可哀想な子が好きなんです
セラシア・フリドランは可哀想な子が好きである。
もっと具体的に表現すると、我慢強いけど、内心では周囲の愛情に飢えている、自身の婚約者、レンディール・ アスフェルのことが、大好きなのだ。
アスフェル王国の第三王子であるレンディール(彼女はレンと呼んでいる)は、王太子、第二王子の二人の兄とは違い、母親が側妃だったため、王妃に母親ともども、蛇蝎のごとく嫌われていた。
そのせいで、れっきとした王族だというのに、王宮内での立場は、下男下女たちよりも劣っていた。
セラシアはフリドラン伯爵家の次女であり、王妃の実家の遠い親戚である。
そんな彼女にレンディールの婚約者として白羽の矢が立ったのはなぜなのか。
王妃が、彼の婚約者を決めるとき、彼の立場が強まらないよう、手を回したからである。
さて、身の上話を長々としてても仕方がない。
とにかく、セラシアは婚約者として選ばれた八歳のときから、八年後の今日まで変わらず、レンのことが大好きなのである。
顔合わせの日、レンと出会ったのは王宮の片隅だった。側妃様が亡くなった直後で、まだ十歳だった彼が、王宮の隅で静かに泣いていたのを覚えている。
セラシアと目が合った瞬間、涙を引っ込め、無表情になった彼が懐かしい。
婚約者だと自己紹介したとき、ぎこちない笑顔を見せてくれたのが嬉しかった。
セラシアが王妃の親戚だとバレて、それまで仲良くしてたのに、途端に素っ気なくされたときは、憎らしい人だと恨んだ。
だけど、その行為も孤独の中での自己防衛だったのだと思うと、そんな彼も愛おしかった。
レンの味方は私しかいない。
だからこそ、こんな場所で死んでなるものか!
走馬灯のように、これまでの記憶を辿っていたのはなぜか?
セラシアが現在進行形で、命の危機に直面しているからである……。
◆◆◆
アスフェル王国が存在するこの世界には、魔物の領域が突如発生することがある。
通称「巣」と呼ばれるその領域には、人を害する動植物が発生し、領域内に入った人間を容赦なく養分とするのだ。
巣の内部は「巣の主」によって複雑に変化し、主を倒すまで元に戻ることはない。
お気づきかと思うが、セラシアはその突如発生した巣の内部に、多数の人たちと一緒に巻き込まれてしまったのである。
アスフェル国立庭園だったこの場所は、今では奇怪な動植物が蠢く、魔境と成り果てていた。
巣の主はどんな姿をしてるのか未知数であり、片っ端から蠢く動植物を倒していくしか方法がない。
巣から逃げ出すだけなら、目の前の敵を倒し、庭園から抜け出せばいいだけなのだが、どのくらいの国民が巻き込まれたのか分からない今、セラシアだけ逃げ出すなんてことは、考えられなかった。
自身の近くで、同じように巣の発生に巻き込まれた、数人の国民を纏めて、安全そうな位置に移動した。
移動中に心を占めていたのが、先程の思考というわけである。
◆◆◆
この後、なんだかんだ色々、紆余曲折を経て、レンディールが巣狩人として、助けにきてくれたおかげで、セラシアは死なずに日常に戻ることができ……なかった。
とにもかくにも、要するに彼女は彼が大好きだということである。
お読みいただきありがとうございました。
「巣狩人」という物語のセラシア視点でした。
巣内部での紆余曲折は、本編でいつか書けたらと思います。
「巣狩人」本編も、ある程度書けたら投稿したいと思ってます。
本編主人公はレンディールです。