第二話『ドラークは吾輩のメイドである!』
魔王様に萌えてください。
魔王である吾輩は忙しい。
いや、吾輩に限らず、王とは忙しいモノなのぢゃ。
政治・行政、司法・秩序維持、財政・経済管理、軍事・防衛、宗教・文化の後援、財産管理に権威維持__
無論、これら全てを吾輩が一手に引き受けておるワケではない。
最終的な決定と確認は全て吾輩がやっておるが、各部門の大臣共がそれぞれ分担して行なっておるのぢゃ。
吾輩の! 指示で! な!
どうぢゃ? 偉いぢゃろう? 凄いぢゃろう?
吾輩と大臣の中間にドラークの書類の間引きを通しているとはいえ、この若さで吾輩は魔王としてちゃーんと国を回しておるのぢゃ!
褒めよ! 悪魔的な頭脳でカンッペキな采配をする吾輩を褒めちぎるがよいわ!
なに? そこは神的な采配と表現するのではないか、ぢゃと?
たわけ! 仮にも闇に蠢く魔を率いておる邪悪なる魔王が、神聖なる神などと相反するモノの名を口走ってみよ!
口から浄化されて溶けてしまうわ!
そしたらゴハンやお菓子が食べれんぢゃろが!
しかも誰ぞに言われるならまだしも、自分を神とか偉大なるとか、言ってて恥ずかしいぢゃろ! 向けられる視線がイタイぢゃろが! 流石に吾輩でも言わんわぃ!
えっ? 吾輩も似たようなコトを言っておるぢゃと?
たわけ! 吾輩は王様ぢゃから、偉いのは事実なんぢゃあ!
実際、吾輩は偉いんぢゃぞ? 凄いんぢゃぞ?
王様の仕事の合間に、吾輩は歌と踊りの稽古。
お勉強だってちゃんとしておるぞ?
身体もアタマも吾輩は鍛えておる!
ほれ、見るがよい!
むんっ!
……どうぢゃ? このとおり、ムッキムキぢゃろう?
え? 変わってないように見える、ぢゃと? むしろ細いとな?
ふむ……ああ、こっちは利き手ではないからのぅ。ならばこっちはどーぢゃ!
はあっ!
見よ! 吾輩のキンニクをっ! ちゃーんとキンニクを美しく魅せるポーズもしておるぞ!
どーぢゃ、凄いぢゃろう?
おお! アタマを抱えるほどか!
良きかな良きかな! ハッハッハッハッハッハッ!
ふっ……なに、そう恐れずとも良い。このキンニクは、誰かを傷つけるためにあるのではない。
ソレもコレも世界を征服するためにあるのぢゃ!
吾輩は世界征服を成し遂げ、いつか吾輩の元にやってきた勇者相手に『クックックックッ……よく来たな、勇者よ。吾輩の味方になれば、世界の半分を貴様にくれてやる』と玉座に座って言うのが夢なのぢゃ!
ぢゃから、他の魔王や魔族の貴族共が嫌うジミィ〜な基礎体力作りも、文句ひとつ言わずにちゃんとやっておるぞ?
他の連中が嫌うのは、だーれも見てくれんし、泥臭いからのぅ。
まぁ、アホの貴族共はプライドばかり高くてキラキラしたモノが好きぢゃからな。
筋トレとか下々の平民がすれば良いぢゃないざます、おーほほほほ! とか思っておるんぢゃろう。
なるほど確かに吾輩たち『生まれながらの支配者』からすれば、人に評価されるわけではないのに、チマチマ努力するのは恥ずかしいしアホらしい__ぢゃが、その分ちゃんと身にはなる。
__まぁ、そんなことせんでも、魔王は元々強いんぢゃがな! 最強ぢゃからな! 不死身で無敵ぢゃからな!
そんな元々強い魔王である吾輩がムッキムキに鍛えたらどーなるか、貴様でもわかるぢゃろう?
そう! 超! サイキョームテキになるのぢゃ!
何者にも屈しない不死身にしてサイキョームテキの肉体とカンペキな悪魔の頭脳を持つ吾輩を恐れよ! 崇めまくるが良いわ!
ハッハッハッハッハッハッ!
なに? ジミーでキツーイ、ツラーイ、めちゃヤベーイ基礎体力作りを、吾輩はイヤぢゃないのかぢゃと?
たわけがっ! ジミな基礎体力作りをやっておる吾輩かっこいいぢゃろが!
