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6話


コーシが逃げ出して5分ほど経過した。

現場ではまだ桐野と少年兵ことバンビがやりあっていた。


「へぇ。思ったよりやるねぇ」


バンビは本気ではないからか、桐野の攻撃を反撃もせず受けるだけで流してしまう。

逆に言うならば、本気であれば桐野は立っているどころか生きてさえいるのかさえも怪しい力量差ということでもある。

そこはバンビの甘さによって助かったとも言えるのだったが。

桐野は気づき始めていた。

それが決して楽観できることではないことに。


「はぁ……はぁ……」


桐野は息が上がって膝をつきかける。

だが、刀を無理やり地に刺すようにして体を起こした。

バンビは言う。


「やるねぇ。そのまま膝をつくようなら首飛ばしちゃおうかと思ってたよ」


冗談だけどね

カラカラと笑う相手に、

息を整えた桐野は言った。


「なあ。あんたの目的ってのはなんだ?」


「んー? さーてね。なんだと思う?」


言ったらきっとローレルが怒るからね

にやにやと笑う相手に桐野は言った。


「一つだけ言えるのは、誰かを殺すのが目的じゃないことだな」


桐野の言葉にバンビの動きはピタリと止まった。

探るような眼。伺うような眼をしている。

桐野は言った。


「図星か」


「何で分かったの?」


殺すのが目的じゃないって。


バンビはさっきまでの勢いを無くし、怯えたような眼をしている。

上手い事食いついたな。このまま時間稼ぎといくか。

桐野は言った。


「簡単だ。死体の状況を見れば分かる」


「まるで探偵みたいだね。何が分かるの。名探偵さん」


バンビはワクワクとしているのか今度は楽しそうに笑っている。

桐野は答えた。


「全員殺し方が違う。これが意味するのは一つだ」


「お前は能力を盗むのが目的。殺しはついでだ」


バンビの顔が怪しくゆがむ。


「へぇ……」


桐野はそれに気づかずに言った。


「相手の能力を使って倒す。それがお前自身の目的。だからあんたのボスであるローレルはおそらく……」


直後、桐野の喉元に刃が突きつけられた。

本気を出したバンビが言う。


「やっぱお前。殺しとくか? それがいいな。逃がしたらローレルが怒る。うん」


ここまでか。

そのまま切り裂こうとしたバンビに桐野は完全に負けを確信した。


そこで桐野は最後の策を展開する。

本音では死んでも御免だったのだが。

友のための時間稼ぎと考えるなら仕方ない。

己の心を殺して桐野はバンビを見据えた。


「なら殺す前に頼みがある」


「何?」


結構忙しいんだけど僕。

イライラしている様子のバンビに桐野は言った。


「俺の能力を奪ってから殺してくれ。この力は先祖代々伝わったもんだ。無くすのは惜しい」


それを聞いたバンビは笑い出した。


「はは。ハハハハハ。ははははははは。……あーアンタやっぱ面白いよ」


じゃあお望み通り奪ってやるから。

死ねよ。

バンビが楽しそうに意地悪に笑いながら、桐野を乱暴に蹴り飛ばす。


地に伏せた桐野はもう起き上がれない

彼に対し、バンビは銃。

いや、ドリームキャッチャーを向けた。

狙いは腕。

彼はそこに刀剣の装飾物である目貫に似たものがあったのだ。



撃鉄を限界まで引いて、そこから引き金を引こうとする。

放たれた銃弾がモチーフに当たれば桐野はもうただの人だ。


居合がいかにできようとも居合刀が無ければ無能力者と変わらない。

いや。まさしく無能力者になろうとしていた。

そう、数秒遅ければ、彼の人生は二重三重の意味でそのまま終わっていた。


***


「待ちなさい! 桐野君に手を出さないで!」


知らない女の声。

別に待つ必要はない。

バンビは桐野の能力を奪ってから振り向こうとしたが。

どういったわけなのかそれをせずに振り向いた。


「なに?」


不機嫌そうに振り向いた先に居たのは。


「へぇ……」


野薔薇サヤ。

植物系具現化能力者である彼女はペーパーナイフ一つで立ち向かおうとしている。

だが、それだけでは心もとないと思ったのか。

周囲に花を展開していた。

彼女は言う。


「胡蝶蘭は人間と同じように呼吸します。だから大量に出しておけば酸素が足りなくて酸欠になって……」


動きが鈍くなるはずです。

そんなあなたになら私のナイフも当てられるはず。

サヤの言っていることは間違いではないのだが。

バンビは呆れたように言った。


「それ酸欠にしてから言うセリフじゃないの? 悪役慣れしてないなぁ」


それからもう一つ言っとくよ。


「仮に酸欠にしようとしても無駄だから」


その理由を口で説明するのが億劫だったのか。

バンビは二丁拳銃を天井に向ける。

そしてその二丁拳銃のようなドリームキャッチャーから二つの能力を繰り出した。


片方は水の具現化能力。

もう片方は雷の具現化能力。

その二つをぶつけると水滴が弾ける。

同時に辺りに清浄な空気が満ちた。

バンビは言う。


「水に電気を通すと化学反応? ってのが起きて酸素が出来るんだってさ。だから君たちが酸欠で倒れるとしても僕だけは無事ってワケ。この能力を口内で展開するだけだから」


野薔薇サヤは呆然としている。

バンビは言った。


「さて。本気で酸欠を狙うほどだったら、花のそばにいる君の方がまずいんじゃないのかな?」


植物系の具現化能力によって酸欠には少々の耐性があったからこその作戦だった。

だが、あくまでも耐性でしかなく。全く効力が無いわけではない。

サヤはその場に崩れ落ちた。

まさしく酸欠によって。

まずは倒れた彼女に目を向け。

さらに向こう側に視線を向けながらバンビは言うのだった。


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