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第五章:友也目線・その日の朝
異動初日。
もう慣れたはずのスーツの襟元が、やけに重く感じる。
「……そろそろ来る頃だよな」
机の片隅に残したお菓子と、付箋のメッセージ。
何度も書き直して、結局、たった二行にまとめた。
── “神崎さん、お身体大丈夫ですか?
お会いできず残念でしたが、またご一緒できる日を楽しみにしています。”
——あの頃と、同じやり方。
ノートに言葉を残したあの放課後と。
…もしかしたら、気づいてくれるんじゃないか。
そんな、淡い期待がどこかにあった。
チラ、とデスクの方を覗くと
彼女が、じっと付箋を見つめているのが見えた。
小さく揺れる肩。動かない指先。
そして——こちらに向けられた視線。
……気づいたんだろうか。
懐かしいあの目に見つめられて、
言葉じゃなく、呼ばれた気がした。
——おかえり、って。