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第十一章:お父さんのような存在

会社近くの定食屋。

お昼時を少し外した時間帯で、店内は落ち着いていた。


「……焼き魚定食でいいか?」


メニューも聞かずに店員に告げる甲斐部長に、小春は小さく笑った。


「部長、勝手に決めた〜」

「お前、毎回それしか頼まねぇだろ」


思わず笑みがこぼれる。

たったそれだけのやりとりなのに、少しだけ肩の力が抜けた。


料理が運ばれてくるまでの沈黙。

気まずくはないけれど、何か話さなきゃと焦る自分もいる。


「……なんか、ミスばっかりしちゃって。すみません」

「別に怒ってねぇよ」

「……でも」

「神崎があんなにため息つくの、珍しいからな」


箸を割りながら、ぽつりと甲斐部長が言う。


「何かあったか?」


その一言に、胸の奥がじんわり熱くなる。


大丈夫。ちゃんと働いてる。ちゃんと元気。

そう思ってたのに――部長に聞かれた瞬間、涙が出そうになった。


「……インフル、治ったはずなんですけど」

「ん」

「なんか、まだ……心が熱あるみたいで」

「……は?」

「あ、ごめんなさい、変なこと言いました!忘れてください!」


慌てて笑ってごまかす小春に、甲斐部長はしばらく無言で箸を動かしていたが、

ふと、こんな言葉を口にした。


「熱、下がったら……話せるか?」


「……え?」


「別に今じゃなくていい。お前のペースでいい。

 でも、お前がしんどい時は、俺でも、誰でも、誰かに話せ。

 じゃないと、また空っぽのセル見つめることになるぞ」


部長の優しい言葉に鼻の奥がツンとした。

私は上を見あげて涙を誤魔化した。



甲斐部長は私の教育係だった人

昔から無愛想でぶっきらぼうだけど

本当はとても優しいって知っている。

何時も気にとめてくれて、見守ってくれて


お父さん、みたいな人…


甲斐部長にならなんでも話せる気がした。


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