4話
コーシ、桐野、そして火炎系ドリーマーの先生は急いで避難ルートの確認作業に向かう。
女性である先生はヒールを履いていたのだったが、それをものともせず先頭を軽々と走ってゆく。
桐野はスポーツマンだからむしろ余裕があるぐらいで問題は無かったのだったが、
コーシは体力がある方では無いので置いていかれそうになっていた。
自慢じゃないが体育の成績は下から数えた方が早い。
だが必死に食らいついた。
それは『現場』が思ったより近かったことが幸いしたのだったが。
幸運はそこまでだった。
『現場』を見た先生は言う。
同僚たちが倒れている。
そしてその体は鉱物化していたり、雷撃によるものか焼け焦げていたり、凍っていたり。
中には水浸しになっている者もあった。
そして彼らは皆ドリーマー。能力者だ。
たった一人の1人の少年と思しき相手を前にして、束になっているのに負ける道理などない。
可能性としては相手もドリーマーであることだけだったが、それでもこのような負け方はしないだろう。
なぜならドリーム能力は一人に一つが鉄則だからだ。
複数のドリーム能力など持てるわけがない。
「嘘……。でしょ」
その言葉に現場に居た対象が振り向く。
ボブカットの軍服に似たジャケットを来た小柄な少年。
彼は言った。
「ははは。学園の名前の通り。夢見がちな奴等ばかりだな。だからこそ、こんなになっちゃうんだけど」
惨状を作り出した彼はホルスターから出した二丁拳銃の片方を掲げながら言う。
「すぐ終わっちゃうのもつまらないし。自己紹介でもしようかな? 終わるまでは攻撃しないよ」
じゃあまず名前から。
そう言った相手の顔面に突如炎が襲った。
その炎はコーシと桐野にも飛び火する。
「あっちち!」
コーシは横に居た先生から逃げるように離れる。
教師である女性が炎を放ったのだった。
彼女は手のひらから火炎を出せるだけでなく視線を使ってその炎を誘導、増幅することも出来る。
その能力を使って相手を消し炭にしようとしたのだったが。
カチリ、炎に巻かれたはずの相手が引き金を引くと、
火力を上げる前に炎が消えてしまった。
周囲には水滴が舞っている。
おそらくは水流系の具現化能力。
戸惑っている女教師に対し、相手は言った。
「はー。危ない危ない。名簿手に入れてるから教師陣の能力は分かるけど。順番間違ってたら即死もあったかもな~」
前言撤回。
やっぱアンタ倒すよ。
彼は銃の様なものを先生に向ける。
そして、彼女の燃えている手のひら目掛けて銃弾のようなものを撃ちだした。
先生は避けない。
銃弾など燃やせばいいと高を括っていたから。
そしてそれが彼女の命取りになった。
銃弾が手のひらに当たると。
爆散したように炎が消えた。
「え?」
そしてその炎は銃身に吸い込まれてゆく。
彼は言った。
「カズラユミ。火炎具現化系のドリーマーか。火炎はいいよね。扱いやすいから」
アンタの綺麗な顔を燃やしちゃうのは残念だけどね。
彼は当たり前のように銃創。ホルスターに触れた後。
ハンマー。撃鉄に当たる部分をなにやら摘まみ、目盛りのように操作している。
そして目的の場所を指せたのか、銃の上部にあるスライドを開け放つ。
彼はスライド部分から見えるライトのようなものを向けながら言った。
「ばーい」
彼はまた引き金を引く。
まるでおもちゃの銃でも使うかのように。
同時に銃の上部。スライドに当たる部分から炎が上がった。
女教師。カズラユミの顔に炎が向かう。
彼女はまたしても判断ミスをする。
避けなかったのだ。
「私に炎なんて、具現化能力者に炎が効くわけ……」
それが彼女の最後の言葉になった。
最後まで言う前に彼女の顔は炎に巻かれる。
後に続くのは短い悲鳴と、喉が焼けたのかその悲鳴すら上げられなくなって、その場でもがくだけの肉塊。
やがて肉塊は動くことも出来なくなった。
それを見た桐野とコーシは
動けなかった。
一歩も。
そのまま炎を向けられてしまえば終わりだったのだが、幸運はまた発動した。
彼は二人を敵ではなく。遊び相手と認識したのだった。
「君たちは名簿に無い顔だけど。生徒ってことでいいのかな?」
そういえば服もそれっぽいな。
制服とか言うんだっけ?
これも何かの縁だ。お話しでもしない?
二人はまだ固まっている。
彼は何を勘違いしてか言った。
「いけね。初対面だし名前も知らないじゃん。こういう時は自己紹介から始めなきゃだ」
彼は本気でそう思っている様子で言った。
「始めまして、僕はバンビ。本名じゃなくてごめんね。才能の民主化を目指すドリームキャッチャーだ」
よろしくね。
自分の名をバンビと名乗った少年兵はそのまま恭しくお辞儀をする。
それにコーシは馬鹿正直にお辞儀を返したが。
桐野は警戒するように仁王立ちをしたままだった。