第二章:~午後の図書室~回想
静かな放課後の図書室。窓から差し込む春の陽が、本の背表紙を柔らかく照らしていた。
小春はいつもの机にノートを広げ、今日も“あの人”を待っていた。
図書委員を始めたのは、高校に入ってすぐのことだった。
本の匂いが好き――ただそれだけの理由だったけれど、
正直、少し退屈だなとも感じていた。
同じ図書委員の先輩は2つ上の3年生。佐藤友也先輩
普段は軽音楽部に所属していて、受験生ってのもあって
ここには滅多に顔を出さない。
しかし、今日は珍しく来た。
ゆっくり扉を開けて入ってくる先輩を
小春は横目で捉えながら、高鳴る胸を押さえた。
先輩は近づいてきて、軽く手を上げて挨拶をしてくれる。
小春も、同じように会釈で返す。
そして、先輩は隣に腰を下ろし、後ろポケットからそっとスマホを取り出して画面を眺めた。
いつもと同じ――隣にいても、言葉はない。
だけどその沈黙が、ぎこちなくて、少しだけ嬉しくて。
静けさに紛れて、心だけがそわそわと音を立てていた。
図書室での当番中は、基本的に声を出すのはルール違反。
だから小春と先輩の会話は、いつもノートを通してだった。
それが二人だけの、ちょっと特別なやり取り。
聞こえるのは、時計の針が進む音と
ページをめくるかすかな音、
それと――隣から聞こえる、先輩の静かな息づかい。
小春はそっとペンを取り、ノートの片隅に文字を走らせた。
「今日の推薦図書、なんですか?」
返事を想像しながら、そっと先輩の横顔を盗み見る。
彼はスマホから目を離し、小春のノートを覗き込むと
ペンを手に取り、静かに一言だけ書き残して席を立った。
「今日の推薦は、春の匂いがする詩集です。」