第七章:嬉しさと切なさ
その日は全然仕事に集中出来なかった。
ミスばかりしてしっかり者の愛菜に心配された。
「…どうして、こんなに胸がざわつくんだろう…」
駅までの帰り道、歩くたびにコートのポケットの中で付箋がカサカサと音を立てる。
何気なくもらったはずのお菓子と、その上にちょこんと貼られていたあの付箋。
“ またご一緒できる日を楽しみにしています。佐藤友也”
手書きのその文字に、心臓が跳ねた。
丸くて、ちょっとクセのある字。まるであの頃と、同じ。
「まさか……嘘でしょ……」
小春は立ち止まり、ビルの隙間から見える夕焼けをぼんやり見上げた。
春の風がそっと頬を撫でていく。あの時の、あの図書室の匂いと重なった。
思わずスマホを取り出し、職場の人事メールを開く。
——《新任の佐藤友也係長が今月より営業企画課へ配属されました》
あった。そこに、しっかり名前が書かれていた。
「佐藤……友也……」
声に出した瞬間、全身が震えるような感覚に包まれる。
遠い記憶の奥底から、彼の声、彼の笑顔、そして——
あの日渡された、読めなかったLINEのIDが蘇る。
「…あの時、ちゃんと読めてたら、何か変わってたのかな…?」
後悔にも似た思いが胸を締めつける。
けれど、それ以上に心が騒いでいたのは——
“今また、彼に会えたことが…嬉しくて、仕方ない”