第十二章:短い会話
昼食を終えた小春は、少しだけ気持ちが軽くなっていた。
甲斐部長との会話は多くはなかったけど、無言の時間が、どこか安心できた。
「……少しはマシな顔になったな」
会社のビルが見え始めた頃、部長がぽつりと呟いた。
小春は苦笑しながら、小さくうなずいた。
「すみません、いつも心配かけて……」
「別に、心配なんてしてねぇよ。部下の様子を見てるだけだ」
そう言いながら、甲斐部長は会社の自動ドアの前で足を止めた。
「俺、コンビニ寄ってく。先戻ってろ」
「あ、はい。ありがとうございました。ごちそうさまでした」
小春はぺこりと頭を下げて、ビルの中へと足を進めた。
エレベーターに向かおうとしたその時。
ちょうど向こう側から歩いてきたのは、見慣れた姿だった。
佐藤先輩。
スマホを見ながら歩いていた彼は、ふと顔を上げ、小春に気づく。
「あ、小春ちゃん」
名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた。
「さ……佐藤先輩」
咄嗟に返した声が少し裏返る。
先輩は少し笑って、それを誤魔化すように言った。
「外でお昼してたの?…なんか、いい顔してる」
「えっ」
「さっきまでちょっと元気なさそうだったから。……あ、ごめん、変なこと言った?」
「い、いえ……」
動揺する小春とは対照的に、先輩はいつも通りの柔らかい表情で、自然に話しかけてくる。
「じゃ…また後で」
軽く手を振って、先輩はそのまま通り過ぎた。
凄く短い会話だったけど、先輩と2人きりで話せた事が嬉しかった。
小春はエレベーターの前で立ち止まったまま、しばらくその背中を見送っていた。




