第16話 朝のひと時。
お久しぶりです。
庭に出ると木剣を振って汗水流しているフレデリアがいた。しかし流石ガーネットの娘というところか。三歳ながらその振る剣の筋は年齢に似つかない程良い。
「あ、シア様こちらにお座り下さいー!」
「うん、ありがと」
靴を脱いで敷かれたシートの上に座る。外でこうやってピクニックみたく食べるのは久しぶりだ。昔は良くやっていたのに。まあ、こんな可愛らしいようなものではなく、シートも敷かずこれよりも素朴な食べ物ではあったが。
「もうしばらく時間もかかりそうですし先に頂いちゃいましょうか」
「そうだね」
「シア様、どうぞ」
「うん、いただきます」
受け取ったサンドウィッチを早速頬張っていく。
うん、美味しい。
しかしこのサンドウィッチはこの俺の小さな口からすると少し大きめのサイズとなっていて、口の周りに具材の卵が付いてしまっていた。
それにすぐ気づいて拭いてくれるところを見ると流石は俺のメイドというところだろうか。
黙々とサンドウィッチを食べおえて、お腹と二個目にいくか相談していたところでフレデリアの素振りが終わった。
「素振りおつかれさま」
「ありがとうシア、私もお腹すいたから隣お邪魔するわ!」
靴を脱ぎ捨てるような勢いでシートに座る。その靴をメイドのミラがしっかりと拾って揃えていた。
「うーんっ、美味しいわ!」
「それはよかったです!ミラさんもどうぞ」
「ありがとうございます。こちらはタマゴサンドですね。あむっ…………んっ、味付けは甘くしているのですね」
「そうなんです、シア様が甘い方が好みみたいで……。うちでは卵料理は甘いのにしてるんです」
「そうなんですね。実はフレデリア様も甘党でして、同じような味がしてびっくりしました」
「そうなんですね!ではこっちのハムとレタスとトマトを挟んだサンドウィッチもあるのでどうですか?」
「ではそちらも…………おっ、私はこちらの方が好きかもしれません。レタスのシャキシャキ感が堪りません。もう一つもらっても?」
「ぜひ。お気に召して何よりです。シア様はそれ以上ダメですからね。沢山食べすぎて動けなくなるのが見えてわかりますから」
「はーい」
勢いよくサンドウィッチを食べ進めるフレデリアを横に、二つ目のサンドウィッチを平らげる。
「ごちそうさまー」
「はい、お粗末です」
そう言いながら渡された紅茶をズーっと喉に通し、調子を整える。
そういえばヨメナがこんな朝早くから出向くのは珍しいことだ。恐らく邪竜の牙が盗まれたからその調査の協力みたいなことだろう。
現在この街の関所はかなり厳重警戒になっていて、外に出る時には何人もの門番たちで荷台をチェックするようにしているらしい。
そしてそのおかげで今のところまだ犯人が街の外に出ていないという目処が立っているため、ヨメナたちは急いで街の警備という名目で犯人探しの手掛かりを探っているらしい。
この身体ではなく、前世の俺であれば何か協力出来ることはあっただろうけど、こればかりは仕方ないこと。
今の身体で前世の力を出そうとしようとするのならば、この身体はすぐに壊れてしまうだろう。
強化に強化を重ねて普通の冒険者よりは活躍できるだろう。数分限定で。もちろんそんなことをする時が訪れないことを祈るばかりだ。
「ヨメナ様たち解決して早く戻ってくれると嬉しいですね」
「うん」
俺はヨメナの無事を願いながら、こっそり二度寝するべく庭から離れた。
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