第二十三章:臆病の心
その頃、小春と愛菜は話の真っ最中だった。
「で? 結局その付箋の“気持ち”ってなんですか?」
カフェの窓際の席で、サンドイッチを頬張りながら
愛菜がぐいぐいと小春に迫ってくる。
小春はストローでアイスカフェラテをかき回しながら
視線をグラスの中に落としたままだった。
「べつに、大したことじゃないよ。
なんか、ふっと浮かんだだけで……」
「ふーん? でもあいな知ってますからね。
小春先輩、絶対誰か好きな人いるでしょ?」
ぐっと核心を突かれ、小春の手が止まる。
唇が何かを言いかけて、でも、すぐに閉じられた。
(言えるわけ、ないじゃん……)
ずっと、胸の奥で温めてきた気持ち。
でも、それは“叶わないもの”だと知っている。
だって——先輩には彼女がいる。
しかも、きっとあの人は先輩にふさわしい人。
きれいで、頭もよくて、細くて……。
「……あのね、愛菜」
小春がぽつりと呟くように口を開くと、愛菜が顔をぐっと寄せた。
「えっ! なに? やっぱり恋ですか?? 恋の話ですか?」
「……でも、上手く言えないんだ。
ちょっと……複雑で……」
小春の声がしぼむ。
「……もしかして、甲斐部長ですか?」
「えっ?」
「いや、だって最近よく二人で話してるの見るし
今朝だって給湯室から一緒に出てくるの見たし——」
「ち、ちがうよ!? ぜんぜん、そういうんじゃ……!」
慌てて声を上げた小春に、愛菜がじと目でにやにやと笑う。
「でも、甲斐部長……タイプだったりします?
無愛想な年上男子って、じわじわ来ますよね〜。
“好きな子には優しい”みたいな。」
「そ、そんなこと……ないよ、べつに……」
目を泳がせながら答える小春の頭の中には、
違う人の笑顔を思い浮かべていた。
(違うよ……そうじゃないの)
だけど——その気持ちを言葉にするには、
まだ心が少し、臆病だった。




