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第三話:新たな出会いと路地裏の情報屋


森での激戦から一夜明けた朝、アルケインはフォルの案内で、とある宿の一室で目覚めていた。


宿の名は《串刺しニックの墓場》。その外観は、まるで廃材を寄せ集めたような鉄板だらけの建物で、最初は倉庫か廃墟かと見間違えるほどだった。


だが、二階と三階の間には巨大な生物の頭蓋骨がぶち抜かれており、その額にはジョッキを持った女性の絵が描かれた看板が掲げられていた。


(酷いコンセプトだな)


そう呆れながらも店内に入ると、意外にも内装は清潔で、古びた木材の温もりと香辛料の香りが混ざり合っていた。


カウンターには黒いエプロンのスタッフが立っていたが、先に声をかけてきたのは血の染みついたナース服を着た、妙に陽気な女性店員がいた。


「いらっしゃいませー! 本日のオススメは、黄泉がえりスープと、とれたて新鮮! イカしたニックの首飾りでーす!」


その甲高い声と容器の異様さに、アルケインは一瞬たじろいだ。彼女の手にあったのは、奴隷の首輪を模した金属の容器に、赤黒い肉塊と不自然なほど白いチーズが盛られていた。


(……なんなんだこの街は)


悪趣味と風刺の進化形のような店に苦笑しつつ、アルケインはすでに注文していたチーズと厚切り肉のサンドを口に運んだ。味は意外にも悪くなかった。


食事を終えた頃、フォルが現れた。


「調子どうだ?」


「声を聞いてようやくわかった。昨日は半分マスクで隠れてたからな。傷はどうだ?」


「エーラのとこの治癒師が良い腕しとるわ。見ての通り、もう動けるで」


二人は軽く言葉を交わし、冒険者ギルドへ向かった。


ギルドは木造四階建ての大きな建物だった。門には屈強な男たちが無言で立っていた。中へ入ると、木の香りと柑橘の匂いが混ざり合い、朝から依頼者と冒険者の声が飛び交っていた。


その中央で指揮を執っていたのは、金髪のエルフ、シルヴァン。

ギルドマスターである彼女は、フォルの姿を見つけるや否や、迷いなく歩み寄ってきた。


「フォル!」


「こんなとこで話しかけんのはやめろよ。……今は立場あるやろ」


シルヴァンは笑って肩をすくめた。


「紹介したい奴がおってな……」


フォルは嫌な予感がして強引に話を進めようする。


そう言った瞬間、シルヴァンもほぼ同時に言葉を重ねた。


「紹介したい人がいるの」


その言葉が綺麗に重なり、一瞬の沈黙ののち、二人は顔を見合わせて苦笑した。


「……気色悪いな」


「変な事も起きるもんね」


「それで……紹介したい人ってのは?」


フォルの問いに応えるように、シルヴァンが手招きをすると、奥から二人の少女が現れた。


ひとりは金髪の少女。素朴な装いの中にも、どこか育ちの良さを感じさせる立ち姿。そしてもうひとりは、深くフードを被った獣人の少女。やや身を屈め、明らかに機嫌が悪そうな顔をしていた。


「ミスティアとアリア。どちらも冒険者よ。しばらくパーティ組んで欲しいのよ」


フォルは小さく眉をひそめた。


「えっと、はじめまして……ミスティアって言います」


ミスティアは緊張した様子で、少し背筋を正して頭を下げた。その隣の少女――アリアは不満げに鼻を鳴らし、腕を組んだまま何も言わなかった。


「こっちで拗ねてるのが、アリアです!」


ミスティアが苦笑交じりに補足する。


「詐欺よ、こんなの……。説明もなくいきなりこっちに連れて来て、何でこんな話なってんの……」


「おいおい、俺ら野良やぞ。人員募集しているクランはあるから、そっちにしろよ。」

フォルが苦笑している。


そんなやりとりを横目に、ミスティアが遠慮がちに問いかける。


「えっと……クランって、入った方がいいんでしょうか……? まだ決めかねてて……」


「ん。まあ、無理に入るもんでもない。ただ、クラン所属ならギルドからの補助や信用も付きやすい。国をまたぐ仕事でも有利になることが多いな‥俺も所属してないけど」


「ん?クランって人数足りてないし、所属してないぞ」

フォルは不思議そうにシルヴァンに尋ねると


「ネアいるんでしょ?今。これで5人」


「あいつは本業医者やし、違うぞやろ」


フォルは呆れた様子で説明する。その間、アルケインは後ろで何かを見つめていた。


(どうなっている?聞いてた情報と違うぞ)


