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第六話:嫌な席順

ハクの声は低く、乾いた響きを帯びていた。

 いつもの軽口は影を潜め、細められた瞳だけが鋭く光る。


 森の空はまだ青く、耳に届く鳥の声は妙に遠く、昼間にしては冷たい風が頬をかすめ、背筋を撫で下ろしていった。


胸の奥で、じわじわと静かな恐怖が広がる中、異変が起こる


 先頭を歩くのはフォルとミスティア。ハクは最後尾で、振り返るようにして森の奥を警戒していた。

 やがて、ミスティアの声が小さく震える。


「……あれ、腕……ですかね……?」


ミスティアが指さす先に、白い肌が半ば土に埋もれたように転がっていた。


フォルが咄嗟に身を低くして周囲を見渡す。


「五人……パーティか。時間は、少し経ってるな。魔物の痕じゃなさそうだが……」


ハクは黙々とタグを拾い上げながら答える。


「シルバーが5人分。1人はBランクの構成ってとこだな」


「タグは……まだ死んでない。24時間は以内って感じかな」


彼の目が細くなる。


「嫌な講習だけど、タグの偽装防止で、身につけてる本人の生命が止まれば24時間後錆<ラスト>に変わるんよ」


フォルは頷き、ひと息つくと呟く。


「街に報告入れた方がいいな。……『銀翼』ってとこのクランだ。見た顔が混じってる」


周囲には人の気配も魔物の足跡もない。


アリアは緊張の中、ギルド支給のタブレットを取り出し、通信を試みる。


「……ねぇ、通話が繋がらないんだけど。魔力導線か電波塔、どっちか死んでる?」


フォルが険しい顔で唸る。


「電波塔が落とされたか……でも導線までダメってのは、拠点の供給源が止まってる可能性もあるな。……魔力妨害でも入ってるか?」


「それって、誰かが意図的に通信遮断してるってことですか?」


ミスティアの声が震える。


「戻るか進むか、難しい判断やな……今引き返しても、街に着く頃には夜になる」


ハクが周囲を見渡して言う。


「もう拠点は近い。守りに特化した構造はなのは分かってるだろ? そう簡単に陥ちないでしょ。俺は行くべきだと思う」


フォルが少し考え込んだ後、決断する。


「……進むか」


アリアが眉を寄せる。


「待って、信号弾は? 緊急時は撃てって言われてるじゃない……」


「撃ったら位置バレする上に、魔力の阻害が入ってたらどうせギルドの地図にも反映されん。最後の手段や」


フォルが即答すると、アリアは不安げに唇を噛む。


森の木々がまばらになり、視界が一気に開ける。

 鬱蒼とした森道を抜けた先には、ぽっかりと空いた土の平地が広がっていた。地面には雑草がまばらに生えてはいるが、踏み均された痕跡がそこかしこに残っており、頻繁に人が通っていることを思わせる。


 夕陽が地平線にかかり始め、空は淡い朱色に染まっていた。背後の森に影が差し、昼のぬくもりが引いていくのがわかる。


 その空間の中央に、ぽつんと建っているのがシェルター型の巡回拠点だった。

 無骨な鉄の門は固く閉ざされており、周囲には柵やバリケードが何一つ見当たらない。そこにいる者たちは――隠れようとしなければ、どこからでも狙えるということだ。


 「……すごい堂々としてますね。それに私が滞在した国ではこういう仕組みなかったですよ」


 ミスティアがぽつりと呟く。


 そして、一行の足が止まる。


 「……死体だ」


 フォルの声が低く落ちる。

 拠点から少し離れた地点に、何体かの人影が倒れていた。崩れるようにして横たわった死体の周囲には、野盗らしき男たちの簡素な装備――錆びた短剣、革のポーチ、血の付いたマント――が散乱していた。


 「武装は最低限って感じか……ここに野盗?正気かこいつら薬でもしてたのか?」


 ハクが視線を巡らせながら呟く。屈んで死体に触れ、冷たさと硬直の具合を確認していく。


 フォルは目を細め、死体のひとつに手を触れる。


「……冷たいな。半日以上は経ってる。さっきのパーティは、まだ血が固まりきってなかったな」


 言葉を交わしながら、脳裏で点を線に繋いでいく。


「推測だが……こいつらが拠点を襲った後、街への救援要請に出されたのが、あのパーティかもしれん」


 フォルも辺りを見回す。

 焚き火の跡も、食事を摂った痕跡もない。物音ひとつしない静寂の中に、血の匂いだけがかすかに漂っていた。


 (こいつら野営の装備無いな、別に本体いるか、捨て駒って所か?)


