鎌倉武士からの貰い物が招いた事件
冬は農作業に適さない。
しかし、冬だからこそ必要な一次産業の仕事もある。
それが木炭を作る作業だ。
木炭はガスが普及するまでは、戦後でも現役の燃料であった。
長く火が続く為、特に冬場は重宝する。
木炭は年貢として納められていた程に価値があるものであった。
「しかし、この山の樹はいかぬ。
どうしてこうも杉しか無いのじゃ?」
それは江戸時代以降の林業が理由だ。
成長が早く、真っ直ぐ伸びる杉は木材需要が大きかった時代には歓迎された。
戦後復興の時も大量の建材が求められ、伐った分は新しく植える必要があり、成長が早い杉を国策でどこもかしこも植えるようになった。
しかし成長が早いといっても比較の問題。
やはり苗木が大木になるには、人間でいえば二世代くらいの時間はかかる。
その間に世の中が変わり、安い海外の材木に押されて日本の林業は衰退する。
伐り時の大木が活かされないまま生えている。
鎌倉武士たちも、建材として見た時には杉の林を歓迎した。
しかし木炭を作る時になると、その評価は一転する。
「こんなに早く燃え尽きる炭では役に立たん」
火付きが良く、手っ取り早く熱を得るなら薪を使う。
炭は刀を打ったり、仏像を鋳造する為に銅を融かしたりする際に使われた。
だから長い時間燃え続けるのが良い炭なのである。
「試しに作ったが、悪しき……」
まあ奪った山には松とか栗も生えているし、それを使って炭を作れば良い。
「というわけで、余った」
そう言って山村から本拠地である武家屋敷に運び込まれ、武家屋敷から近所の子孫たちに下げ渡される。
当然、取次役で配下扱いの俺の家にも、雑色の平吉が一俵分の炭を持って来た。
なんでこいつらは、考えも無しに大量に作ったのだろう?
そして現代日本は、炭を使って暖を取る造りにはなっていない。
それはこの後、ある事件により実感する事になる。
炭は熔鉱炉の燃料に使わずとも、他の使い方もあったりする。
脱臭剤に使えるし、簡単な火鉢程度なら十分だ。
母親が炭から焼き魚を作ってくれた。
遠赤外線とやらで、中々美味しく焼き上がっている。
それにしても、使い切れない。
一俵分は多過ぎだ!
「其処元は良く働いた故、御当主様格別のお計らいじゃ」
と、他の親戚よりも多めにくれたようだ。
無論、多過ぎますとか不要ですという答えは聞いていない。
やると言ってのだから、有難く受け取れ、というものだ。
そんな事もあり、母親が買い物に行ったりした時に、大量の木炭が余って困っている、という話をご近所さんたちとしていた。
ご近所さんの中には同じように鎌倉武士から炭を貰った人もいて、やはり処理に困っているようだ。
「有っても大変よねえ」
「今更そんなに使わないしねえ」
そんな話に、ドケチで有名なある奥さんが割り込んで来る。
「そんなにあるなら、貰ってあげようか?」
通常なら、こういう厚かましい人には「どうしてそれ程親しくない貴女なんかに」みたいに言うだろう。
しかし、ここらの還暦超過の女性たちは、「クレクレ」に対し「ヤルヤル」気質がある上に、実際に有り過ぎて困っているのも確かだ。
だから
「どうぞ、どうぞ。
好きなだけ持っていって下さい」
なんて言って、そのドケチさんを喜ばせる。
早速、自家用車を使って取りに来た。
「貰いに来たわよ」
俺はこういう厚かましい人は嫌いなのだが、母親から話は聞いていたし、何よりも本当に要らない。
必要以上に有り過ぎる。
ビニール袋一つ分だけを残し、全部差し上げた。
餌付けになって後が怖い気も、その時はした。
このドケチさん、他の家も回って炭を持ち帰ったようだ。
更に七輪やら火鉢やらも
「貰ってあげる」
と言って回収していく。
後で分かったが、この人、余るくらい持って行ったものをネットで売りに出していたようだ。
価格としては適正価格よりも安いくらい。
無料で仕入れ、競争で勝てる価格設定にし、儲けを得ようとしたのだから、そこは感心する。
しかしそれも叶わなかった。
しばらくして、そのドケチさん家が全滅していた事を知る。
木炭がネットで売りに出され、購入されても一向に発送報告も、購入御礼の連絡も無い。
アパートでもその一家を見かけなくなった。
騒がしかった部屋が不気味に静まり返っている。
そんな中、合鍵を持っていたお姑さんが部屋に入ったところ、一家全員眠ったまま亡くなっているのを見つける。
一酸化炭素中毒であった。
エアコンは動いていない。
換気扇も回っていない。
かつて
「これが賢い主婦の節約術よ」
とか自慢していた、窓やドアに貼ったテープも見える。
あちこちから貰って来た火鉢には、燃え尽きた大量の灰が残っていたという。
「一酸化炭素中毒ねえ、僕知ってるよ」
チート頭脳の鎌倉武士八男坊が話に割り込んで来た。
この子は、ひとまず出家は先送りとなり、以前の推理で殺人事件を解決した後、色々手を回して奪った犯人宅を恩賞として貰い、そこで「蘭」という名の下女と、「おっちゃん」と呼んでいる下男に世話をして貰いながら住んでいた。
警察が捜査情報を漏らす事は無いので、状況から推理する他無い。
「この時代の家は密閉性が高いからねえ。
話を聞くと、その人ってケチなんでしょ?
電気代を節約する為に、炭で暖を取ろうとしたんだろうね。
でも、炭って案外あったかくならないものだよ。
それで多くの火鉢を置いて、そこで炭を焼いた。
そうすれば温かくなる。
そのまま眠ってしまった。
大きい家なら兎も角、アパートなんでしょ?
じゃあ、そういう事になるよね」
納得の理由だ。
現代の住宅は気密性が高い。
その上、更に自然に起こる換気すら目張りテープで塞いでいた。
そんな中で、目一杯炭に火を点ける。
(練炭自殺って言葉を、知らなかったんだろうなあ……)
ドケチさんは兎も角、それに突き合わされた家族は可哀想としか言えない。
家族の中に、ちょっとでも知識がある人が居れば救えた事故だったのだが。
警察では、ここまで密閉して大量の炭を使った事で「自殺の可能性」も考えたそうだが、聞き込み調査の結果、単なるドケチでそうした事、ネットオークションへの大量出品の履歴から、死ぬ気は無かったものとして事故死として処理される。
なお、近所の「ヤルヤル」気質のおば様方、家の母親も含むが、
「物を知らない人に色々あげたら、こんな事になっちゃうのねえ……」
とちょっと反省したようだ。
それを鎌倉武士の方も分かってくれるのなら……。
おまけ:
七郎「なんで八郎が家屋敷を得て、俺には無いんだ?
弟の癖に生意気だぞ!」
八郎「物の役に立っていないからだろ」
相変わらずこの兄弟は不仲であった。
※オバカン=over 還暦
※炭焼きはちゃんとした小屋が必要ですが、鎌倉時代人は基本的にT◯KIO以上には自前で何でもするので、作りました。
ただ、科学技術レベルはTOKI◯より低いので、炭も昔ながらの……ってものです。
杉も作り方次第では良い炭になるっぽいです。
(そういう研究がされてました)




