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鳶職人×異世界転生_俺の手が世界を建てる~鳶職人、異世界で伝説の塔を築く~  作者: もしものべりすと


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第15章 墜落事故 第16章 スキルの覚醒

塔の高さが八十メートルを超えた頃、事故は起きた。


その日は、朝から天候が悪かった。


曇り空。湿った風。遠くで雷鳴が聞こえる。


蒼太は朝礼で、注意を促した。


「今日は天候が不安定だ。いつも以上に足元に気をつけろ。危ないと思ったら、すぐに作業を中止しろ」


「へい!」


作業員たちが散っていく。


午前中は、何とか持った。雨は降らず、風も許容範囲内だった。


しかし、昼過ぎになって、状況が変わった。


突然、強い風が吹き始めた。


「おい、風が強くなってきたぞ!」


「足場が揺れてる!」


蒼太は空を見上げた。黒い雲が、急速に近づいてくる。


「全員、作業中止! 下に降りろ!」


蒼太の声が、現場に響いた。


作業員たちが、慌てて足場を降り始める。


その時だった。


突風が吹いた。


足場が大きく揺れる。


「うわあああ!」


悲鳴が聞こえた。


蒼太は振り向いた。


一人の作業員が、足場から落ちていく。


マルコだ。


ベテランの作業員。最初は蒼太に懐疑的だったが、今では最も信頼できる部下の一人になっていた。


「マルコ!」


蒼太が叫んだ。


しかし、手は届かない。


マルコの身体が、宙を舞う。


安全帯が——引っ張られた。


バツン、という音がして、マルコの身体が止まった。


安全帯が、ギリギリで機能した。


「マルコ! 大丈夫か!」


蒼太は急いで降りていった。


マルコは、足場の横にぶら下がっていた。安全帯のフックが、足場の柱に引っかかっている。


「痛え……足が……」


マルコが呻いた。


見ると、右足が不自然な角度に曲がっている。骨折だ。


「動くな! 今、助けるから!」


蒼太と他の作業員たちで、マルコを足場から下ろした。


医療班が駆けつけ、応急処置が施される。


「骨折だ。命に別状はないが、当分は動けないだろう」


医師の診断を聞いて、蒼太は安堵した。


しかし、その安堵は、すぐに怒りに変わった。


「……なんでだ」


蒼太の声が低くなった。


「なんで、こんなことになった」


周囲の作業員たちが、蒼太を見た。


「天候が悪いのは分かってた。俺は朝礼で、気をつけろと言った。危ないと思ったら中止しろと言った」


蒼太の声が、大きくなっていく。


「なのに、なんで作業を続けてた! なんで、すぐに降りなかった!」


作業員たちは、黙っていた。


「俺が一番言いたかったことは何だ!」


蒼太は叫んだ。


「『安全第一』だろうが!」


沈黙が落ちた。


蒼太は荒い息を吐きながら、全員を見回した。


「……すまねえ。怒鳴っちまった」


しかし、蒼太の目は、依然として厳しかった。


「でも、言いたいことは言う。俺たちの仕事は、塔を建てることだ。だが、そのために死んでいいわけじゃねえ」


蒼太はマルコを見た。


「マルコは、安全帯をつけてたから助かった。もし外してたら、今頃は——」


言葉を飲み込んだ。


「俺の親父は、安全帯を外してて死んだ。高所から落ちて、そのまま。俺が中学の時だ」


作業員たちは、息を呑んだ。


「だから、俺は絶対に死なせたくねえ。お前ら一人一人を、家に帰したいんだ。分かるか」


蒼太の声が、震えていた。


「死人を出して建てた塔に、何の意味がある。俺は、そんな塔を建てたくねえ」


沈黙が続いた。


やがて、マルコが口を開いた。


「……すまなかった、ソウタ」


「マルコ……」