 「この様子じゃ、門は健在ぽいし、あの様子じゃ大丈夫そうじゃない?」


 ハクの言葉に、三人が門を見やる。

 拠点の鉄扉は固く閉じられており、人影もなかった


 「まぁ..それなら良いんだけど」


 アリアが不安げに呟いてる隣でハクはなんだか眠そうにしていた。


「でも……私たちを中に入れてくれるでしょうか」


 ミスティアが不安げに問うと、ハクは肩をすくめた。


「確かに、フードを被った獣人は怪しさしか無いもんな。」

少し意地悪そうな顔でハクは小言を言う


「え?何!笑えないんだけど…」

アリアは言い返そうとするも思い当たる節があるのか


「喧嘩はするなよ?とりあえず俺が先頭に立って、歩く拠点までは誰も武器を絶対触るなよ?ハクは何か異変感じたらすぐ言ってくれ」


フォルは少し困った顔で言うと、ハクはグッと親指を立てて、任せろというジェスチャーをする


拠点の手前で一行の足が止まる。

 門の上部には高台はなく、視界に人影は見えない。


 やがて、風に混じって金属の小さな擦れる音が耳に届く。銃か、それとも弓か——こちらからは見えない位置に身を潜めているらしい。


門の上から、じりじりと視線が降ってくる。

「……シルヴァン・フォルトゥーナだ。シェルターの補給依頼の際に怪我人を見つけて立ち寄った」


名を告げると、わずかな沈黙が落ちた。

返事はなく、夕暮れの空気が冷え込み、互いの呼吸だけがやけに大きく響く。


門上で影が動く。見張りが迷い、誰かに確認を取りに行ったのだろう。

鎖の外れる音が響き、分厚い鉄の門がきしみを上げながらわずかに開いた。


隙間から現れたのは、褐色の肌を持つ細身の女性――デリアだった。

翡翠色の瞳が、鋭くも懐かしげにこちらを見ていた。


「……久しぶりね。よりによって、こんな時に」


短く吐き出すと、視線を仲間たちへと移す。

「このフォルって男は入れて大丈夫。昔から知ってるからね。……他は?説明できる?」


「ああ……三人の身元は保証する。でも、その意識のない怪我人はわからない」


その答えを聞くと、デリアはすぐ背後の冒険者へ視線を走らせる。

合図ひとつで、数人が前に出て怪我人を抱え、中へと運び込んだ。


「中で話すわ。……武器は抜かないで。今の中は、少しでも怪しければ撃つくらい張りつめてる」


低く淡々とした声が、門の向こう側の空気をさらに冷たくした。

旧知の間柄のはずなのに、その声音には一片の甘さもなかった。


分厚い鉄の門をくぐると、途端に空気が変わった。

外の夕暮れよりも冷えた、湿った緊張の匂い。

周囲には冒険者たちが散開し、全員がこちらを警戒するように手を武器にかけている。


地面には乾ききらない血の跡が黒く染みを作り、壁際には負傷者が毛布にくるまれて横たわっていた。

低く抑えた呻き声が、張り詰めた沈黙を一層際立たせる。


デリアは振り返らず、一定の歩幅で奥へと進む。

「まずは状況を共有するからついて来て」


「ねぇ‥さっきシルヴァンって言った?」

アリアはミスティアに小声で聞くが、ミスティアは指を立てて今は黙るように言うのであった


それからフォルたちは無言のまま、その背を追った。

背後で再び門が閉まる重い音が響き、外の空気は完全に遮断された。


通路を進むにつれ、内部の異様さが目に入る。

壁の通信端末は沈黙し、照明の一部は明滅している。

本来は機械で処理するはずの作業が、全て人の手で行われていた。

水汲み、物資運搬、負傷者の搬送――動いている者は皆、焦燥を隠せない表情だ。


それでも、侵入を受けた痕跡は見当たらない。

武器庫も扉が閉ざされ、守備隊は所定の持ち場を守っている。

外部の混乱とは裏腹に、この内側はぎりぎりの秩序を保っていた。


やがてデリアは小さな会議室の扉を開け、短く告げた。

「座って。……説明する」


デリアは扉を閉めると、壁に背を預け、短く息を吐いた。

「……結論から言うわ。中までは侵入されてない。けど、肝心なところをやられた」


フォルが眉をひそめる。

「肝心なところ?」


「通信設備と、物資の一部が破壊された」



淡々と告げる声に、室内の空気がさらに重く沈む。近くの壁際では、負傷者の吐息がかすかに響き、薬草と血の匂いが混じって鼻を刺した。


「……偶然にも、あんたたちが持ってきたシェルター支給品があるなら、時間はかかっても通信は復旧できるかもしれない。敵の妨害装置――ジャマーさえ破壊できれば、の話だけど」


