつかれば、勝ち目はありません」
レオンハルトは正直に答えた。
「しかし、塔が完成すれば——」
「塔は、あとどれくらいで完成する」
「鷹野蒼太の見積もりでは、一ヶ月です」
「一ヶ月……」
アリシアは考え込んだ。
「三日で総攻撃が来る。一ヶ月持ちこたえられるか」
「困難です。しかし——」
「しかし?」
「不可能ではありません」
レオンハルトは地図を広げた。
「城壁を利用した防衛戦に徹すれば、時間は稼げます。また、塔自体が高くなればなるほど、世界の柱の力が強くなり、魔王軍の力が弱まるそうです」
「つまり、塔の建設が進めば、防衛も楽になる」
「その通りです」
アリシアは立ち上がった。
「分かった。我が軍は、塔を守る。塔が完成するまで、一歩も引かぬ」
将軍たちが敬礼した。
その時、会議室の扉が開いた。
蒼太が入ってきた。
「陛下。お時間をいただけますか」
「鷹野蒼太か。何用だ」
「一つ、お願いがあります」
蒼太は真っ直ぐにアリシアを見た。
「塔の建設を、止めないでください」
「……当然だ。塔が完成しなければ、全てが終わる」
「ありがとうございます。それから——」
蒼太は続けた。
「俺たちは、建設に専念します。戦闘には参加しません」
「分かっている。そなたたちは職人だ。戦場に立つ必要はない」
「はい。でも、一つだけ——」
蒼太は窓の外を見た。塔が、夜空に聳え立っている。
「塔が完成したら、俺が自分で神器を設置します」
「何?」
「三百メートルの高さに登って、神器を置く。それは、俺の仕事です」
アリシアは暫く蒼太を見つめた。
「……危険だぞ」
「分かってます。でも、俺は鳶です。高いところは、俺の庭です」
蒼太は笑った。
「任せてください。必ず、やり遂げます」
アリシアは、静かに頷いた。
「分かった。そなたを信じる」
「ありがとうございます」
蒼太は頭を下げ、会議室を出た。
廊下を歩きながら、空を見上げた。
北の空は、黒く染まりつつあった。
「来るか」
蒼太は呟いた。
「だったら、来い。俺たちは、建てる」
夜が、明けようとしていた。




