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15話

翌日。車に乗って一行は遠出する。

連れていかれた先は。


「さあ着いたよ」


桐野アキの運転によって連れられて来たのは

遊園地だった。

アキは三人の分と、自分の分の入場料を払って皆で揃って中に入る。

子供だましというなかれ。

これは考えに考えた結果の行動だった。


まずショッピングモールなどの出入りが自由な場所ではドリームキャッチャー持ちが入り込みやすい。

なので入場料が必要で、かつ施設が広く、管理が行き届いている。

その条件に当てはまる場所にやってきたのだった。


水族館と動物園も候補にあったのだったが。

水族館はいざという時の逃げ場が無いので却下。

動物園も遊園地と似たような条件ではあったが、

ドリーム能力の種となるものの種類が多かったので却下された。


遊園地なら機械しかないので機械に効果のあるドリーム能力でなければならないが、動物園の方は、機械だけでなく、どれか一種類の動物に反応する能力があるだけでも危ない。

なので消去法として遊園地になったのであった。

もっとも外出するのならどうしても危険は付き物ではあったが。

その中でも危険が少ないと思われる選択肢を選んだのは褒めても良いだろう。


だが、この思考は読まれており。

読まれていた結果。彼らは災難に逢うことになるのだったが。

それを知る由は無かった。


「きゃはははは、見て見て! 楽しいよ」


野薔薇がメリーゴーランドに乗って手を振っている。

その横には桐野の兄も居て、同じようにこちらに手を振っているのであった。

桐野弟。晋作と野薔薇がお似合いならば、彼らもまた寄り添うのに不自然さはない。

アキの方が一回り近くも年上なのでぱっと見の印象は大人と子供となってしまうが


大人びた彼氏と、童顔で背の低い彼女と言えば通じてしまいそうなところがある。

元々はあの二人が許嫁だったんだもんな。そりゃぴったりだよ。

コーシがそんな二人を眺めていると、横の人物は言った。


「遊園地なんて久しぶりだな」


「だな。最近来てなかったな」


来る理由もないし。

コーシは続く言葉を心の中にだけ留める。

遊園地は二人以上で来るものだ。とコーシは思っている。

1人遊園地なんておひとり様チャレンジの限界を目指すようなものだ。

おひとり様チャレンジに挑む彼らを尊敬こそするが、自分にはとても無理である。


そう思っていたわけで、とんとご無沙汰になるのは致し方なかった。

もう一つ。晋作の方は部活が忙しかったこともあり、誘っても来ないことが増えた。

そんな状態で1人で遊園地に行っても。

行く方も辛ければ行ったという話を聞かされる方も辛いだろう。


「久々にジェットコースターでも乗ってみるか?」


「……お前がそれでいいなら付き合うぞ」


桐野は浮かない顔で返事をした。

一瞬の間。

そこでコーシは気づく。


「そういや苦手なんだっけか絶叫系。顔に似合わず」


「似合わずとか言うな。ああそうだよ。コーヒーカップレベルが俺の限界だよ」


「ははは。可愛いねぇ~じゃあ私が付き合ってあげようかコーヒーカップ」


コーシはそう言ってわざとらしく手を取り、コーヒーカップへと引っ張ってゆくのだった。


さて

コーヒーカップの前まで来たコーシは、はたと気づく。

まるでデートみたいじゃないかと。

だから逃げ帰ろうとしたのだったが


「なんだ怖気づいたか? お前はコーヒーカップもダメだったっけか?」


そうニヤニヤと笑われたので思わず乗ってしまった。

相手の計画通りだったろう。


ムカついたから可能な限りカップ内のハンドルをぐるぐると回してやったのだが。

自分が気持ち悪くなっただけで終わった。


「うえっ」


「無理すんなって。はしゃぎすぎだ。全く……ガキかよ」


「うるせーな」


軽口を叩きながら手前の休憩所で少しだけ休む。

コーヒーカップ酔いがおさまったところでコーシは言った。


「さて帰ろうか。メリーゴーランドまで戻ろう」


「そうだな。腹減ったし戻ったら兄貴をパシらせて何か買わせようぜ」


「それ。ナイスアイディア!」


そう言いながら園内を歩き始めた二人に声をかけてくる人物がいた。


「そこのお二方。少しいいかい?」


相手は長身の男性だった。

女性のように長い髪にサングラスにマスク。

黒ずくめの長コートに黒い帽子。

どう見ても不審者だったのだが、

コーシは立ち止まった。


「迷ったんですか?」


単に道を聞かれるものかと思ったからだ。

相手は意外なことを言う。


「君たちは野薔薇さんのご家族かい?」


桐野がピリリと警戒心を見せ、相手を睨むように伺い見る。

彼はもう刀を生成していた。


主人公コーシはまだ攻撃すべきじゃないと思ってはいたが。

ポケットの中の相棒たちを確認する。

カッターナイフ三本。ガラス片。

それから鍵もいざという時は変化させられるか。


まだ大丈夫だ。

相手に戦意は感じない。

怪しいけど。


そう思いながらも対応は続けた。


「家族じゃないですけど、家族みたいなものですね」


それを聞いた相手はホッとしている様子で言った。


「それは良かった。探したんだよ。ちょっと彼女について聞きたい……いや聞かなくてもいいな」


相手は咳ばらいを一つすると言った。


「私は夢見学園の関係者でね。事務方をやってる木戸っていうものだよ」


「木戸さん。ですか。野薔薇さんに何の用です?」


聞かない名前だったが、裏方であれば無理はないのか?

コーシは警戒と困惑がないまぜになった表情を向ける。

彼は言った。


「彼女に急ぎで渡すものがあってね。どうしても本人に会いたいんだ」


彼女をここまで呼んできてくれるかい?

ここまでで読者なら相手が怪しいことに気づくだろう。

彼が本当に学園関係者であり、物品を渡したいのであれば、

まずは彼女の実家に訪問するか、学園の持っている彼女の連絡先に連絡し、アポイントを取ってから訪問するはずだということに。


だが、コーシも桐野もそこまでは考えが及ばない。

残念ながら二人とも社会経験が無い学生だ。

そういうこともあるのか。

こんなとこまで来てくれるなんて学園は親切だな。

そう納得して相手の言うことを信じてしまったのだった。


「すぐに呼んできます」


そう言って駆け出そうとするコーシの手を木戸が掴む。

彼はうさん臭い笑顔で言った。


「そうそう。保護者も居ると思うんだけど彼は呼んでこないで欲しいな」


ここで最後に気づくチャンスがあったが、そのチャンスはふいにしてしまう。

彼は疑っている様子のコーシにこう言ったからだ。


「……センシティブな話題だから、無関係な大人の前ではちょっとしたくない」


怪しさ満点のロジックだったが。

コーシの感想はこうだった。


優しい人なんだな。


だから返答もこうなるのだった。


「分かりました」


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