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事件は思わぬ方向に

 いきなり完全武装の武士が押し掛けて来たら、物凄く混乱するだろう。

 技能実習生を受け入れている農家は、馬のいななきと共に武士の来訪を受けて、何が何だか分からなくなっている。

「この前、殺人事件があったでしょ?

 その事について調べているんだ。

 僕たちねえ、警察とも協力して山の中とか探すんだけど」

 八郎が現代人擬態モードで説明する。

 まあ実際には、警察と連携こそしているものの、こういう事情聴取なんかは認められていないのだが。

 この説明と、六郎が放つ気品と殺気に圧倒され、農家の方も協力すると言ってくれた。

「ああ、お爺さんたちじゃなくてね、ここで働いている外国人さんたちに話を聞きたいんだ」

 そう言うと、農家の者はほっとしたようだ。

 研修生を呼んで、話をさせる。

 外国人からしたら

「オー、ジャパニーズ・サムライ!」

 なんて言いたい所なのだが、どうもそんな気配とは違う。

 サムライというのは江戸時代、精々戦国時代のイメージなのだ。

 それもテレビ画面を通したもの。

 こうして面と向かうと、徴兵のある国では思い当たる連中がいる。

 職業軍人、実戦配備の部隊、そんな感じの緊張感が漂っている。

 そして彼等は、質問に対して

「ワタシタチ、ニホンゴ、ヨクワカラナイ」

 と逃げていた。

「日ノ本言葉話せぬのなら死ね」

 と言いたげな武士たちを制し、八郎はじっと彼等の目を覗き込む。

(知っているな)

 そう察した八郎は、兄に耳打ちして引き揚げさせた。

 リュウ少年を監視役に残して。

 彼は監視役になる時に、現代の日本人の服装に着替えて目立たないようにした。

 まあ、隣まで下手したら1kmという田舎で、余所者が居たらそれはそれで目立つのだが、甲冑姿よりはマシだろう。

 あっさりと、武士たちが帰ったら研修生がどこかに電話をかけているのが分かった。

 リュウはその事を八郎に報告する。


 八郎は俺に意見を聞いて来た。

 そして同じ結論

「携帯の電波が入る場所に潜んでいるんじゃないか?

 山林の奥の方、今でも圏外な場所には居ないと思う」

 に辿り着く。

 更に

「燈台下暗しと言う。

 案外近くに潜んでいるのではないか」

 と思い、駄目元で事件のあった農家に直行した。


 警察の立ち入り禁止線が張られ、人気は無い。

 惨劇の痕が生々しく残っている。

 そして、蔵の天窓が開いているのを見つけ

「あそこだ」

 と確信したようだ。

「えーと……人間が道具も無しに登れる高さじゃないですけど」

「それはお主たちが、であろう。

 やろうと思えば出来る」


 蔵というのは、案外人を隠すのに向いている。

 幕末の志士なんてのも、シンパの商人の土蔵の隠し部屋に潜んでいたりした。

 その時代の建物と構造は違うが、鎌倉時代だって

「百姓とは年貢を隠す部屋の一つや二つ用意するものぞ」

 との事で、蔵に知られていない部屋があると、武士たちはすぐピンと来たようだ。

「一回山に逃げて難を避けた後、隙を見て戻って来て、ここに隠れているのだろう。

 収穫後の米等があるなら、長きに渡り隠れ住むには丁度良い」


 まあそれも現状では推測に過ぎない。

 俺は直ちに警察に通報した。

 後は遠巻きに包囲するだけ。

 間も無く警察が駆け付ける。

 蔵に踏み込もうとすると、武士たちがそれを止めた。

「虚け者なり。

 暗き所に立ち入れば、必ず待ち伏せを受けるものぞ」

 とは言っても、中には誰も居ないかもしれないし、入ってみないと分からない。

「斯様な場合は、こうする」

 攻城用にしか見えない大槌で壁を破壊し、ちょっとした穴を開けると、そこに何かに火を点けて放り込んだ。

「あれは?」

「馬糞と山の草を混ぜたものじゃ。

 あの煙は鼻が曲がるし、息苦しくなる。

 潜んでおるなら出て来ようぞ」

 ちょっとした化学兵器である。

 本来なら「焼き討ちして炙り出す」所だが、六郎はこれでも空気が読めるので、そこまでの強硬手段は取らなかった。

 中から咳むせる声がする。

「もっと放り込め!」

 と悪臭を出す煙玉を容赦なく投入。

「消防の観点から……」

 とぶつくさ言う警察を無視し、武士たちは遠巻きの位置に退いた。

「危うし。

 出て来た者に襲われようぞ」

 と言っているが、現代の警察は射殺をせず、捕らえるのが仕事だから近くにいなければならない。

 案の定、飛び出して来た3人の犯人。

 警察は2人を格闘の末に捕らえるが、残り1人が持っていた武器で警察を殴打。

 捕まった1人を解放し、逃亡を図る。

 そして武器を持ったまま武士たちの間を抜けようとした。

 結果は無惨なるもの。

 武士たちの包囲網に辿り着く前に、多数の矢に貫かれて倒れてしまう。

 これを見た、先程解放されて脱走しようとした者は、何やら喚きながらも武器を捨てて降伏した。


 後で通訳に、その時の発言は何だったのか質問した所

「日本人は簡単に人を殺さないと聞いていたのに、あれ何?

 ヤバいよ、ヤバいよ、本当シャレになってないって!」

 と言っていたそうだ。

 案外大した事言っていなかったんだな。


 かくして事件はあっさりと解決する。

 武士たちが関わっていた事は、警察発表からは除外されていた。

 言ったら別の問題が起こるだけだし……。

 何はともあれ、これでまた六郎たちの株が上がったようだ。

 今回は警察だけでなく、消防団とか猟友会とかとも話をしていて、彼等のメンツを潰さなかったのも大きい。

 捕り物現場には、彼等も居たわけだし。

 こうして手打ちとなり、警察の事情聴取とかも終わった後は宴会となった。


「うむ、世が移ろえども、酒を酌み交わす人というものは変わらぬのお」

 六郎(実は未成年)が盃を傾けながら、そう感想を漏らしていた。


 要は鎌倉時代も、何か問題が起こった後は手打ちの酒宴が催されていたのだ。

 昨日まで殺し合っていても、どうにか面目が立てば手打ちとなる。

 その仲介役が、鎌倉殿だったり執権だったりする。

 時にそこそこの規模の武士団同士の諍いを解決した後の手打ちの酒宴は、まだ緊張感が残る中で、仲介の最高責任者として酒を飲む幕府のトップ連中。

 さぞ味のしない、酔えない酒であった事だろう。


 そんな光景が目に浮かんでいる俺に、六郎が声を掛けて来た。

「此度も骨折り有り難く存ず。

 今後もよろしく頼む」


 嫌なこった!

おまけ:

ちなみに、海外でもこういう話は聞きますね。

対立する2つの部族があり、その両者の顔が立つ形で休戦と自分の事業への協力を要請する日本人。

緊張感が漂う中、双方のトップやその取り巻きを招いての宴会。

宴会費用は日本人が持ち、双方を満足させないとならない。


……こういうのが月に数回あると思えば、鎌倉幕府の飲みニケーションは重要でしょうなあ。

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執権亮太誕生
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