家屋敷に一人
ほのぼのとした後には殺伐としようか。
鎌倉武士の八男坊は、十歳に満たずして世帯主である。
使用人を従えている。
彼は遊びに来た幼い妹を送り返す際に、護衛を命じつつ、たまには家族で過ごすと良いと言って、使用人二人を武家屋敷の方に帰した。
近所だし、何も問題が無いと思ったからだ。
だが忘れてはならない。
DQN団地こそ壊滅したものの、この地域の新興住宅地付近は、あまり質が良くない者が住んでいるのだ。
流石に最早鎌倉武士が住む屋敷にちょっかいをかける馬鹿は消えた。
余りにも危険だからだ。
この家の中は日本国憲法の他、近代法は全く通用しない。
盗賊は良くて腕チョンパなのだ。
そうでなくても、薙刀を持った武士が警備をしている家なんて、物騒過ぎて狙うにはリスクがある。
そんなこんなで、泥棒が八郎の住む家に目をつけたのだ。
完全に現代人に擬態している八郎の振る舞いから、今晩この家には子供が一人しか居ないと見て取る。
盗みに入ってくれと言わんばかりではないか。
数人の泥棒が八郎の家を襲う。
「はい、もしもし……」
八郎から電話が来た。
あいつは頑なに生活スタイルを変えない鎌倉武士の例外、スマホとか使いこなしている。
見た目は小学生だから、キッズ用携帯しか契約出来なかったようだが。
(どうやって契約したんだろう?)
俺は疑問に思うが、教えてくれない。
携帯だけでなく、インターネット回線まで引いている。
調べ物をする際にPCの方が便利だから、スマホは機能制限されていても問題無い、単にクラスメイトと話を合わせる為に持ってるだけだとか、生意気な事を吐かす。
つーか、いつパソコン買った?
電話回線とかプロバイダー契約とか、戸籍が無い鎌倉時代人には難しいと思うのだが……。
多分非合法な手段を使ったんだと思う。
「どうやら盗賊が来たようじゃ」
「え?
俺に電話してないで警察を呼べよ」
「それでは戦えぬ。
久々に弓でも引こうと思うてな」
(散々に兄貴をボコボコにしてる癖に、まだ戦い足りないのか?)
「まあ、雑色も居るし、そいつに頼った方が……」
「今宵はわししか居らぬ。
皆は今宵は屋敷に戻した」
(流石に子供一人は危険だろう)
「で、当主や藤十郎たちに連絡したら良いか?」
側室の子とはいえ、一門の者を傷つけるなら武士も黙ってはいない。
それに、盗賊に入られた等、武家の面目丸潰れだ。
知れば賊討伐の為に繰り出すだろう。
鎌倉武士が出動したら、泥棒なんて一溜まりも無い。
やり過ぎてしまう不安の方が大きい。
しかし八郎は
「父上や兄上には伝えて貰って構わぬ。
じゃが、手出し無用とも伝えてくれぬか。
頼みたいのは、後始末だけで良い」
やり過ぎそうなのは、大人の武士だけでは無さそうだ。
「見た目は子供、頭脳は鎌倉武士」の八郎は、現代日本の小学生に擬態しているが、それだけに本性をある程度抑えている。
そろそろその鬱憤を晴らし、思う存分武士らしい行動を取りたいのである。
とりあえず俺は、隣の武家屋敷を訪ねて、執事の藤十郎経由で当主と庶長子の太郎殿に急を報せた。
その後、警察にも一報を入れる。
後から反省した。
先に警察に連絡すべきだった、と。
八郎が得た家は、ごく一般的な住宅である。
たまに三方(三宝)に札束を乗せた者が入って行き、帰りは台だけを持ち帰っているから、見た目に依らず大金を所有していると見られていた。
子供が一人で留守番なら、リスクを犯すだけの価値はある。
強盗になってでも、逃げ切れば勝ちだ。
留守番の子供の正体を知っていれば、リスク計算の結果も変わっただろう。
ドアを開け、ドアチェーンを切ろうとした時、その隙間から矢が当てられる。
八郎の弓は弱弓である。
まあ子供だから仕方がない。
ではあっても、強弓は源為朝、弱弓は源義経が基準だから、判断がどこか狂ってるとしか言えない。
股間に訓練用の矢を受けた泥棒は、真っ青になって悶絶してしまう。
ドアの隙間より眺めると、視線の先で子供が扇を使って手招きしている。
明らかに挑発していた。
その態度に怒った泥棒は、玄関ではなく窓を割って入り、生意気な子供にも危害を加えようと思った。
だが、手前の窓を割り、窓枠に手を掛けた途端に指から出血する。
そんな行動は読んでいたのか、普段からの防犯意識なのか、手を掛けるような場所には刃物が貼られていた。
更に矢を放ってくる子供。
鏃が殺傷能力の無い訓練用とは言え、半端じゃなく痛い。
一方、玄関を開けようとしていた者は、ついにチェーンの切断に成功。
ドアを開けて踏み込む。
その瞬間トラップ発動。
屋敷の打ち壊しとかに使う大槌が振り子となって直撃する。
窓と玄関のトラップに痛手を受けながら、何とか家に入り込んだ泥棒たち。
しかしそこで見たのは恐怖だった。
「おじさんたち、これで住居不法侵入成立だね!
武器も持っているし。
……怖くて殺したって言えば、正当防衛もいける。
まあ、十四歳未満のわしは、こちらの世の刑法では犯罪とならぬようじゃが」
訓練用ではない、狩又の矢を放たれ、かわしたのか、外されたのか、耳だけを落とされる。
矢以上に殺気も強烈なのが放たれている。
二の矢の前に、泥棒たちは本能に従って逃走した。
彼等はその殺気を浴びた結果、八郎の姿が巨大に見えたり、魔物のように見えたりした。
(あれは化け物だ)
逃げ出した先で、彼等は別の少年に遭う。
八郎宅が襲撃されたと聞き、やって来た兄の七郎だった。
七郎は泥棒たちに太刀を突き付けて
「諦めてはいかん。
諦めたらそこで盗賊終了じゃぞ。
八郎如きに負ける事無く、打ち入らぬか!」
と、彼等が思っていた事と真逆な事を叫んでいた。
(は?
こいつ何言ってんだ?)
盗賊たちが意味不明で動けずにいると、
「兄上か?
それなる賊は兄上の仕組みたる事か?」
と八郎が弓を構えながら聞いて来る。
「否。
わしならもっと強き者を使う。
なれど絶好の機会なり。
お主の屋敷は貰う」
「やれるものならやってみよ!」
泥棒の頭上を、風切り音と共に矢が通り抜ける。
七郎はそれを太刀で切り払う。
撃墜された矢には、しっかり本物の鏃が付いていた。
八郎より弱いが、七郎とてそれくらいの武技はある。
弾幕のように放たれた矢でなければ、切り払うくらいは出来るのだ。
「矢は尽きたようじゃな」
「なれば組まん!」
「望むところ!」
双方が太刀を使って切り結ぶ。
鎬を削る戦いに、泥棒たちの体に細かな鋭い削り屑が降り注ぐ。
結局駆けつけた警官は、腰が抜けて動けない負傷した泥棒を難なく逮捕し、銃刀法違反及び決闘罪違反の十四歳未満の兄弟喧嘩を苦労して仲裁する事となった。
泥棒たちは言う
「子供相手なら勝てる……そう思っていた時期が俺にも有りました……」
と。
俺「強いね……」
八郎「白河北殿の門を二十八騎で守り抜いた鎮西八郎殿と同じ名乗りながら、わしはまだまだじゃ」
いや、それ比較対象が間違ってるから!