ハクが腕を組み、片眉を上げる。

「その口ぶりだと……中にネズミ(内通者)がいるみたいだな。そいつはもう割れてるのか?」


デリアの目がわずかに細くなる。

「残念だけど、まだ見つかってない。今、拠点には十三人。うち六人が負傷者、医療スタッフが二人。残り五人が戦闘要員……ネズミが何匹紛れてるかもわからない」


淡々と数を挙げながらも、その声には低く押し殺した苛立ちが混じっている。


「私が信頼できるのは二人。他は滞在が日が浅かったり、偶然居合わせただけの者ばかり」


その言葉に、アリアが小さく息を呑んだ。

デリアは机の端に手を置き、フォルをまっすぐ見据える。

「……見知った顔が増えるのは、悪くないことね」


デリアの言葉に、フォルはわずかに目を細めた。

「……外の状況も話しておく。俺たちはシェルターに補給品を運んでいた途中で、あの怪我人を見つけた。あいつはシェルター内部で倒れていたが…不自然ではあった」


「それからしばらくして≪銀翼≫のメンバーが5人倒れてた」


「ここから出たのはその5人でタグの色も一致している。偽装タグの件は連れてった2人が調べてるはず」

デリアが眉をひそめる。


「痕跡が全然無かった。」


フォルは淡々と続ける。


「それと、野営の痕跡はなかった。」


デリアは腕を組み、低く息を吐いた。

「施設内部が破壊されたのは襲撃の直前よ。タイミングを合わせてきてる。内部の被害で手が回らない瞬間を狙われた」


「そうだな。痕跡をほとんど残してなかったからな」


「情報は助かるわ。こっちも内部の状況を整理してるところ。……ただ、来るなら今晩から朝のうちかな。あなたたちの存在に気づいてるならね」


「そもそも、あんたがシェルターの補給?……見かけない顔ぶれ3人は新入りって所?」


「2人は新入りだぞ、シルヴァンに急に言われてな……こっちの男は元々来るはずだった奴の代理?らしい。まぁ……俺も昨日はじめましてだったけど。腕は良い」

フォルは隣に座って居たハクの肩を軽く叩く。


三人の身元は俺が保証する。ただし、怪我人はわからない」


「昨日?」

デリアの眉がわずかに動く。


「ああ。昨日初めて会ったばかりだが、腕は確かだ」

フォルは横目でハクを見る。


「……名前は?」

「ハク──」

「年齢は?」

「え、えっと……」

「出身は?」

「ちょ、質問早すぎだって!」


畳みかけるような質問に、ハクは額に手をやって困ったように笑う。


その瞬間、アリアが机を軽く叩いて割って入った。

「そう!こいつ、不審者で!勝手に席に座ってきて、あたしとミス姉を餌付けして飼い慣らそうとしてきたの!」


「いやいや! 言い方悪いって! どこでそんな悪い言葉覚えてきたの?……良い子にしてたら、後で飴ちゃんあげるからさ、落ち着いてよ」

ハクは思わず身を乗り出すも途中から、アリアを完全に子供扱いして遊んでいる。


「なに!? 馬鹿にしてるの? ……あたし、子供じゃない!」

アリアは机越しに勢いよく身を乗り出し、頬をわずかに赤らめながらハクを睨みつけた。


「それに事実じゃないよねぇ、フォル?」

アリアはジト目でハクを射抜く。


フォルは小さく肩をすくめた。

「……まぁ、そういう一面はあったな」


「いやーさ!? ここ味方してくれないと、外に追い出されちゃうよ!」

ハクは両手で頭を抱えた。


冷たい翡翠の瞳がわずかに笑ったように見えた。

その瞬間、短い沈黙が落ちる。机の上のランタンの炎が揺れ、影が壁を滑った。


「今晩は二人一組で見張りを回すわ。フォルはミスティアと、ハクはアリアと」


「……っ!」

アリアは一瞬絶句し、ハクの脛を蹴った。

「嫌よ!」


「なんでだよ!?」

ハクは一拍置き、肩を落とす。

「……俺だって嫌われたくて生きてるわけじゃないぞ」


「戦力のバランスと、どうせだし新入りの慣らしを兼ねるの。それに……あんた達、息が合ってるように見えるわ」


デリアはそう告げると、笑みを引っ込め、再び真面目な顔に戻るのであった。




※本作は一部にAI支援による描写補助を含みます(戦闘描写・用語の検証・構成整理など)。執筆・編集・全体設計は作者本人が責任をもって行っており、AIは補助的な道具として活用されています。

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