「お前の言う通りだ。俺は、無理をした。工期が気になって、天候が悪くても作業を続けた。それが、間違いだった」


マルコは横になったまま、蒼太を見上げた。


「お前の親父のこと、聞いてなかった。悪かった」


「いや、俺が話さなかっただけだ」


「……俺も、親父を現場で亡くしてる」


蒼太は目を見張った。


「落盤事故だった。炭鉱で。俺が子供の頃の話だ」


「そうか……」


「だから、お前の気持ちは分かる。分かるはずだったのに、俺は——」


マルコは目を閉じた。


「すまなかった。もう、無理はしねえ」


蒼太は頷いた。


「……分かった。ゆっくり休め。完治したら、また戻ってこい」


「ああ。必ず戻る」


マルコが運ばれていった後、蒼太は王城に向かった。


    *    *    *


「工期の延長を、お願いしたい」


蒼太は、女王アリシアの前で頭を下げた。


「理由を聞こう」


「今日、墜落事故がありました。命に別状はありませんでしたが、重傷者が出ました」


「……そうか」


「原因は、悪天候の中での強行作業です。俺の管理が甘かった。責任は俺にあります」


「そなたの責任?」


「作業員たちに、もっと強く中止を命じるべきでした。結果として、怪我人を出した。これは俺の失態です」


アリシアは暫く蒼太を見つめていた。


「工期を延長して、何をする」


「安全管理を、もう一度徹底し直します。天候不良時の作業基準、安全装備の点検、避難訓練。全部、やり直します」


「それには、どれくらいかかる」


「二週間。その間、塔の建設は一時中断します」


周囲の大臣たちがざわめいた。


「二週間も! 魔王軍はいつ攻めてくるか分からないのだぞ!」


「工期の遅延は許されない!」


蒼太は黙って聞いていた。


アリシアが手を挙げ、周囲を黙らせた。


「鷹野蒼太。一つ聞く」


「はい」


「そなたは、塔を完成させたいのか」


「はい。必ず完成させます」


「ならば、なぜ工期を延ばす。急いだ方が、完成は早くなるだろう」


蒼太は真っ直ぐにアリシアを見た。


「死人を出して建てた塔に、何の意味がありますか」


「……」


「俺は、全員を生きて帰したい。それが俺の仕事です。塔を建てることも大事ですが、仲間を守ることも同じくらい大事なんです」


アリシアは暫く黙っていた。


やがて、小さく笑った。


「……そなたは、変わらぬな」


「は?」


「初めて会った時も、同じようなことを言っていた。『まともな足場を組めば、職人は死なない』と」


蒼太は頷いた。


「今も、その気持ちは変わりません」


「分かった」


アリシアは立ち上がった。


「工期の二週間延長を、許可する」


周囲がざわめいた。しかし、アリシアは続けた。


「鷹野蒼太。そなたの仕事は、塔を建てることだ。だが、それは作業員の命を犠牲にしてまでやることではない」


「……」


「そなたの判断を、私は支持する。安全管理を徹底し、万全の体制で建設を再開せよ」


蒼太は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


王城を出た後、蒼太は空を見上げた。


雲の切れ間から、夕日が差し込んでいた。


「……よし」


蒼太は拳を握った。


「やり直しだ。もう一度、最初から」


二週間。


その間に、現場を立て直す。


そして、必ず塔を完成させる。


全員を、生きて帰す。


それが、蒼太の誓いだった。


【第15章 完】

第16章 スキルの覚醒


二週間の安全管理期間が終わり、建設が再開された。


現場の空気は、以前とは明らかに違っていた。


朝礼での確認事項が増え、安全装備の点検が厳格になり、天候チェックが徹底された。作業員たちは、最初は面倒くさそうにしていたが、マルコの事故を目の当たりにした後では、誰も文句を言わなくなった。


