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たまにはほのぼのとしよう

「わしの家でぱぁていなるものを催す事になった」

 俺に対し、隣の鎌倉武士の八男坊が相談に来た。

 このチート児童、十歳に満たずして既に自宅を有している。

 下働きの女性と、召使いの中年男と共に住んでいて、かなり気ままな生活が出来るせいか、子供たちの溜まり場と化していた。

 チートな児童だけあって、普通に現代日本に馴染んでいる。

 頑なに生活スタイルを改めない鎌倉武士たちと違って、小学校にも通うし、洋服であちこち出歩いたりもしていた。

 他の鎌倉時代人が、洋服を着ていても何処か違和感を出す、違う時代の空気を纏うのに対し、この児童は長髪以外は完全に現代人に擬態していた。

 擬態と言ったが、何せ中身は武士なんだよなぁ。

 戦わせれば、年齢の割に強いし。


 さて、そんな現代人に擬態した鎌倉武士の少年が何を聞きに来たかというと、

「ぱあていとは、どのようにすれば成功するのか?」

 という事である。

「星なんとかという男が、部屋を飾り付け、甘き洋菓子を台の上に乗せ、烏帽子のようなものを被って客を待つも、誰も現れずに暴れて泣いた話を観てな。

 ああなったらどうしようかと思うてな」

 何故伝説のボッチクリスマス会を観たんだ?

 普通はああはならんだろ。

「しかし、八郎でもボッチは寂しいのかい?」

 と聞いたら

「招いた客人が参らぬとあらば、武家の名折れぞ」

 なんて言っている。

「いや、君、出家するとか言ってたよね?」

 と聞くと

「出家するまでは武士ぞ。

 我が家の面目を失うような事は許されぬ。

 我が家が嘲りを受ける羽目に陥るでな」

 と言って来た。

 この辺り、「見た目は子供、頭脳は鎌倉武士」なんだよな。

 何よりもメンツが大事で、恥は一族を損させるという考えが染み付いている。

「まあ、子供は遊ぶのが好きだから来るでしょ。

 折角の…………一応聞くけど何のパーティーだい?」

 よく考えたら、仏僧になるって言ってる人が、異教の行事をするのはどうなんだろう?

「わしの生誕パーティーとか申しておった」

「へ?

 八郎、君の誕生日なの?」

「らしい」

「らしいって……」

「生まれた日を皆から聞かれたのじゃ。

 わしは左様な事は気にした事が無かった故、母上に聞いてみたら、母上も忘れたと申しておってな。

 調べたら閏十二月の晦日近くとの事。

 それを皆に伝えたら、だったら祝おうとなってな」

 確か日本で最初に自分の誕生日を祝わせたのは織田信長。

 そもそも日本には誕生日を祝う風習は無かった。

 中東産まれのあのロン毛(立川市在住という噂も)の誕生日を祝う風習を知り、天守閣ではなく「天主」と呼ぶ建物に住むような中二病気質がふんだんにある信長が取り入れたようだが……。

 八郎が誕生日パーティーをするなら、信長より遡る事三百年か?

 いや、でも会場となる家は信長から見て未来に存在している訳だし……。

 まあ深く考えるのはやめよう。


 ちなみに、鎌倉時代と現代では暦の方式が違う。

 閏十二月は、まあ多分太陽暦でも十二月付近だろう。

 だけど実際の日はよく分からない。

 あと、側室の子で庶長子でもない八郎は記録が適当だが、正室腹の嫡男と、その弟の六郎は誕生日がはっきり分かるようだ。

 この辺、扱いに差がある所だ。


「して、酒は何を用意すれば良い?」

「日本国憲法適用外の武家屋敷内は兎も角、こっちじゃ子供は酒を飲めません!」

「いや、星なんとかも、シャンパンとか言う酒を……」

「あれは大人だろ!」

「わしとて、こちらの世では稚児が酒を飲んではならぬ、そのような事は知っておる。

 されど、何故か師走の末には稚児もシャンパンを飲むとかあったでな」

「そんな風習ないぞ。

……って言うか、シャンパンと言ってるだけのジュースだな。

 本物のシャンパンは酒。

 子供用のシャンパンは、それっぽい炭酸ジュース」

「なるほどのお。

 それで合点がいった。

 聞いておいて良かった。

 重ねて聞こう。

 この日は鶏を食うのか?」

「まあ、そうだね」

 アメリカなんかは七面鳥だが、日本には居ないし。

 あのゴツい白髪白髭白スーツのオッサンのビジネス展開から日本ではチキンになったのだが、もう定着しているしなあ。

「鶴ではダメか?」

「……ダメだろ。

 素性を知ったら、子供たちドン引きだろうし」

 場合によっては泣き出す子も出そうだ。

「しかし、鶏肉は不味かろう?」

「え?

