第十五章:自分じゃない他の人誰か
その帰り道で
小春はあの日事を思い出していた。
昼下がりの図書室で先輩が残した言葉を、
何度も目でなぞる。
「春の匂いがする詩集です」
たった一行。
でも、小春にとってはそれが今日一日の宝物になった。
本棚を見渡しながら、詩集のコーナーに足を向ける。
どれだろう、春の匂いって――
指先で背表紙をなぞっていくと、不意に少しだけ引き出された一冊が目に留まった。
『春に』 谷川俊太郎。
他の本だけほんの少しだけ前に出ている。
まるで「ここにいるよ」と小春に呼びかけているようだった。
小春はそっと手に取り、ページを開いた。
柔らかい紙の感触と、インクの匂い。
春の空気のように淡くて、でも確かにそこにある言葉たちが
胸の奥をゆっくりと揺らす。
「この気もちはなんだろう
目に見えないエネルギーの流れが
たしかにぼくの中にある」
――これは、わたしのことだ。
そう思った瞬間、胸の奥がキュッとなった。
ページの後ろに、図書カードが挟まれている。
ふと目をやると、そこに記された名前が目に入った。
「佐藤 友也」
先輩が、以前この詩集を借りていた!!
あの人も、この詩を読んだんだ。
そして、きっと覚えていた。
“春の匂いがする詩集”がどれなのか、わたしに見つけてもらえるように
そっと仕掛けてくれていたんだ。
その優しさに、気づけたことが、嬉しかった。
まるで春の風が、心の中にふわりと吹いたようだった。
小春は、静かにページを閉じた。
“あの人”が選んだ言葉たちが、じんわりと心に染みていく。
――この気持ちは、なんだろう。
きっとまだ、名前のない気持ち。
だけどそれが、これから少しずつ形になっていくような、そんな予感がした。
あれから数週間、先輩は図書室に来なかった。
心配になって勇気を出して3年生の校舎に向かった
少し離れた場所から先輩の姿が見えた!
嬉しくなって声かけようとした時
「友也~理科の教科書貸して~」
ハーフアップのロングヘアを靡かせながら
先輩かけよる女の子が見えた。
「夏海、お前また忘れたのかよ!!」
「忘れてないよ~重たいから持って来なかったの!」
と可愛い変顔をする彼女を
先輩はやれやれという目で見つめていたが
教室に戻って自分の教科書を取り彼女に渡した。
「貸し2な!!」
「分かってるよ~
も〜後でお昼一緒に食べてあげるから
貸し1にしてね~!バイバイ~」
と手を振って走り去って行く彼女は
先輩の教科書は大切そうに抱きしめていた。
2人は普通の関係ではない
誰が見ても分かる。
小春のその場から動けなかった。
何故なら2人が凄くお似合いのカップルだったから
身長差も完璧で、スタイルが良てスラッとした彼女の姿が忘れなれなかった。
小春はこの時あの詩集は先輩がこの人に寄せた想いだと気づいた。
少しでも期待した自分がバカバカしくなった……