しかも重要な書類を読みながらとか、いかにも仕事が出来ている感があってかっこいいぢゃろう!
……な、なんぢゃ、その呆れたよーな顔は!
ドラークは『流石です、魔王様』と言って笑いながら褒めてくれたぞ? 拍手喝采してくれたぞ?
もちもちした手触りのクマのぬいぐるみもくれたし、お菓子もくれたし、ご馳走もくれたぞ⁉︎
なに? そもそもなんであんな美人で最強種のお姉さんが吾輩のメイドなんかをしておるのか、ぢゃと?
ふっ、たわけ。何度も言わすでないわ!
ソレは! 吾輩が! 魔王ぢゃからぢゃ!
「チェック__はい、どうぞ。魔王様の番ですよ?」
目の前の椅子に座るドラークは言った。
「う、うぐぐ……!」
こやつと吾輩の間に挟んだテーブルにはチェスのボードが置いてあって、吾輩とドラークは午後の中庭の木陰で、このゲームを興じていた。
遊んでおるのではない! れっきとした戦術のお勉強ぢゃ!
「……はっ! こ、ここぢゃあっ!」
吾輩はキングの場所をルークと入れ替えた。
キャスリングというヤツぢゃ!
ふぅ……なんとか首の皮イチマイ繋がったのぅ……。
しかしこやつ吾輩のメイドのクセに、あるじである吾輩の首をとりに来るとはっ!
なんてアブナイやつなんぢゃ!
「流石です、魔王様」
ドラークはそう言って拍手しながら、にっこり笑ってくる。
ふっ……吾輩のメイドとはいえ、それでもキレイなオネーサンに褒められるのは、悪い気はせんのぅ!
「あーっはっはっはっはっはっ! 恐怖せよ! 吾輩が貴様の全てを侵略してやるのぢゃあ! むふ〜んっ!」
吾輩はイスに座りながら、腰に手を当てて踏ん反り返った。
「あらまぁ、恐ろしい__あ、ところで魔王様?」
「なんぢゃ! 命乞いは聞かんぞ! 吾輩は邪悪な魔王ぢゃからなぁ! あはははははは!」
「チェック」
ことり、と。ドラークは吾輩がさっき逃したキングの近くに駒を置いた。
「……は?」
し、しかもこやつはヘンな動きをするナイトの駒ではないか!
い、いかん! 直撃ぢゃあっ!
「なっ……にゃっ……にゃんぢゃとぉおおっ⁉︎」
なんということぢゃ! 他の駒が邪魔をしてキングが逃げれぬ!
最強のクイーンすら動かせない位置……ぢゃと……⁉︎
ば、ばかな⁉︎ 何故ぢゃ⁉︎
吾輩の采配はカンペキぢゃったはずっ……!
「いかがなさいますか? また、やり直しなさいますか?」
にっこりと、ドラークは笑いながら首を傾げる。
「あ、う……うぐぐぐぐぐっ……! も、もう一回ぢゃ!」
「かしこまりました__ですが」
言いつつ取り出した懐中時計を見たドラークは、さっさとチェスの駒とボードを片付ける。
「魔王様、そろそろお昼寝のお時間にございます」
「なっ……こんな悔しい気持ちのままでは、気持ちよくお昼寝なんぞできん! もう一回! もう一回勝負してからぢゃ! 吾輩は吾輩が勝つまでお昼寝しないんぢゃあっ!」
腕を顔の横でぶんぶん、椅子に座ったまま足をバタバタ振り回しながら、吾輩はモーレツな抗議をした。
「左様でございますか……ではお昼寝からお目覚めになられたあとのおやつは要らない、と、シェフに言伝ておきます」
うむ! お昼寝よりもお菓子よりも、吾輩はチェスでドラークを負かしたいのぢゃ!
「しかし残念ですね……今日のおやつは魔王様の大好きな、ハチミツたっぷりのあま〜いあま〜いカボチャのケーキだったというのに__」
__なに? 何故ソレを早く言わんのぢゃ!
「さて__では続きをいたしましょうか、魔王様?」
「あ、う……うぅ〜! や、やっぱり寝る! 寝るから! 寝るからケーキ! ケーキィ……!」
吾輩がそう言うと、なんとドラークは口に手を当てながら「ふふっ」と言って笑い出しよった。
な、なんぢゃ! 何がオカシイんぢゃあっ!