「……ちょっと、外の空気を吸ってくる」


短くそう言って、アルケインはギルドホールを後にした。

フォルが咄嗟に呼び止めようとしたが、その背中はすでに扉の向こうへと消えていた。


「ん?アル?待ってくれ!」


フォルは慌てて追いかけて行った。

朝の空気がまだ残る路地に出ると、湿った木材と土の匂いが鼻をくすぐる。アルケインは無言のまま歩きながら、薄く口を引き結ぶ。


(確認が必要だな、あの野郎。)


彼は一度立ち止まり、ギルドの扉を見返すとフォルが走って来た。


「悪い、想定外の話でな。人と会う予定あるって言ってたけど時間大丈夫か?」


「ああ、まだ大丈夫だ。まぁ、必要な手続き終われば直ぐに向かう。」


二人は数秒だけ逡巡ののち、軽く息を吐いて戻っていった。

ギルドホールでは、先ほど紹介された二人の少女――ミスティアとアリアが、わずかに所在なさげに立っていた。そんな空気を読んだのは、しれっと現れたシェードだった。


「……シェードって言う。何が起きてるか分からないが、あれは拒否権無さそうだしな。ギルマスに呼ばれたと思ったらこれだ。」


淡々と、だが少しだけ気遣うように言葉を投げかけた。


「あ、えっと……ミスティアって言います! まだ、よくわからないことばかりで……」

ミスティアは少しだけ安心した様子で応じた。


隣のアリアはまだ不機嫌そうだったが、それ以上は何も言わなかった。


するとその時、扉が再び開いた。


フォルが先に入り、後ろにアルケインが続いていた。二人とも表情に大きな変化はなかったが、フォルはわずかに気まずそうにシルヴァンを見た。


「戻ったぞ。……」


シルヴァンはフォルとアルケインを交互に見たあと、ぽつりと尋ねた。


「……もしかして、さっきの“紹介したい人”って、この人?」


「まあ、そういうことになるな」


フォルが肩をすくめた次の瞬間。

パンッ、と音を立ててシルヴァンが手を叩いた。


「これで五人。仮登録でクラン結成、完了ね」


「おい、待て!」


フォルの抗議も空しく、すでにシルヴァンは事務手続きの職員を呼び寄せていた。


「ちょっと待ってくれ! そいつはまだ本人の意思を――」


「大丈夫よ、どうせ探す事なるんだから」


その言葉にフォルは顔をしかめ、アルケインも視線を逸らしていた。


(……完全に巻き込まれたな)


ミスティアはきょとんとしたまま視線をさまよわせていたが、アリアは苛立ちを隠そうともしない。


「は? はぁ? 勝手に決めないでよ!」


「私たち、まだ何も決めてないんですけど……!」


ミスティアも、少し困ったように声を上げた。


そんな空気を察し、シェードが前に出た。


「俺もよく分かってないんだが、アルケインってやつは昨日初めて会ったんだが、普段よくパーティを組む連中はネアって奴とヴェールってのがいる‥‥ヴェールは気をつけた方が良い、、」


