表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/143

鎌倉武士の子供、現代の学校に体験入学

「事情があるのは分かりますが、就学年齢の児童が学校に行っていないのはどうかと思いまして」

 教育関係の人間がそう言って来た。

 だ~か~ら~……、いくら取次役でも俺に言われたって困るんだわ。

 大体、鎌倉武士の子に現代の教育受けさせたら、物凄くヤバくならないか?

 将来は出家させる、今だけ好きにさせているっていうのが八郎の立場なのだが、それは確定してはいないぞ。

 病気とかで兄たちが全滅したら、この子が当主となる。

 そして、このガキ尋常じゃないくらい頭が良いんだぞ。

 その立場になったら歴史を変えかねないくらい。

 日本全体に影響を及ぼす立場にはならないだろう。

 しかし、所謂「バタフライ効果」という言葉もある。

 本来の意味とか、実際の答えは兎も角として、例え坂東の片隅で何かやらかしたとしても、それが引き金となって事件を起こしかねない、そういう可能性は捨てきれないのだ。


「学校ね。

 行ってみたいなあ」

 八郎はあえて子供っぽい態度で、教育関係者に言っている。

 結果、体験入学をしてみようという事になった。

「大丈夫。

 こっちの時代で得た知識を、過去で使う事はしないからさ」

 なんて言ってるけど、博打をさせたら平気でイカサマをやってのけ

「イカサマを見抜けなかったのは、見抜けない人間の敗北」

 なんて言ってのける児童を、誰が信用出来るか!


 体験入学、登校日。

「あ、八郎君だ」

「八郎君も学校に来るの?」

 既にガキ大将、しかも味方には手厚い八郎は人気者である。

 だが、一方で敵も多い。

「おい、てめえ、こんな所に来やがったのかよ」

「今度は負けねえからな」

「刃物を持っていないよな。

 武器が無ければお前なんか怖くないからな!」

 そういって八郎を嫌う子供たちが喧嘩を吹っ掛けて来る。

(やれやれ。

 今日くらいは問題を起こさず、じっとしていようと思うたが……)

 喧嘩を売られて買わない程、八郎は大人ではない。

 いや、子供なんだし、あの時代は大人の方がもっと喧嘩っ早いのだが。

(む、あそこに教師が居る。

 こいつらも、教師が見ているから、露骨には手を出して来ないのだな)

 情勢を分析すると、八郎はニヤリと笑った。

「なんだよ。

 何笑ってんだよ、気持ち悪いな」

 子供たちは分かっていない。

 笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である、らしい。

 少なくとも鎌倉武士の場合はそうであろう。


「う……」

 子供の一人が急に倒れた。

 密着状態で、暴力なんか振るえる訳がない。

 だが、その子は言葉も出せない程悶絶しながら、倒れ、のたうち回っていた。

「おい、お前、何やったんだ?」

「何もやってないよ。

 君たちが囲んでいたんだし、攻撃なんか出来ないじゃないか」

「じゃあ、なんで倒れているんだよ?」

「さあ?

 悪いものでも食べたんじゃない?」

 急いで教師たちがやって来て、倒れた子供を保健室に運ぶ。

 周りの子たちに話を聞いて、八郎が囲まれていて色々言われていた、という証言を得た。

 八郎はこの時は加害者ではないと認定される。

 誰も殴ったのとかを見ていないのだから。


 だが、保健室に運ばれた子供を、服を脱がせて怪我していないか確認しようとした保険教師は愕然とした。

「なに、この拳大の陥没痕は?」

 肋骨の辺りが陥没していて、骨も折れているようだ。

 急いで救急車が呼ばれ搬送される。


「ねえ、八郎君。

 君がやったのかい?」

 教師がもう一度聞いたが、八郎はシレっと

「何を?」

 と聞き返す。

 事情を説明すると

「えー?

 そんな事出来る訳がないでしょ。

 僕、子供だよ」

 と返したらしい。

 小学校の教師たちも、それはそうだと納得してしまう。

 子供の力でこんな怪我を負わせられる訳がない。

 大体、周囲に他の子が居て、殴ったりする空間的余裕は無かったのだから。

 密着した状態で、拳を相手に当てて、そこから骨折させるような打撃を加えられるなんて有り得ない。


 その日、体験入学で授業を受けた八郎は、色々と学ぶ事が有ったそうだ。

 下校して俺に色々語り、勉強用の本を持っていないかと聞いて来た。

 特に算数に感銘を受けたそうだ。

「九九とやらを覚えるのは、中々良い事と思うた」

 武士は計算が出来ない事は無いが、七の掛け算辺りは怪しいらしい。

 学問としての数学には興味が無く、実物を数える上で、例えば矢を束ねてそれの掛け算とかはするが、実物が百個を超えれば

「もう面倒臭い。

 これくらいじゃな」

 と丼勘定となるそうだ。

(頭が悪いのではなく、気が短くて嫌になるだけだな)

 そう思った。


「それで、朝の騒動の後は勉強して帰って来たんだね。

 それは良かった」

 しかし八郎は笑顔で首を横に振る。

 放課後に喧嘩を吹っ掛けられたそうだ。


「お前、朝はよくも俺の友達をあんな目に遭わせやがったな。

 覚悟しろ!」

 そう言って、掃除用具のモップで殴りかかって来たそうだ。

 黙って殴られる八郎ではない。

 踏み込んで重い一撃を入れる。

 相手が動いていた事もあり、衝撃は吸収されるのではなく、吹き飛ばされるエネルギーに変換された。

 壁に叩きつけられて倒れる相手。


「八郎君、今は暴力振るいましたよね」

 今回は目撃者も多数だったので、殴ったのは明白だ。

「どうしてですか?

 言って下さい」

 八郎はわざとらしい子供の表情で

「手を伸ばしたとこに偶然この人が」

 なんて言ったそうだ。

 だがやはり周囲が

「八郎君はずっと我慢してたんだけど、こいつらが」

 とフォローしてくれ、更に

「あいつがモップで殴ろうとしていたけど、避けたら他の子に当たるかと思って……。

 ごめんなさい……」

 としおらしくして見せたら、教師たちも納得したようだ。

「他の子への気遣い、エレガントだ……」

 とりあえず、見境なく喧嘩を売るような子供ではない。


 しかし……

(このパンチの破壊力……。

 本当に朝の事件で、陥没骨折はこの子の仕業ではないのか?

 やれるだけのパワーはあるんじゃないのか?)

 と教師は不審がった事だろう。


「まあ、学校は楽しかった。

 また行っても良いぞ」

 なんて八郎は言っているが……行かない方が面倒が起きなくて良いよなあ……。

問い:

俺「そう言えば、鎌倉時代って学校ってあるんでしたっけ?」

吉田民部「確か、下野国にそのようなものを置いていたような……」

(※頼朝の義弟・足利義兼が創設した説でいきます)


一般的には、僧侶とか学者とか学問を修めた下級公家とかを招いて、有職故実を学んだりしたそうです。

上級の武士だと結構な教養は有りました。

(教養があっても、蛮族ではないと言っていない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 鎌倉なのに陸奥とはw 一子相伝の格闘術ではないか!
[一言] 突然のシグルイやめろww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