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3話

***


さて部室を使っての朝練が終わり。

授業が始まった。


教科はなんのことはない。

ドリーム能力の使用方法についてだ。


「火に関係する能力を使う際に気を付けるべきことがあります。これは電撃系、熱波系の人にも関係あるので聞いてくださいね」


熱量のコントロール系の能力者は関係ありませんが、パートナーとして組んでいるのなら聞いておいても損はないでしょう。


当てはまる能力もないし、当然のようにパートナーも居ないコーシには先生の言葉は頭に入ってこない。


テストには出ないとのことだったので聞かないことにする。

関係ないなら眼の保養でもして過ごすか。

そう思った彼は斜め前を見る。


視線の先に居たのは清く正しく大和撫子を絵にかいたような女性だ。

彼女の美しい緑の黒髪を彩るのは能力者の証である薔薇の花冠。


野薔薇サヤ。

彼女はこのクラスの中で一番人気がある。

男女ともに見惚れる美しい容姿もさることながら、優しさも気高さも持っており。

勉強も出来るという申し分ないスペックだ。

その上で代々続く華道の家元の娘でもあるのだから勝てる気がしない。


そんな彼女はまっすぐ前を見つめている。

真剣に勉強しているのだろう。トレードマークである薔薇の冠が今日も美しい。

彼女の能力は華道の家元らしく植物を生み出す具現化能力だ。

この授業は彼女には関係ないのに真面目だなぁとその様子を観察するだけしてコーシは机に突っ伏した。


このまま目を閉じていればいつの間にか授業が終わり。

何回か同じように授業をやり過ごして、

給食を食べ、そして五限目が終わった後。

そのまま帰るなり、寄り道するなり、桐野の居る部活を冷やかしに行くなりすればいい。


そう思っていた。

平穏な日々が続くと。

そう思っていた。


そんな甘い眠気は非常ベルによって無情に叩きだされる。


「何事!?」


教師は教科書を持って黒板に向かっていたが、非常ベルに驚いた様子で窓から教室の外を見る。

そこには何も異常は無かった。

となると、原因は……


とたん、教室の扉が開け放たれる。


「てめぇら。下手なことしたら命はねぇぞ!」


そこに居たのは、全身黒づくめの目だし帽の男。

銃の様な物体を手に持っている。

まさしく銀行強盗のようないでたちの乱入者は言った。


「とりあえず俺の前まで来てもらおうか、攻撃に有利な能力持ちだけな!」


そう言ってガハハハッと勝ち誇ったように笑う。

彼は上部のスライド部分を開けてから銃の引き金を引く、すると金属バットが具現化された。

中身は道具、もしくは金属モチーフの具現化系の能力だろう。

彼は続けて言う。


「誰がいい? 能力を差し出すなら命だけは助けてやるよ!」


そう言ってバットを振り回す彼に。

女教師はつかつかと歩み寄る。

そして言った。


「舐められたものね」


いいでしょう。差し出してあげるわ。

その身で味わいなさい


彼女は左手の手袋を外す。

そこには炎に燃え盛る手があった。

火炎モチーフで具現化系のドリーム能力の証。


「……!?」


銃で応戦でもしようとしたのだろうか。

だが引き金を引くどころか、相手を捕らえる前に勝負は終わった。

容赦なく顔面を狙った彼女の能力の前に、敵はなすすべなく倒れる。


頭だけが黒焦げになった物言わぬ人形がその場に残された。

その女教師は眼鏡を外すと言った。


「飛行系ドリーマーのみんなは直ちに飛んで逃げるように。飛んで逃げたなら校庭に居てね。他のみんなは一度このまま待機して」


私が避難経路を見てくるから。

彼女は手袋を外した手を掲げた。

そこには燃えるような。いやまさしく今も燃えている手があった。


ある意味では当然の帰結である。

能力者を養成する学園なのだから教師にもその能力の理解が無ければならない。


だから彼女も能力者。ドリーマーなのだ。

この学園に居る教師はすべてドリーマー。

彼らが預かっている生徒もまた何かしらの能力を持つドリーマーなのだから当たり前である。


その先生が一人で行こうとするのを桐野が止める。


「先生俺たちも行きます」


「聞こえなかったのかしら? 君たちはここに居なさいと」


桐野は言葉を続けた。


「もし先生が倒されたら、誰がそれを教えてくれるんです? 他の奴が教室まで来るかもしれませんよ」


桐野の言葉に先生は一瞬逡巡する。

そして言った。


「確か。君のお兄さんは警察官だったわね」


「そうです。だから兄から心得は叩き込まれてます。そして俺は居合も強い。足手まといにはなりません。連れて行ってください」


「……いいでしょう。貴方は私の能力を阻害することもなさそうだし」


何かあったらみんなに知らせて逃げなさいよ。

そう許可を取り付けた桐野はコーシの方を見る。

目が合った。

嫌な予感がする。

桐野は予想通りのことを言った。


「よし行くぞ! コーシ。俺たちの出番だ」


やっぱりかー!

コーシは頭を抱える。

先生が口を挟もうとしたところに桐野は言った。


「先生に何かあったら、俺が足止めしてる間にあいつを知らせに走らせます。それでいいでしょう?」


完璧すぎる反論だ。

全く隙が無い。

コーシは諦めてポケットの中に忍ばせている相棒。刃物を確認する。

カッターナイフが三本。ペーパーナイフが一本。

それから本当に万一の時のガラス片が一つ。


……行けるか。

いやここで行かなきゃ男じゃない。

別に男になりたいわけじゃあないが。人として逃げちゃだめだ。


コーシは震えを押し隠して立ちあがる。

そのまま桐野の元に向かうのだったが。


意外な人物と目が合った。


(野薔薇さん……?)


彼女はとても心配そうな目で見てくれている。

学園のマドンナが。

アイドルが。

自分を心配してくれている……?


普通ならそんなわけないだろうと思い当たるだろうが。

非常事態なのが良くなかったのかコーシにはとんと思い当たらなかった。

むしろ気を良くしたコーシは。ポケットから取り出した物を彼女に渡しながら言った。


「ペーパーナイフです。これで護身になるかは怪しいですが、持っていないよりはマシかと」


コーシが完全に善意でやった行動は、中二病どころじゃない痛さだったが。

彼女はなんと嬉し涙を流しながらペーパーナイフを受け取った。


「ありがとう。二人とも気を付けてね」


これお返し。何かあったら使って。

彼女から渡されたのはハンカチだった。

胸の奥がじんとする。

そこに桐野の声がかかった。


「何やってんだ。早くしろよ!」


外野は黙ってろ。

私は憧れの野薔薇さんと喋ってるんだ。

そう心の中で悪態をついたのち。

ありがたく受け取って先を急いだのだった。


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