「……あ、はい。よろしくお願いします」


ミスティアは反射的に頭を下げた。アリアは肩を竦めていたが、それ以上は何も言わなかった。


そんな中、ギルドホールの奥がざわつき始める。


数人の冒険者たちが、昨日の名名付き(ネームド)討伐に関する噂を交わしており、その内容が徐々に広がっていた。


「……」


アルケインは短くため息をつくと、フォルにだけ聞こえるよう低く告げた。


「必要な手続きは頼んでも良いか?用事を済ませてくる。昼には戻る。」

フォルは困ったような表情で頷いた。


「ん? ああ、悪いな。受付に話つけとく。お前は例の奴に会いに行くんやろ?」


「ああ」


そうしてアルケインは、周囲の喧騒から一歩だけ距離を取るように、ギルドホールを後にした。


ギルドの外は、朝の喧騒がまだ色濃く残っていた。通りを歩く人々のざわめきと、遠くで響く商人の呼び声。


アルケインは一度、細い路地へと足を踏み入れた。目指すのは、この街で最も信用ならないが、目的である情報屋の一人──ハク。


彼の目が、警戒心と疲労の混じるような鋭さを帯びたまま、暗がりへと沈んでいく。

路地裏。入り組んだ通りの奥、陽が差し込まない場所で、ひとりの男が紙幣の束を数えていた。


くたびれた外套に身を包み、顔には神経質そうな疲労の色。男の名はハク。情報屋――だが、その手つきは見た目と裏腹に手慣れていた。


「ったく、誰もかれもケチりやがって……これじゃ酒代にもなんねぇ」


ぶつぶつと文句を垂れ流し、周囲に誰もいないのを確認してため息をついたその瞬間。


「……なあ、仕事はしてるんだよな?」


低く、冷えた声が背後から響いた。


「……え? ん? セ……」


「アルケインだ。」


何の気配も感じなかった。だが、肩に触れた手は確かにそこにある。振り返ることもできず、ハクは固まった。


アルケインはその様子を見て、感情を押し殺すように告げた。


「色々聞きたいことがある。……俺が聞いてた話と、現実が全然違うってのは言わずともわかってるはずだ」


その一言に、ハクは一瞬で顔色を曇らせる。


「あー……いや、その、なんていうか……色々? あるというか……?」


言い淀みながら、指先で空気をつまむような動作を繰り返す。


「そもそも俺、現場に直接干渉できる立場じゃないっすから。情報流すだけの係っていうか……な? あくまで、裏方で、んで、その……状況ってすぐ変わるじゃないっすか?」


「つまり――役に立たなかったってことだな」


「ちょ、それ言い方ァ……!」


アルケインの視線が鋭くなると、ハクは即座に口をつぐんだ。苦笑を浮かべようとしたが、顔の筋肉が引きつるばかりだった。


「……まあまあ、落ち着いて。報酬の話なら、ほら、今度良いネタあるんで! これ以上はタダにしときますって!」


「タダで済むなら、今ここに立っていないだろう」


淡々とした声が返される。


「うぐっ……」


ハクは、視線を泳がせながらも、ようやく観念したように言葉を絞り出した。


「……わかったよ。話す。今ある情報、全部出す。後でおかわり請求とかナシで、頼むよ……な?」


アルケインは答えず、小さく顎を引くだけだった。


その沈黙が、どんな返答よりも重たく響いた。


しばらく話し合った後、ハクは壁に背を預け、アルケインの無言を怖れるように数歩距離をとった。


「……で、これからどうする? 戻るのか?」


「昼までには顔を出す。話の途中だったからな。少し、長引きそうだったんでな。」


「へえ……じゃ俺はこれにて」


そう言って背を向けかけたハクの襟元を、アルケインの手が無言で掴んだ。


「今更だ。責任、取れ」


「……マジかよ……」


ハクは肩を落としながらも、諦めたようにアルケインの隣に並ぶ。


二人はゆっくりと歩き出す。朝の空気が少しずつ熱を帯び、街のざわめきが広がっていく。


「ハク。……黙って、聞いていればいい」


「はいはい、了解。無茶ぶりだってわかってるよ……ね」


ため息交じりに答えながらも、どこか安心したような響きがその声にはあった。

やがて、二人はギルドの前までたどり着く。


扉の向こうからは、にぎやかな声と、何やら小さな衝突の気配が伝わっていた。

だが、フォルたちの姿は見当たらない。


「……もう二週間だぞ! なんでまだ帰ってこないんだよッ!」


ギルド受付前で、中年の冒険者が胸ぐらを掴んで怒鳴っていた。相手は若い受付嬢。涙目で言葉を絞り出そうとしている。


「その……元々、ランクの高い依頼でして……人員は今も……探しているのですが……」


その背後には、ガタイのいい男がひとり。止めるに止められず、右往左往していた。


周囲の冒険者たちも様子を伺って騒ぎ始め、ギルド内は一気にざわつき始めていた。


アルケインは黙ったまま、その光景を眺めていた。


隣のハクが視線に気づいて口を開く。


「……何でも知ってると思うなよ? まぁ、あそこのクランの数人、最近見かけてないのは事実だけどさ……」


「ちょうどいい。お前、どうせ暇だろ?」


「……マジかよ……ほんと勘弁してくれ……」


小さくため息をつきながら、ハクは渋々アルケインのあとを追った。

アルケインはギルド嬢の前へ静かに歩み出ると、無言で傭兵タグを差し出す。


「足りるか?」


その一言に、涙目の受付嬢はぽかんと目を見開き、次の瞬間――目の前の中年男の鼻先を拳で殴りつけた。


「確認してきますっ!」


叫ぶように言い放つと、受付嬢はそのまま奥へと走り去った。


※本作は一部にAI支援による描写補助を含みます(戦闘描写・用語の検証・構成整理など)。執筆・編集・全体設計は作者本人が責任をもって行っており、AIは補助的な道具として活用されています。


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