第十三章:友也の目線・嫉妬
「じゃ、また後で」
そう言って小春の前を通り過ぎたあと、
佐藤友也は気づかれないように、そっと息を吐いた。
――笑えてたか?
――変に見えなかったか?
胸の奥が、もやのようにざわついていた。
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少し前。
営業の挨拶を終えて会社に戻る途中、
角を曲がった先で見かけたのは、定食屋から出てくる二人の姿だった。
神崎小春と、甲斐直人部長。
部長が一歩先を歩き、小春が少し後ろからついていく。
あの距離感に、変な想像をするつもりはなかった。
でも――
小春が、笑っていた。
誰かと一緒にいる時の顔って、案外その人の「今」が出る。
あの時の彼女の表情が、自分には見せたことのないものだった気がして、
喉の奥に何かが詰まるような気がした。
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「……いい顔してる、か」
さっき自分が言った言葉が、ブーメランのように胸に突き刺さる。
小春ちゃん。
いつの間に、あの人に……?
それとも、もうずっと前から、あの人のことを……?
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考えすぎだって、わかってる。
ただの部下と上司。
きっと、たまたま。
でも、ほんの少し早く俺たちが会えてたら――
そんな「もしも」が、何度も頭をよぎる。
佐藤は一度だけ後ろを振り返った。
エレベーターの前で立ち止まっている小春の姿が、小さく見えた。
「……俺、何してんだろ」
口に出した言葉は誰にも聞こえないまま、
佐藤は足早に、その場を去った。




