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7話

視線の先に居た相手を見て、バンビは呆れたように言った。


「戻ってきちゃうとか興覚めだな。けど実はもう時間は過ぎちゃったんだよね。だから勝負は君たちの勝ち。どうする?」


このまま逃げるなら手は出さないよ。

そう言いつつもバンビはドリームキャッチャーを向けている。

視線を向けられている相手は言った。


「友達を見捨てて逃げるわけにはいかないよ」


コーシは手元から取り出したカッターナイフを居合刀に変えている。

桐野の使っていた居合刀と全く同じものに。

それを向けられたバンビは言う。


「さっきは脱兎のごとく逃げたのにね。まあいいよ。君がその気なら相手ぐらいしてあげる」


その代わり一つ条件をつけるよ。

バンビは手に持っている拳銃をくるくると回して言った。


「君たちが負けたら誰かの能力を頂戴。それでいい」


命までは取らないよ。

バンビの言葉に返事はしない。

する必要がないからだ。


コーシとバンビはそのまま睨み合う。


コーシは集中するために心を静めた。

今朝の練習を思い出せ。

桐野の構えを思い出せ。

居合刀を鞘に納め。

反りによって加速をつけて振りぬく。


ドリーム能力は使い手のイメージ力によって強化される。

空気さえも切断するような斬撃を思い浮かべれば。

そのまま再現できるのだ。

使い手のドリーム能力が十分に高ければという補足は必要ではあるが


あいにくコーシの能力は一段落ちるとされる刀剣変化系能力。

だが、コーシは知っている。

心を研ぎ澄ませれば、

己を磨き続ければ夢は叶うのだと。


コーシは無意識に

ある言葉を唱え始めた。

この夢見学園の創始者の言葉であり。

校是でもあるその言葉を。


「夢なき者に理想なし、

 理想なき者に計画なし、

 計画なき者に実行なし、

 実行なき者に成功なし」


「故に……夢なき者に成功なし」


想像力はすべての源であり。

ドリーマーをドリーマーたらしめるものだ。

だからこそ夢を見なければならない。

能力者こそが理想を語らねばならない。

現実に甘んじているのではいけないのだ。


その言葉にバンビは不快感を示す。


「夢があるから成功する? 夢見人って馬鹿ばっかりだな。夢なんて見ても無駄に決まってるのにさ」


つまらないから一瞬でかたをつけるよ。

バンビは片方のドリームキャッチャーから刀身を出す。

刀には刀で勝負しようということらしい。

黒々とした長刀が姿を現した。


「さて、どうせなら両刀使いになりたかったな。カッコいいだろうし。けどあいにく持ち合わせが一本しかなくてね」


倒れて気絶している桐野の方に残念そうにちらと視線を向ける。

そうはさせじとばかりにコーシは言った。


「負けるなら一緒だ」


「へぇ……勝てる気でいるんだ。まさしく夢なきものに成功無しってことか」


まあ夢見てても無駄だけどね。

バンビは長刀を構え、コーシは居合刀を逆手に構える。

刀ではなくナイフを持つような構えだ。


剣士や武士ではなく忍者、暗殺者の様な。

その変則的な構えから繰り出される攻撃を受け止められるか。

といったところか。


「一つ聞くけど、勝てる気でいるのかな君は」


「当然」


「ははは。……あーー。つまんない……夢見ながら死んでけよ」


来ないならこっちから行くぜ

バンビは長刀を持って踏み込んでくる。

コーシは冷や汗を垂らしながら考えた。


相手との力量差がありすぎる。

もしもこの手が読まれていたら終わりだが、あいにくこれに掛けるしかない。

勝負は一瞬だ。

夢なき者に成功無し、イメージこそが現実を変えるのだ。


踏み込んで来た相手に合わせ、

コーシは抜き打ちで居合を放った。


刀の弾道は読まれており、難なく弾かれて、バランスを崩し、そのまま地に倒れて終わる。

バンビの見立てではそうだった。

だが。


「!? ……っぶな!」


バンビの読みは外れた。


コーシの刀はバンビの刀をすり抜けてあわや相手の喉元を捉えるところだったのだ。

バンビはとっさにもう一方の手に持っていたドリームキャッチャーで何とか受け止めたが、一歩間違えれば即死だった。


さらにバンビはまた指を失って銃を取り落しそうになっている。

しかし即座にもう片方の手にあるドリームキャッチャーの引き金を引いて治療能力を起動する。

指が再生して、事なきを得た。

コーシは絶望と驚きに声を上げる。


「防がれた!?」


万事休すか。

絶望しているコーシを追い込むかのように

バンビはもう種を見破った様子で言った。


「変化能力で刀身の長さを変えたか。やるねぇ」


もう一息で殺せてたよ!

バンビは勢いを殺されてしまった相手を蹴り飛ばす。


そのままコーシは床に倒れ伏した。

それを見下ろしたバンビは言う。


「さて、ここで一太刀浴びせてれば君はお陀仏なんだから僕の勝ちってことでいいだろう。能力は貰っていくよ」


ドリームキャッチャーをコーシに向け撃鉄を極限まで引き絞る。

そして。バンビは

コーシの向こうで倒れている人物に向けて引き金を引いた。

銃弾がコーシをかすめて飛んで行き、後ろの人物に当たる。


思わずコーシは振り返る。

相手は野薔薇サヤ。

植物系具現化能力持ちのクラスのアイドル。

その髪にはトレードマークである薔薇の冠はもうない。

彼女は今。

ただの人に成り下がったのだった。


「お前、なんてことするんだ! 何したのか分かってるのか!」


「うるさいなぁ。殺してもないし君の能力も残してあげたんだけど? なんで怒ってるのさ?」


本当に何も分かっていない様子だ。

コーシの理性は無駄だと理解していたが、感情は抑えられない。

声の限りに怒りを叫ぶ。


「友達なんだから当たり前だろ!!」


「友達ねぇ……」


バンビは何事か考えているようだったが。

考えをまとめた後。言った。


「僕としては君たちとなら友達になってもいいかなって思うんだけど、ローレルが怒りそうだからなぁ」


全く通じていない。

化け物か?

そう思って呆然としているコーシにその化け物は言う。


「……能力は任務だから返せないけど、せっかくだから僕の秘密を教えてあげるよ」


君たちだけ特別ね。

バンビは言った。


「僕の本名は別にある。バンビはコードネームなんだ。鹿みたいに小柄で身軽でしょ? だからそう呼ばれてるみたい」


そして本名はね。

持って回った言い方で彼は言った。


「金鹿トマリって言うんだ。読みはこじか とまり。好きなように呼んでくれて構わないよ」


そろそろ時間だ。

じゃあまたね。


バンビことトマリはそう言って去ってゆく。

コーシは立ち上がって追おうとしたが、体が言うことを聞いてくれず、身をその場に横たえたまま意識が遠のいていくのを成すすべなく受け入れることしかできなかった。



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