17話
敵の親玉であるローレルと接触しながら逃がしてしまった。
その失態の埋め合せと、重要参考人としての役割が生まれたことにより、アキは駆けつけた仲間たちと共に仕事に戻っていく。
彼は言った。
「部下を寄こすから。家まで送ってもらって」
そう言って弟に車の鍵を預けた。
しばらくすると言葉通り部下がやって来て、三人を乗せて家に帰してくれた。
「落ち着いたら連絡があるだろう。それまで自宅待機してろとさ」
車から三人を下ろした部下の男性はそれだけ言うとそのまま車を走らせる。
きっと署にでも向かったのだろう。
車の背を見送ったコーシは言った。
「とりあえず、今日は用意する気分にもなれないし、ぱーっと出前でも取らないか?」
「賛成だ。今から買い出しって気分にはなれん。兄貴の金で何か食おうぜ」
「じゃあ私、ピザがいいかな」
トッピングはパイナップルとアイスクリームとトマトで。
またおかしな取り合わせを提案する野薔薇にコーシは言った。
「別々に頼んで乗せたらいいんじゃないかな?」
彼女は幸いなことにそれで納得してくれたようだ。
コーシはホッと胸を撫でおろしながら、お世話になっている桐野の家に入るのであった。
***
さて、そんなことがあってから数日。
アキは未だに時間が取れないのか帰ってこない。
弟の晋作のスマホには定期的に連絡は入る。
内容は。
桐野。当然弟のほうの晋作がスマホを確認して言う。
「今日も自宅待機だとさ。例の件。署で俺らに指示出したくねぇんだとよ」
「そっか」
当然だろう。
私たちのことは極秘。つまりぜったいに秘密なのだ。
漏れるリスクは犯せない。
コーシは落胆したが、仕方ないとも思って切り替える。
桐野はスマホをしまうと言った。
「なら俺たちで出来ることをやるか」
「え。どんな?」
「捜査ってのは現場でだけやるもんじゃねぇだろ」
ついてこい。
そう言うと、晋作はコーシだけを連れて二階に上がっていった。
上がった先を右に曲がると晋作の部屋だ。
だが今回は左へと曲がる。
そこにあったのは。
二部屋あり。奥はどうやら物置の様だ。
そして手前は、晋作とは別の人物のための部屋になっている。
コーシは扉を開けようとしている晋作に言う。
「ここお兄さんの部屋なんじゃ。勝手に入っても」
桐野は手に持っているものをこれ見よがしに掲げる。
それは。
鍵束だった。
扉にかかる鍵に一本を差し込みながら彼は言う。
「兄貴から預かってる。自分が帰れなかったら開けてもいいってな」
帰れなかったら。に含まれるニュアンスには、死んだらがある気がしたが、
コーシがそれを口に出すか迷っている間に桐野は言う。
「兄貴がここまで家に帰ってこないことは今までなかった。この調子だと本当に帰ってこないかもしれん」
本当に帰ってこなかったら順番が前後するだけだ。
帰ってくるならその時怒られればいい。
つまりお兄さんが心配で居ても立っても居られないんだな。
コーシは素直じゃない桐野に対して言った。
「部屋の中を一通り確認したら野薔薇さんも呼んで来よう。どうせ悪事をやるなら三人のほうがいい」
「ははっ。上等だ。物わかりのいい悪友を持って俺は幸せだぜ」
友人じゃなきゃもっと良かったんだがな。
その言葉はスルーする。
今はまだ受け止めきれないから。
二人は中の安全を確かめた後、野薔薇を呼ぶことに決めて扉を開けた。
そして、中の惨状を見て二人そろって絶句するのであった。
***
部屋の中に入ると、そこには捜査資料が山のように積まれていた。
本棚にはファイルが所狭しと詰め込まれており、床にも所々積み上げられたファイルの山がある。
作業机にも書類が山を作っていた。
ベッドが置いていなければ、とても人間の住んでいる部屋とは思えない。
そのベッドの上にも書類が散乱しているのだったが。
それを見た桐野は言った。
「アイツ……この部屋使ってねぇな」
隣の物置で寝てやがったか。
誰の事かは言わずとも分かる。
コーシは言った。
「とりあえず……三か月くらい前の記録から見ようか」
三か月前は、夢見学園の襲撃事件があった頃である。
ファイルを取り出そうとしたコーシに桐野が言った。
「野薔薇も呼んでくるぞ」
桐野が彼女を気にかけるなんて
珍しいこともあるものだ、と桐野の顔を見る。
彼は青ざめながら言った。
「下手をしたらファイルの山に埋もれて圧死でもしかねん。人手があった方が良いだろう」
正論だ。
コーシは階段を駆け下りて野薔薇を呼ぶと駆け上がってくる。
その間に桐野はファイルの山に埋もれる……なんてことはなく。
三人での捜査が始まった。