トライアングルレッスン:D(デート1)
ひろし: ゆいこ、今年もあの水族館でペンギンの雛のお披露目あるよ。
見に行く?
ゆいこ: え! そうなの? 行く行く! いつ?
ひろし: 次の日曜日
ゆいこ: 空いてる空いてる。よかった~。
可愛いんだよね~、デビューしたての子。楽しみ!
そんな会話を偶然通り掛かったたくみが聞いていた
たくみ: (へぇ~、次の日曜は水族館でデートってか。
抜け駆けだな~、ひろし)
たくみはニマっと笑った。
-日曜日-
ゆいこ: さすが日曜日は混むね
ひろし: お披露目もあるしね。迷子になりそうだな、ん。
ひろしがゆいこに手を差し出す。と、そのとき
たくみ: あれ! ひろしとゆいこじゃん。
ゆいこ: お! たくみ! どうしたの? たくみもペンギン目当て?
たくみ: おれは違うよ。おれはここで、早朝だけのバイト。
で、今上がったところ。
たくみは横目でチラリとひろしを見る。行き場を失った手が所在なさげ。
そして、少しの後ろめたさとイラつきが混じった何とも複雑な表情をしているのが見て取れた。
たくみ: (抜け駆けなんてしようとすっからだよ、ば~か)
たくみは、心の中で舌を出した。
ゆいこ: バイト終わったなら、折角だし、一緒にまわる?
たくみ: そうだな~ じゃ、一緒に行ってやっかな
ひろしは口を開きかけて、何も言わないまま口を閉じた。
-約一時間後-
ゆいこ: 喉渇いたね~。私何か飲み物買ってくるよ。
ひろし: だったら、ぼくが行ってくるよ。ゆいこは座ってて。
何がいい?
たくみ: あ、おれコーラ。
ひろし: お前には聞いてないだろ? ま、買ってくるけど。
ゆいこ: じゃあ、私、オレンジジュース
ひろし: OK
-数分後-
3つのカップを手にひろしが戻ってくるのをたくみは遠目に確認する
たくみ: イテッ!
ゆいこ: え!? 何!? たくみどうしたの?
たくみ: なんか、目に入った。 イテ~。
ゆいこ、わりぃ、取ってくれる?
ゆいこはハンカチ片手にすぐ立ち上がって、椅子に座って上を向くたくみの前に立った。
ゆいこ: 左目だよね? 痛い? すぐ取るよ。
と、そのとき、ぐいっ!!! 勢いよくゆいこは腕を引っ張られた。
ゆいこ: きゃっ! な、なに??
振り向くと、そこには怒ったような顔をしたひろしが立っていた。
ひろし: なにやってんだよ
珍しく、ひろしが声を荒げる。
たくみ: 何って~? おれはただ、目のゴミをゆいこに
取って貰ってただけだけど~?
ゆいこがびっくりしてんじゃん。
あ~あ~、折角の飲み物落としちゃって~
なに? ゆいこがおれにキスしてるとでも思った?
たくみが意地の悪い笑顔を浮かべて、挑発的な物言いをする。ひろしが顔をさっと赤くする。
たくみ: 図星ってか
ゆいこ: たくみ、止めてよ、そんな言い方。らしくないよ。
たまらずゆいこが間に入る。
たくみ: らしくない? じゃあさ、おれらしいってどんなのさ?
ひろし: ゆいこにまで当たるなよ。お前は確かに調子いいところはあるけど
そんな意地が悪い言い方しないやつだろ?
たくみ: 買いかぶりだね! おれはこういうやつだよ。
抜け駆けするようなやつに黙って、好きな女取られたりなんかしない。
ひろしは、ぐっと息をのんだ。その隙にたくみはゆいこを引き寄せる。
たくみ: ゆいこはどうなの? どっちを選ぶの?
おれは誤解を誤解じゃなくしても一向に構わないんだけど。
そう言うと、たくみはゆいこに顔を寄せた。
ぱんっ!! ゆいこの手がたくみを打つ。
ゆいこ: 何言ってんの!? たくみ、何言ってんのよ?
私はひろしもたくみも大好きだよ!
たくみ: 女ひとりに男二人。仲良しごっごも限界ってことだよ。
おれは、ゆいこが好きだよ。ずっと前から。女の子として。
ひろし: たくみ、そんな追い詰め方するなよ。ゆいこが困ってる。
ゆいこは、目にいっぱい涙をためて、二人の視線を集めて、ふるふる震えていた。
ゆいこ: 帰る… 私帰るっ!!
ゆいこは踵を返すと、逃げるように走り出した。ひろしはたくみにきつい一瞥をくれるとゆいこを追いかけていった。
たくみ: はぁ~あ、これでヘタレなひろしもゆいこに告れるかな。ゆいこも
これだけつつけば自分の気持ちに気がつくだろ。ゆいこの気持ちが
本当はどっちにあるのか、正直分かんねぇけど。たぶん、ひろしだろ。
おれの敗因は、ゆいこもひろしもどっちも同じくらい大切で同じくらい
好きだってことだよな。
どっちも失いたくなくて、どっちも失うかもな…
小さなため息をつくと、たくみは空を仰いだ