山狩りだぁッ!
「……犯人は依然逃走していて、警察は近く地元消防団や猟友会等と協力して山中を捜索の予定です」
物騒なニュースが流れている。
事件は農村で発生した。
農家で働く「技能実習生」という名の出稼ぎ外国人奴隷。
きちんと労働者として権利を守っている農場もあるが、そうではない所も……。
殺された農家は、明らかに劣悪な環境で過酷な労働をさせていた。
農村なんて
「なんで若い者が出て行ったっきり戻って来ないんだ?」
と嘆く程の過疎と労働力不足、そして戻って来ない理由を改める気が無い社会なのだ。
都会の爺様婆様はかなりの紳士淑女で、農家脳が煮詰まった地域の爺様は暴君だ。
彼等は戻って来ない無料労働者の次男以下や、子の嫁にさせる事を、技能実習生という存在にさせているに過ぎない。
農家脳の家の長男も、外を見ないで育てば同じようになる。
鎌倉時代と同じとは言わない、戦前と同じ感性だろう。
……その戦前が、封建時代と大して変わっていないのだが。
案外彼等は外面は良いから、殺された一家も
「なんであんな良い人たちが?」
となったそうだ。
そして都会の価値観で
「技能実習生というのが酷い労働環境なのは分かる。
同情の余地がある。
だけどそこに居た外国人が結託して、家族皆殺しはやり過ぎだ。
これだから外国人の受け入れは……」
となり、山狩りの運びとなった。
(この村って、六郎が行った村の隣じゃないか?)
今は村ではなく自治体的には◯◯町とか◯◯市の山間部という扱いだが、行政がどうであれ村は村だ。
嫌な予感がする。
そんな時にタイミング良く、八郎が訪ねて来た。
六郎と八郎は隣の鎌倉武士の子息である。
ただし立場には大きな違いがあった。
六郎は正室の子で、同腹の兄が病弱な事もあり、万が一の時は嫡男ともなる。
八郎は側室の子で、既に成人した妾腹の兄が二人も居る事から、相続する土地が勿体ないという理由で出家を決められている。
だがこの二人、妙に仲が良い。
共に現代日本で暮らしているからかもしれない。
この事件の事を知った八郎が六郎に電話で連絡したという。
「あれ?
六郎は電話持ってたか?」
「亀男もリュウも持っているじゃないか」
直接電話は無理でも、傍に居る現代人を介して連絡可能だそうだ。
「それで、守護を任じられた兄上は張り切って咎人を捕らえに赴くそうじゃ」
「へぇ……仕事が早いね」
「わしと、其方も助勢を申しつかっておる」
他人事だと思っていたら、いきなり巻き込まれた!
なんでも、手勢が足りない以上、当たりをつけて山狩りをする、それには知略も必要という事であった。
なお八郎は兄から
「この事は父上や兄上には内密で頼む」
と言われている。
守護たる者が他人の手を借りたとあっては、その鼎の軽重を問われるそうだ。
まあ、薄々気づいていても、大っぴらでなければ黙認だそうで。
例によって拒否権は無いので、俺も出かける。
ちなみに、六郎の今回の事件に対する感想は
「然もありなん」
である。
鎌倉武士からすれば、農民は自分勝手で邪だし、奴婢も主人に隙があれば殺しに来る者。
そんな連中の上に立つには、武力と従う事のメリットが必要だ。
現代日本人の武力の無さは、鎌倉武士が
「ああはなるまい」
と呆れるものだ。
鎌倉武士たちが頑なに現代日本の文明を取り入れないのは、これがあるからとも言える。
立場を変えて考えると、現代日本人に
「強力な武力が身に付きますよ、引き換えに経済力を失いますが」
と言っているのと同じである。
現代社会で経済力が無いと何事にも苦労するのと同様に、鎌倉時代は武力が無ければ敵はおろか、身内や家人・雑色からも全てを奪われかねない。
御成敗式目で
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【御成敗式目第十九条】
「一、不論親疎被眷養輩、違背本主子孫事
右頼人之輩 被親愛者如子息 不然者又如觔從歟 爰彼輩令致忠勤之時 本主感歎其志之餘
或渡宛文 或與讓状之處 稱和與之物對論本主子孫之條 結構之趣甚不可然 求媚之時者
且存子息之儀 且致觔從之禮 向背之後者 或假他人之號 或成敵對之思 忽忘先人之恩顧
違背本主之子孫者 於得讓之所領者 可被付本主之子孫矣」
訳:主人に忠義を尽くして財産や譲り状を貰ったのに、その主人が死んだ後でその恩を忘れ、主人の子孫たちの所領を奪おうとしたら、その財産を没収して子孫たちに与える事とする。
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とあるのは、そういう奴の項目を作る必要があるくらい居た証明である。
武力を弱めるのなら、便利な生活なんて必須なものではないし、むしろ害悪だ。
そしてメリットについて。
律令国家において、人民に均等に与えられる口分田を得ても、それに伴う負担の方が大きかった。
だから有力公家や寺社が政治的に手に入れた無税の荘園庭園の民となった方が得なのだ。
更に荘園の中で様々な徴収があっても、国に対する無税措置の他、祭りの主催、祭神に対する見栄えがする程の負担、葬式の名代、野盗からの防衛、村内で起きた事件の後始末等、荘園主がやってくれると楽なのだ。
自分であれこれやるより、誰かの指示でやった方が楽、その対価で多少の横暴も我慢しようと言うのだ。
だから
「従う者への大盤振る舞いも無しに、ただ奴婢に酷い扱いをし、それでいて従わせるだけの武力も無しなら、殺してくれと申すが如し」
というのが鎌倉武士の解釈である。
そして残忍という思いは無い。
やるからには族滅だ!
「久々に暴れられよう」
六郎、リュウ、郎党たちが生き生きしている。
殺人犯としての処断の他に、解釈次第では主人に対する謀反とも捉えられる。
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【御成敗式目第九条】
「一、謀叛人事
右式目之趣兼日難定歟 且任先例且依時議 可被行之」
訳:謀反人について
式目で謀反の刑罰を細かく決めておくのは難しいので、判例を参考にしながら裁判する
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なので、六郎たちは恣意的に判断する気満々なのだ。
(危険な奴等の狩りの対象になった連中に同情するわ。
犯行せざるを得なかった事情もあったかもしれないし、むしろ叛乱に同情的なんだけど
「だからこそわしらが討ち取ってやる、誉れに思え」
なんて言ってるしなあ……)
山狩りが始まった。
おまけ:
全然関係ないけど、つい思いついたネタ。
御成(敗)戦隊シッケンジャー
・天治星 執権の泰時
・天調星 連署の時房
・天交星 六波羅探題北方の重時
・天佐星 六波羅探題南方の時盛
・天継星 評定衆の政村
で、敵は誰だ?




