表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/25

5話


少年兵ことバンビは彼らの前に立ちふさがっている。

と言っても、戦意は無い様子で。何かしなければ死ぬ事は無いだろう。

だが、何かした場合には覚悟をしなければならない。

桐野とコーシは言葉ではなく視線だけを交わしてそれらを確認する。


会話して時間を稼ぎ、隙あらば逃げよう。

アイコンタクトだけでそれらを伝え終わると、

桐野が言った。


「ドリームキャッチャーってのは何なんだ?」


それを問われた相手は言った。


「どうしよっかな~。てかこれ喋っていいのかな?」


ローレルに怒られるのは嫌なんだけどな。


このまま何とか会話を繋げて糸口に繋がねばならない。

コーシはその単語に食いついた。


「ローレルって人が君の親なのかな?」


「うーん。親じゃなくて、無理に言うなら親代わりかな? まあ全然そんなことないけど」


あと、その話はしたくない。

ローレル自分のこと喋られるのめっちゃ怒るから。


そう言ったバンビに対し、桐野が言う。


「ならドリームキャッチャーについて教えろよ。それぐらいならいいだろ」


「それも怒るかもなんだけど。まあいいか」


桐野の問いに彼は拳銃を掲げ、くるくる回しながら言った。


「これがドリームキャッチャーって呼ばれてるね」


これを使うから僕らはドリームキャッチャーなのさ。

得意げに言った彼に桐野はいった。


「ドリーマーの能力を盗めるからドリームキャッチャーか。噂では聞いたことがあったが。実物を見ると」


反吐が出るな。

いつの間にか手に刀を具現化していた桐野はそのドリームキャッチャー目掛けて居合を放つ。

同時に言った。


「お前は逃げろ! ここは俺が食い止める」


バンビは驚いた表情で銃を取り落した。

指が何本か落ちている。

それを己の目で見た彼は言った。

楽しそうに。


「あーあ。やってくれたね。……君は楽しめそうだ」


バンビは反対の手に持っている銃の撃鉄を操作した後、銃の引き金を引く。

指は見る間に再生した。

銃を拾うために背を向ける。

彼は言った。


「ここからは追いかけっこをしよう。時間は10分あげる。君たちが片方でも逃げきれたら勝ち。逃げ切れなかったら」


学校のみんなを皆殺し。

どうかな?

コーシは何も言わずに逃げる。

桐野はその場に残った。


バンビは拾い上げた銃を持つと、そのハンマー、撃鉄を操作し、

銃の上部。スライド、遊底部分を露出させる。

そこから伸びたのは剣だ。

この学校で刀剣系の能力を持っている教師は1人。居合部の顧問だった男だ。


「てめぇ……何やってるのか分かってるのか?」


「あ、やっぱり? 師弟対決って燃えるよねぇ」


事情は分かっている様子なのに

相手にはまるで人の心が無い。

その様子に桐野は完全に頭に血が上っていた。


バンビと名乗った少年兵は言う。


「もうちょっと落ち着いてよ。呼吸も脈も乱れすぎだ。今の状態じゃ一分も持たないよ」


「構うか! このままお前を倒してやる!」


桐野は薩摩示現流のお手本通り、キェェェェェと金切り声を上げながら相手に切りかかる。

相手はサーベル部分で楽々と受け止めた。


「君、筋はいいのにちょっと力入りすぎ。 落ち着いて戦えば5分は持つよ?」


「うるせぇ! 1分でカタをつけてやるよ!」


桐野はそのままスタミナの続く限り乱打することにしたのだった。

相手は呆れた様子で連撃を捌いてゆく。

彼らの様子をしばらく前から遠くから見ている影がいた。

影は少し考えた後。

コーシの後を追うことにした様子で駆け出していった。


***


「はぁ……はぁ……」


ここまで来ればなんとか……

コーシは教室とは真逆に走って逃げ、校舎の端に居た。

怖くて逃げたのではない。

理由はいくつかある。


まず相手が鬼ごっこを提案してきたこと。

そして逃げ切ると皆を助けると言ったこと。


あの性格だ。

約束を守るとは限らないが。

教室とは逆方向に逃げた方が逃げる時間を稼げると見たのだ。

10分逃げ切れればよし。

逃げ切れずとも……稼いだ時間で何人か助かってくれればいい。

それこそ野薔薇さんが助かってくれるならそれでいい。


桐野が自分の命をかけてくれているのに、自分が何もしない訳にはいかなかった。

友人である彼の心意気には応えたい。


あの世で会ったらまた馬鹿話しような。

コーシが心の中でだけそう言って隠れ場所を探していると。

目の前の廊下をあらぬ人が走ってくる。


これは幻覚か?

コーシは自分の頬をつねるが普通に痛い。

幻覚は消えずに自分の目の前に迫って来た。

そして彼女のトレードマークである花冠から

それを彩る薔薇のような植物の良い匂いが確かにする。


こんな時なのにコーシは彼女らしいと思った。

目の前の相手に声をかける。


「野薔薇さん。なぜここに?」


まさか私を心配して?

これはもしかしてもしかするか?

百合だかバラだか知らないが。フラグ立つか?


文字通りのバラ色の未来を思い浮かべていたコーシに対し、野薔薇さんは言った。


「……助けてください」


はいはい当然ですよ。

野薔薇さんの事なら私守りますって。

肉盾にだってなんだってなりますって。

そう思っていたコーシの心に言葉のペーパーナイフが刺さった。


「桐野君を! 助けてください!」


……今なんて?

頭内は除夜の鐘を突かれたように反響した。

あの桐野だ。実はモテてても仕方ないが。

まさか隠れファンが野薔薇さんだったなんて!

ゆるせん。

ゆるせんぞ。

神はどれだけ残酷なんだ。

どうせ炎上しても平気な顔して草を生やしているに違いない。

いやもしかしたら一切気にしないでイベントの戦利品を改めているかも。

そんな明後日な方向に妄想を初めたコーシに野薔薇はとんでもないことを言った。


「彼、私の許嫁なんです。このままじゃ死んじゃう!」


だから助けてください! お願いします!



……オワタ。

桐野含めて立ってたフラグ全部ぶち折れた。

いや分かってたけどね。

この作者頭おかしいからこれぐらいのことぐらいはするってね。

けど腐女子だからせめて桐野と私のは残すと思ったんだけどさぁ。

頭おかしすぎんだろ。

精神的ショックから立ち直れないコーシはあらぬ方向に思考を飛ばしている。

それを見て見切りをつけたのか野薔薇は言った。


「……助けてくれないなら。あなたが助けてくれないなら私が」


コーシから貰ったペーパーナイフを胸元に構え。

彼女は言った。


「私だけで行ってきます!」


コーシが止める間もなく踵を返して駆け出していく。

ただただ彼女を見送ることしかできなかったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