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13話

さて、こんな感じで共同生活は過ぎていった。


昼間は桐野の兄から頼まれたリストを元に同級生や学園関係者に二人組で出かけて聞き込みをする。

その帰りに食材を買って帰ってくる。

そして晋作とコーシが揃って、もしくは片方だけが台所に立つ。

ご飯を食べたら軽いミーティングをする。

といった感じだ。


実を言うと外出中にたまに野良のドリームキャッチャー持ちに襲われることもあったが、相手が単身だったため何とか追い払えている。

相手とは二対一だ。向こうから見たら誰が能力者か分からない二人組なんて十二分な抑止力になるはずなのに

それでも単身で向かってくる相手など敵ではない。


ちなみに三人組ではないのは、野薔薇を家に残しているからだ。

どうしても野薔薇が必要という時は三人で外出することもあるものの。

基本的には彼女は家から出ない。


もっとも彼女はそれを苦にしては居ない様子だった。

学校は休校しているもののオンラインでの授業は受けられるので授業動画を繰り返し見ているのだ。

そして彼女が家庭教師役になり残り二人に勉強を教えている。

こうして三人は持ちつ持たれつの関係でそれなりにうまくやっていた。


そのルーティンが板についてきたころ。だったろうか。

主人公であるコーシはふと思い出す。

今は食後のミーティング中で、今日聞き込んで来た内容をまとめているところだった。

珍しく桐野の兄も同席している。

その兄にコーシは言ったのだ。


「そういえば、いつもバンビとローレルって言ってますけど。本名ってわからないんですか?」


「ああ、分かっていない。素性も全くつかめていないよ。一度バンビは写真から洗ったこともあったのだけど……結論だけ言うと無駄足だったね」


アキは残念そうに言った。

そう言われたコーシは考える。


なんだかわざとらしいオーバーなリアクションだったので、

子供だからと嘘を言われた可能性もあるが。

伝えてみるのも悪くない。

コーシは言う。


「私。前にバンビとやりあったことがあるんです。その時。自分の名前が金鹿こじかトマリだって言ってました。嘘つかれてるかもですし本名だって確信は無いんですけど。そんな感じはしなくて」


桐野の兄は顔を曇らせて言う。


「残念だけど嘘だね。ちょうどいい。これを見てくれよ」


そう言って取り出されたのは別件の事件調査のファイルだった。

挟まれているプロフィールを見ると自分達の知っているバンビ。金鹿トマリの顔写真が確かに張ってある。

名前も間違いなく金鹿トマリだ。そしてそこにはこう書かれていた。


「被害者死亡により捜査困難。よって調査打ち切り……なんですかこれは?」


コーシは弟の方の桐野にファイルを渡す。

桐野弟は受け取ったそれを険しい顔で見つめている。

野薔薇は見る前から顔を背け、耳をふさいでいた。


桐野兄は野薔薇の様子を見てか、声を押さえて話す。


「何とか手に入れた写真を元に探したらこれが出て来たんだ。警察じゃなくて児童養護施設の管轄だったから出して来るのに時間がかかってね。内容はなんてことない。無能力者が子供を産んで育てきれなくて虐待死させたってだけの話」


もっとも虐待の確固たる証拠はその資料の通り出てこなくてね。

母親は無罪放免。資料を見つけた当時にはすでに精神病棟に居たから。もう亡くなってるかもね。

父親は事件のずっと前から行方不明だ。分かることはほとんどなかったけどドリーム能力者じゃないことだけは確かだろう。

能力者なら自分の子供の養育費に困ることなんてないだろうからね。


そこまで聞いたコーシは言った。


「じゃあ……ここには手がかり無しか」


「そういうこと。けど君の発言で分かったことはあるかな」


アキはこれは憶測なんだけど。と付け足し、推理を展開する。


「バンビは彼本人ではない。だけど姿かたちを写し取って名前まで名乗っているのなら思い浮かぶ可能性は一つだ。彼の関係者。おそらくは身内だってことさ」


それを聞かされたコーシはうつむく。

つまり次はそっち方向に聞き込みに行かされるのか。

コーシは蒼白になっている。桐野弟も無言ではあるが、目の表情からすると嫌だろう。

野薔薇さんに至っては先ほどの料理を戻しそうな程ストレスになっている様子だ。


桐野兄。アキはそんな彼らに言った。


「安心して。君たちにそんなことさせないから。警察の方をなんとか誘導してみる。捜査員を動員してその方向からも調べてみるよ」


「……すみません」


申し訳なさそうにしてるコーシに、アキは心底分からないとでも言いたげにきょとんとした顔で言った。


「なぜ君が謝る必要があるんだい? よく考えたまえ。僕は大人であり警察官であり本来なら君たちを守らなきゃいけないハズだ。そんな僕のわがままに付き合わされているだけだよ君は」


「むしろこれを聞いても手を引くと言わないことに感謝しなきゃいけないぐらいだよ。実際感謝はしてもしきれないと思っている。いつもありがとう」


いつもならこの笑顔と優しさに救われるのだったが。

この人はずるい。

コーシは今回はそう思った。

そう言われてしまえば、手を引くなんて言うことなど出来なくなる。


事実、野薔薇さんは辛そうでギブアップを考えている様子だった。

それを察したのか、アキは言う。


「そうだ。明日はオフにしてみんなで出かけないかい? 久々に休みが取れたんだ」


たまには捜査を忘れるのも悪くないだろう?

家に缶詰にされている野薔薇さんのことを考えるなら断る理由などあるわけもないだろう。

そういう意味でこの人は卑怯で卑劣だ。

だが、だからこそ犯罪者とも渡り合えるのかもしれない。

と思い直して、申し出をありがたく受けることにしたのだった。

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