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10話

そのまましばしじゃれ合ったのち。

気が済んだコーシは言う。


「そう言えばお前なんで来たの?」


いつも来るけどさ

桐野は言う。


「単純にお前が心配で居ても立っても居られなかったから……ってのもあるんだが」


今日は別に用事があってな。

桐野は言った。


「俺の兄貴のことは知ってんだろ。警察官になったってのは話したことがあるし」


「ああ、そもそもお前の家で何回も鉢合わせてるぞ。いいお兄ちゃんって感じだったな。お前とは違って」


「……その件は悪かったよ。機嫌直してくれ。で、その兄貴からお前を呼んで来いって言われてるんだ」


用件自体はここで話す気は無いらしい。

どうしようかともったいぶっていたところに桐野は言った。


「実は兄貴からは野薔薇も呼んで来るように言われててな。今日が退院だったからそのまま俺の家に来てもらってる」


「それを早く言えよ! 行く行く! 言ったうえで無茶言われたら断る!」


「……まあそれでいい。もっともお前は断らんと思うがな」


そこからは早かった。

足早に二人で桐野の家まで向かう。

古風な一軒家の玄関を開けると、そこには確かに野薔薇さんも居た。


彼女は桐野が心配だったのか、ずっと玄関先で待ち構えていた様子だ。

健気な幼な妻にも見えるのが悔しい。

晋作はスポーツマンなのもあって筋肉も上背もあり、見た目はとてもいいのだ。

悔しいことに。

野薔薇さんは説明など不要だろう。

彼女の美しさはこの世界の真理であるのだからな。少なくとも私はそう思っている。

絵にかいたような日本男児と大和撫子。

二人並んで歩けば誰もが振り向くようなカップル。


ここにちんちくりんの自分の立ち入る隙があろうなどと誰が思おうか。

蓼食う虫も好き好き

なんて言うが、よりによって蓼である自分が好きになってしまった桐野もある意味では不幸だなと、なぜか同情心も湧くのだった。


そのまま案内されて桐野宅の居間に入ると、桐野とよく似ているが柔らかな声がコーシにかかる。


「やあ。来てくれたんだね。嬉しいよ」


そちらを見ると声の主が居た。

桐野のお兄さん。

粗暴な弟の桐野晋作とは対照的に皆に優しいお兄さん。

皆がそれぞれの席についたのを確認した彼は言った。


「始めましての子も居るし、自己紹介から始めよっか」


全員がうなづく。

彼が言った。


「はじめまして。僕は桐野きりの アキ。君たちのクラスメイトの桐野晋作の兄で警察官やってます。よろしくね」


その言葉にコーシは会釈で返す。

彼は続けた。


「さて、みんなに集まって貰ったのは他でもない。私立夢見学園襲撃事件についての話だ」


それを聞いた野薔薇がハッとした様子で言う。


「私は。私はすべて警察にお話しました。だから、だからもう」


言いたくありません。

顔面は蒼白だ。

弟の方の桐野晋作が心配してかそんな彼女の背を撫でる。

許嫁に優しくしろとは言ったがそういうことじゃねぇよ。

というツッコミは虚空へと消えた。

桐野の兄が言った言葉によってそれどころではなくなったからだ。


「ごめんね。僕の言葉が足りなかったんだけど、今回の話は警察には関係ないんだ」


むしろ警察には黙っていて欲しい。下手したら僕クビだから。


皆に衝撃が走る。

弟である晋作も驚いている様子だった。

警察官であるのだから当然それに関係ある話だと思い込んでいたのもあるが。

まさか警察官の職を辞す覚悟をもってまで赤の他人である未成年に話すなど予想も出来ないだろう。

驚いている皆にアキは続けた。


「単刀直入に言う。僕たちで独自に犯人を追いたい。協力してくれないか?」


重い沈黙が場を支配する。

そこに桐野の弟。晋作が言った。


「単独捜査にこだわる理由は?」


「……警察が当てにならない。今までの案件とは雰囲気が違うんだ。確証とかは無いんだけど刑事のカンみたいなものかな」


アキはそう言ってウィンクする。

晋作は言った。


「警察にもお手上げなのに俺らに出来ることがあるわけがねぇだろ」


「ああ、警察の方の捜査は当然続けるとも。ただ、同時に君たちにも協力を頼みたい。そういうことかな?」


捜査情報を極秘でリークするから。

それを元に調査してほしい感じだね。

必要な手続きとかあれば僕がやるから。


どうかな?

かなりの大事。もっと言えば犯罪行為なのに。

まるでお使いでも頼むような軽い調子で彼は言う。

それでも皆が首を縦に振らなかったので、ダメ押しとばかりに言った。


「僕の担当部署。ドリーマー関係の犯罪を扱う専属犯罪捜査課なんだよね。命の危険もあるんだけどやりがいのある仕事だよ。そしてそこには当然誰よりも早く情報が入ってくる」


やりがいどころか、現実世界で言うSATなどの特殊部隊並みの殉職率を誇る部署だ。ちなみに、殉職率ではなく「再起不能率」もカウントするならば下手をすると戦争中の軍隊にも勝るかもしれない。そんな場所にいる彼だからこそ、こうなるのは必然なのだろうか。


自分の身など省みずに職務に当たっているのなら、当然、事件解決のために軽犯罪に手を染めるのも躊躇しなくなるのだろう。

みんなのためならばと、ぽんと己を捨てられるのだ。

婚約が解消されるのも無理は無かろう。


そんな彼に桐野弟、晋作は言った。


「仮に俺らが断ったらどうする?」


「どうもしない。僕一人で捜査するか別に協力者を見繕うかだね」


まあ成人だったら手続きを踏めば正式なメンバーとして捜査に加えられるからその方が良いんだけどさ。

それでも本来なら正式には協力できないはずの学生を、協力者として見繕うことにした理由をアキは述べた。


「僕はね。夢見学園に何かあるんじゃないかと思っている。そしてそれは生徒しか知らない情報が糸口になるかもしれない」


少なくとも大人だけが捜査するよりは早く事件の真相にたどり着くはずだ。

そう言われた皆には断る理由など無かった。


「分かった。私は引き受ける。みんなは?」


「異論はない。野薔薇。お前は一緒には来るなよ。俺たちが動く。お前は知恵だけ出してくれればいい」


「……分かった」


野薔薇に対し、アキは言った。


「君の家と相談したんだけどね。僕らが交代で君の護衛をするから、このまま家に居てくれていいことになったよ。外出時は僕か晋作が同行するし、必要なものがあったら何なりと言ってくれ。生活費も預かってるからね、遠慮は無しだ」


兄弟そろってかっこつけよってからに。

ただ、コーシはその行為自体には異論は無かった。

そもそも野薔薇の能力が奪われているのだ。

彼女の神聖不可侵なる能力を奪った彼らに、正当とまでは言わなくても仕返し出来る口実を手に入れられる。

コーシにとってはそれだけで十分だった。

考えごとをしているコーシに大してアキは言う。


「そう言えばコーシくんも家に泊まらない? うち敷地広いから部屋余ってるんだよね。護衛や買い出しは何人居てもいいからさ」


僕は仕事もあるからいつもは居られないし、協力してくれるなら助かる。


「是非とも泊まらせていただきます!」


こうして奇妙な共同生活がスタートしたのだった。


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