「今日の天気は晴れ。風速三メートル以下。作業に支障なし」


エドが報告する。


「よし。じゃあ、作業開始だ。足元に気をつけろ」


「へい!」


作業員たちが散っていく。


蒼太は足場に登り、最上部に向かった。


塔の高さは、現在八十五メートル。三百メートルの目標まで、まだ三分の一に届いていない。


「先は長えな……」


蒼太は呟きながら、足場の点検を行った。


縄の締まり具合、木材の状態、接続部分の緩み。【匠の手】を使えば、触れるだけで構造物の状態が分かる。異常があれば、すぐに対処できる。


「ソウタ」


声がして、振り返ると、ゴルドが登ってきていた。


「珍しいな、お前が高いところに来るなんて」


「ふん。たまには現場を見てやろうと思っただけだ」


ゴルドは足場の上をぎこちなく歩きながら、周囲を見回した。


「……相変わらず、よくこんな高いところで平気でいられるな」


「慣れだよ。十年もやってりゃ、地上と変わらねえ」


「信じられん」


ゴルドは足元を見て、顔を顰めた。


蒼太は笑った。


「お前、意外と高いところ苦手なんだな」


「うるさい。俺は地面の下で働くのが専門だ。空の上は管轄外だ」


「そうかそうか」


蒼太は塔の石壁に手を当てた。


【匠の手】が起動する。


「……いい仕事だな、ゴルド。石の配置、完璧だ。継ぎ目も均一で、強度に問題ない」


「当然だ。俺の石積みに、妥協はない」


ゴルドは誇らしげに胸を張った。


「だが——」


蒼太は眉を顰めた。


「何か、変な感触がある」


「変な感触?」


「うまく言えねえけど……塔全体に、何か力がかかってる気がする。下から上に向かって、引っ張られてるような」


ゴルドは首を傾げた。


「俺には分からん。お前の【匠の手】で、何か見えるのか」


「見えるっていうか……感じる、かな。まあ、気のせいかもしれねえ」


蒼太は手を離した。


その時だった。


視界に、光が走った。


『スキルレベルアップ』


『【匠のクラフトマンズ・ハンド】Lv.3 → Lv.4』


『新能力「共鳴」を獲得しました』


半透明の板が、宙に浮かんでいる。ステータス画面だ。


「……レベルアップ?」


蒼太は目を見開いた。


スキル説明を見る。


【匠のクラフトマンズ・ハンド】Lv.4


・建設作業における精度と速度が大幅に向上する


・触れた構造物の強度を詳細に感知できる


・一定範囲内の仲間の技能を一時的に底上げする(効果増加)