吾輩はケーキが食べたいんぢゃあっ‼︎
「申し訳ございません__では、早速お昼寝のご準備を」
うむ!
お昼寝用の服に着替えた吾輩は、ドラークに連れられてベッドに入った_____
_____ベッドに入って瞼をお閉じになられた途端、魔王様はすぐに可愛らしくも規則正しい寝息を立てられました。
その愛らしさに、思わず手の甲で軽く髪から頬にかけてを撫でてしまう。
起こさないように、わたくしの力で壊さないように、そっと。
気をつけないと、わたくしはこの小さくか弱い存在を壊してしまうから。
モゴモゴと小さく形の良い口を動かされたあと、魔王様はわたくしの名を呟かれました。
「…………っ!」
__ああ、なんて愛おしい御方なのでしょう!
夢の中ですら、わたくしのことを思って下さっているだなんて!
この身は、魂は、我が運命は!
貴女様のためだけにある__!
__わたくしの種族である赫竜は、勝ち続けなければならない運命にあります。
其は象徴。
其は具現。
国の、権力の、信念の__
だから敗北は決して許されないのです。
ですが__わたくしは敗北しました。
魔王コンコルディア・ジ・アークエネミー四世様__
わたくしが唯一敗北し、屈服した御方。
ドラークとは魔王様がお付けになられた名前で、わたくしの個体名は存在致しません。
ですが……そうですね。
しいて言えば、竜の大公というのが、わたくし自身を表す名、でしょうか?
数ある爵位の中で最高位に位置する『大公』の座を持つ我が身は、赫竜の中でも特別に強かった方だったかと。
__傲慢だと、お思いになられますか?
ふふっ……元来、竜とはそういうモノですよ?
わたくし達は、全ての生きとし生ける有象無象の生物共を超越した存在なのですから。
そもそも、大なり小なり竜は全ての生態系ピラミッドの頂点に君臨しております。
食物連鎖の頂点に君臨し、あらゆる生態系に恩恵と破壊をもたらす『最強生物』として、自然界の循環において必要不可欠な存在。
他を圧倒するこの肉体に傷をつけられるなど、あってはならないことなのです。
ましてや下等で弱小な人間ごときに、瀕死の重傷を負わされるなど!
腰掛けていた魔王様のベッドからゆるりと立ち上がったわたくしは、音もなくご寝室から退室しました。
普段は目立ちませんが、わたくしの全身には細かな古い傷が幾つもございます。
コレは誤って異世界のひずみに入り込んでしまった際に、火を噴く鉄の鳥と大砲を背負った鋼鉄の大ガメにつけられたモノ。
わたくし唯一の汚点にして最大の屈辱!
……このわたくしに傷をつけたあのチョビヒゲの軍人は許さない__
ああ、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、竜は傲慢で貪欲です。
竜は一度手に入れた財宝を手放しません。
竜の病と云われる程に、金銀財宝に目が無いのでございます。
その太古から続く原始の欲望に、わたくしは忠実です。
まあ、もっとも……まさかわたくし自身が、ここまで欲深い竜だとは思ってもみませんでしたが__
「ああ……っ」
魔王様__
言うなれば、あの方は原石。
あまねく星々の煌めきよりも、なお強い輝きを放つ宝石__その原石に他なりません。
「ああ……ルディア様……!」
わたくしの宝石。
わたくしの原石。
わたくしの、わたくしだけの財宝。
決して渡さない。
決して離さない。
決して逃がさない__
竜の大公であるこのわたくしを屈服させるだけでなく、ただのメイドとして縛り付けるだなんて……!
なんて……なんて_______
_______屈辱感なのでしょう……っ!
自分よりも小さくか弱いモノに縛り付けられ、その下に従く! こ、この屈辱感っ……!
な、何でしょう? なにかこう__胸の内から、じわじわと熱いモノが込み上げてくるような、切なく甘美な衝動はっ⁉︎
「……ふ、ふ、ふふっ……ふふふふふふ……!」
ああ__あの日、あの時、あの瞬間。
わたくしはきっと壊れてしまったのでしょう。狂ってしまったのでしょう。
責任を取って頂かなくては_____ルディア様には、わたくしに朝から晩まで、頭から爪先、最後の一手のその時まで、わたくしにお世話されるという責任を……__
魔王ちゃまはアホの子、メイドさんは最強でやべー奴です。




