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第十四章:先輩の彼女

「……あ、やば。スマホ、デスクに置きっぱなし……」


小春は一人、暗くなった事務所のドアをそっと開けた。

誰もいないと思っていた室内から、小さな声が聞こえる。


「あれ……?」


立ち止まる。

人の気配がする。電話の声だ。


「大丈夫だって、心配しすぎだぞ。

俺もいい大人だから、安心しろよ」


その声は、佐藤先輩だった。


慌てて戻るつもりだった足が、止まる。


盗み聞きなんてするつもりじゃなかった――

でも、足音を立てるのもためらわれて、身動きできなくなる。


「うん、うん……わかった。アパートのダンボール片付けたら、夏海に連絡するから」


“夏海”。


その名前に、小春の胸がぎゅっと締めつけられた。


あの人だ、

夏海って、きっと、あの人のことだ。


高校の時の、先輩の彼女……


電話の声は、やがて遠ざかる。

先輩はどこか別の部屋へ移動したのかもしれない。


小春はそっと中へ入り、自分のスマホを手に取る。


何も見なかったふり。

何も聞こえなかったふり。


でも、胸の中だけはごまかせなかった。


「……そうだよね、彼女いたんだもんね……」


心の奥に、詩集の一節が浮かぶ。


「よろこびだ しかしかなしみでもある」

「いらだちだ しかもやすらぎがある」

「あこがれだ そしていかりがかくれている」


小春は静かにスマホを握りしめ、誰にも気づかれないように事務所を後にした。


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