・構造物を介した攻撃・防御の精度が向上する


・【新規】共鳴:触れた仲間の技能を、一時的に自分と同レベルまで引き上げる


「共鳴……」


蒼太は呟いた。


「どうした、ソウタ」


「いや、スキルがレベルアップしたみたいだ」


「レベルアップ?」


「ああ。新しい能力が増えた。『共鳴』ってやつ」


蒼太は説明を読み直した。


「触れた仲間の技能を、一時的に自分と同レベルまで引き上げる……」


「どういう意味だ」


「つまり——」


蒼太は考えた。


「俺が誰かに触れると、その人の技術が、一時的に俺と同じレベルになる、ってことか?」


「お前と同じレベル……」


ゴルドは首を傾げた。


「試してみるか」


蒼太はゴルドの肩に手を置いた。


何も起きない。


「……駄目か」


「いや、待て」


ゴルドが目を見開いた。


「何か……変な感覚がある」


「変な感覚?」


「頭の中が……クリアになったというか……石の配置が、見えるようになったというか……」


ゴルドは自分の手を見つめた。


「試していいか」


「何を」


「石を積んでみる」


ゴルドは足場を降り、建設中の塔の最上部に向かった。蒼太も後を追う。


ゴルドは石を一つ持ち上げ、配置した。


「……驚いた」


ゴルドの声が震えていた。


「何が」


「今まで、俺は自分の目と経験で石を積んできた。それが、今は——」


ゴルドは石に触れた。


「石の内部が、見える。密度の分布、亀裂の位置、最適な配置角度。全部、頭の中に流れ込んでくる」


「それは——」


「お前の能力だ。【匠の手】の、構造物感知能力」


蒼太は驚いた。


「俺の能力が、お前にも使えるようになってるのか」


「一時的に、だが……これは凄い」


ゴルドは次々と石を配置していった。その動きは、いつもより明らかに速く、正確だった。


「効率が、倍以上になっている。いや、三倍か」


しかし、数分後。


ゴルドの動きが、止まった。


「……消えた」


「消えた?」


「能力の感覚が、消えた。元に戻った」


蒼太は考えた。


「一時的、か。時間制限があるみたいだな」


「それでも、これは凄い能力だ。お前が触れている間、仲間の技術が大幅に向上する」


「問題は、触れてなきゃいけないってことだな。作業中ずっと触ってるわけにはいかねえ」


「……確かに」


二人は顔を見合わせた。


「でも、使い方次第では——」


蒼太は考えを巡らせた。


「例えば、難しい作業の直前に触れて、能力を付与する。効果が持続している間に、作業を完了させる」


「可能か?」


「やってみなきゃ分からねえ」


蒼太はニヤリと笑った。


「面白くなってきた」


    *    *    *


翌日から、蒼太は新しい能力の検証を始めた。


まず、効果時間。


蒼太が仲間に触れてから、能力が消えるまでの時間を測定した。結果、約五分。これは誰に対しても同じだった。


次に、効果範囲。


「共鳴」は、蒼太が直接触れた相手にのみ発動する。離れていても効果が及ぶわけではない。


そして、効果の程度。


これは、相手によって異なることが分かった。


元々技術が高いゴルドなどは、蒼太の能力が加わることで、さらに精度が上がる。しかし、元々の技術が低い者(新人作業員など)は、蒼太と同じレベルの技術を一時的に獲得できる。


「つまり——」


蒼太は分析した。


「元々上手い奴には、錦上添花。下手な奴には、底上げ。どっちにしても、プラスになる」


「すげえ能力だな……」


エドが感嘆した。


「でも、俺一人じゃ限界がある。五分しか持たねえし、触れた奴にしか効かねえ」


蒼太は考えた。


「重要な作業の時だけ、使うようにしよう。例えば、高所での精密作業とか、危険な場所での組み立てとか」


「分かりました」


実際に使ってみると、効果は絶大だった。


難しい接続作業を行う作業員に「共鳴」を付与すると、普段は三十分かかる作業が、十分で完了した。


危険な高所作業を行う作業員に「共鳴」を付与すると、安定感が増し、事故のリスクが大幅に減った。


「これなら——」


蒼太は塔を見上げた。


「建設のペースを、上げられる」


    *    *    *


新能力の活用により、塔の建設は加速した。


一週間で五メートルだった進捗が、七メートル、八メートルと伸びていく。


「いい調子だ」


蒼太は満足げに呟いた。


しかし、同時に疲労も蓄積していた。


「共鳴」を使うたびに、蒼太自身の体力が削られる。能力の使用回数には限界があり、一日に十回程度が上限だった。それ以上使うと、めまいや吐き気が起きる。


「無理すんなよ、ソウタ」


バルトが声をかけてきた。


「お前、最近、顔色が悪いぞ」


「大丈夫だ。ちょっと寝不足なだけだ」


「嘘をつくな。俺には分かる」


バルトは蒼太を睨んだ。


「お前は、いつも自分を犠牲にする。仲間のためだと言って、自分を追い込む。それは、良くない」


「……」


「お前が倒れたら、現場はどうなる。お前がいなくなったら、俺たちはどうすればいい」


蒼太は黙っていた。


「お前は、俺たちを仲間と呼んだ。だったら、俺たちにも頼れ。お前一人で全部やろうとするな」


バルトの声は、厳しくも温かかった。


蒼太は、小さく笑った。


「……すまねえ。お前の言う通りだ」


「分かればいい」


「明日からは、もう少し休む。約束する」


「約束だぞ」


バルトは満足げに頷いた。


その夜、蒼太は早めに宿舎に戻った。


久しぶりに、ゆっくりと眠りについた。


夢を見た。


父親の夢だった。


足場の上に立つ父親。笑顔で、蒼太を見下ろしている。


「蒼太、お前は立派になったな」


「親父……」


「俺は、お前を誇りに思うぞ」


父親が、手を伸ばしてきた。


蒼太も、手を伸ばした。


指先が触れる——


その瞬間、目が覚めた。


窓から、朝日が差し込んでいた。


蒼太は、自分の手を見つめた。


「……親父」


呟きが、静かに消えた。


今日も、現場が待っている。


蒼太は立ち上がり、作業着に袖を通した。


「よし、行くか」


新しい一日が、始まった。

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