 美味しいと思うけど」

「硬くて噛みきれぬ」

「どんな鶏食べてるんだ?」

「どんなって、卵を産めなくなった雌鶏に決まっておろう」

 ここでも現代と鎌倉時代のズレがあったようだ。

 雄鶏は刻を告げる生きた目覚まし時計。

 雌鶏は子を増やす為に卵を産む存在。

 そしてそれは食用とされない。

 子孫を絶やす行為として、仏教の観点以外からも敬遠されていた。

 その子孫を増やす能力を使い切った老鶏が、最後に肉として武士たち、公家や寺社以外の者たちに食われていたが、ここまで来ると肉は硬い。

 だから現代の、若鶏の肉とかは「子を残す前に食される」為、忌避したいというか、勿体無いというか、そんな気分になるらしい。

……だからって、狩りで父や兄が獲った鶴は無いと思うぞ。


 鶏はやや敬遠する八郎と、鶴とか朱鷺とか水鶏クイナとか天然記念物だったりする鳥はやめた方が良いと考える俺の妥協点が鴨だった。

 鴨肉なら全員抵抗が無いだろう。


「ついでに、妹ちゃんも呼んだらどうだ?」

「わしの妹と言えば、末か?」

「うん、末ちゃん。

 ケーキとか並べるなら、妹にも食べさせないと可哀想じゃないか」

「ふむ……。

 じゃが、こちらの時代の美味い物を食べ、贅沢に慣れてしまっては為にならぬのではないか?」

 おーい八郎、デカいブーメランが頭に突き刺さってるぞ。

 あんたが一番この時代に馴染んでるじゃないか。

 君こそ鎌倉時代で生きていけるのか心配だぞ。


 とりあえず子供ウケが良い、更に小さい子を連れて来て、料理を食べたり、ゲームをしたり、テレビをつけたらCMで鎌倉武士の下女だったお熊さんが映ったのを観た八郎が飲んでいたジュースを盛大に噴射してしまうとか、色々あって盛り上がったそうだ。

 心配していた、ボッチパーティーにはならずに済む。

 パーティーが終わり、子供たちは帰宅。

 ケーキやジュースで満腹となり、すっかりお眠の末姫を連れて子守りのお猪も屋敷に戻る。

 この時、自分の下働きの者に護衛を命じ

「今宵はそのまま屋敷で過ごすが良い。

 この家屋敷はわし一人で十分じゃ」

 と言ったらしい。


 こうして一人パーティーを回避した後、一人で家に留まり守る事になる八郎。

 このホーム一人アローンな状態が、次なる血祭パーティーを始めるきっかけとなるのだった。

おまけ:

モデル事務所にて。

「ひめちゃん(鎌倉時代ネームお熊)!

 CM決まったよ!

 黒髪が綺麗だって、シャンプーのCMのオファーが来てたんだけど、本決まりになった!」

「はあ……。

 どうにも、髪なんて米の研ぎ汁で十分だと思ってるんで、珍妙な感じだなぁ……」

「うん、ひめちゃんは撮影中は黙ってようね!

 黙っていれば何の問題も無いからね!」

こんな感じで、事務所は徹底的に「余りにも生活感覚がズレている」のを隠す戦略で売り出していた。


おまけの2:

作者は某香川の骨付き鶏の店の親鶏は好物です。

雛鶏も良いけど、どっちかと言ったら親鶏が好きでして。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鶏飯も美味しいですぞ
[一言] 前に大阪北新地にある骨付鳥食べに行ったなあ。両方頼んだけどどっちも塩辛い記憶しかない笑笑
[一言] 大流行のアソコではなく、元祖や弟子が出した丸亀や琴平の店だとまた違う味わい
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