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鎌倉武士の現代日本探訪(出発編)

 お隣の鎌倉武士の当主六男一行との現代日本旅行は、まだ始まらない。

 風呂に入れて、垢と汗は落として貰った。

 次は服を改めて貰う。

 こんな相撲の行司のような衣装の者を連れ歩く訳にはいかない。

 自分の服を貸すが

「斯様な珍妙な服は好かぬ」

 と文句を言ってくる。

 ここは彼等にも分かるように話して説得しないと。


「六郎殿は京で大番役をした事は?」

「まだ無い」

「その話は聞いてますか?」

「父上より聞いた」

「御所に参内する時は、番所に詰める時は衣服を改めましょう?」

「左様聞いた」

「では、そうだと思って、珍妙奇天烈でも服を場所に合わせましょう」

 まだ納得はしていないようで、同じような例え話を繰り返した挙句、漸く根負けしてくれた。

 まあ髷を解く訳にはいかないし、(ふんどし)をパンツにも穿き替えさせられないから、帽子とダボダボのニッカポッカズボンという出で立ちになった。

「あたかも袴が如し」

 と、なんか喜んでいるから良いか……。


「じゃあ、靴を履いて下さい」

草鞋わらじで良い」

「草鞋だと、こんな岩の上みたいな硬い道だと、擦り切れてボロボロになりますよ」

「替えを持てば良かろう」

 またしても問答が始まる。

 どうにかこうにか、郷に入っては郷に従えという感じで承知させる。

先坪(まえつぼ)が無いと、いと気疎けうとし……」

 足の親指と人差し指の間に挟むものが無いと、どうにも違和感があるようだった。

「足袋でも履いたらどうです?」

 俺の母親がそう言うと、鎌倉時代人一同困った表情となった。

「わしは患い人に非ず」


 足袋御免といって、武家で足袋が許されるのは足痛や神経痛が発症した事を主君に届け出、許可を貰う方式になっている。

 基本的に武家は足袋禁止、素足で居る事が義務づけられていた。

 公家なら足袋は良いのだが。

 俺は基本的にサンダル履きだったから、彼等も気にしていなかった。

 先日先祖を訪ねた老人たちは、当主と会った時に靴下を履いていたが、相手も足腰の弱った老人だと見て咎めていなかった。

 他は基本、屋敷内には上げられず、庭での立ち話であった為に靴下も特に気に留められていない。

 結構な偶然で、靴下の存在は盲点となっていた。


「そんなら、全員サンダルでいけば良いだろ。

 俺のをやるから、それを履いてって貰え」

 親父がそう言う。

 この辺の旧町民は、クレクレの反対でヤルヤルと物をあげる事に抵抗が無い。

 それがDQN団地の連中を餌付けしていたようなものだが、鎌倉武士たちとは非常に相性が良いようだ。

 人数分無いとなると

「ちょっと待ってて貰え。

 今行って買ってくるから」

 と出かけてしまった。

 とりあえずサンダルが来るまで自宅待機。


 その間、最大の問題に直面する。

「じゃあ、刀は置いていってね」

「ならぬ!」

「ならぬと言われましても……」

「ならぬものはならぬ!」

 武士ってこうだろうなぁ……。

「現代において、刀を持ち歩くのは犯罪です」

「佩刀は武家の習いぞ」

「武器を持ち歩いたら捕まります」

「弓矢は持たぬ。

 合戦や狩りに有らぬでな。

 じゃが刀は武家の身嗜み、持たぬ事はならぬ」

「このままでは出かけられませんよ」

「押し通る!」

「それは困りますって。

 警察……貴方たちで言うなら検非違使に迷惑が掛かります」

「其は合わぬ事を申す検非違使に非有り。

 一戦交えて武士の意地を見せん!」


 どうあっても刀だけは譲る気が無いようだ。

 そこに近くの店でサンダルを買って来た親父が戻って来た。

「どうした?」

 俺は事情を説明する。

 親父はちょっと考えた後、こう聞いた。

「腰に差して無いと駄目ですか?」

「腰に差すは刺刀(さすが)じゃ。

 太刀は佩くものぞ」

 そう言って短刀を腰から外して見せる。

「太刀は腰から吊るしてなくても良いですか?」

「太刀持が居れば良し」

「ならどうにかなるな」

「親父、どういう事だ?」

「丁度三人も居るんだし、長い刀の方は持って歩けば良いだろ」

「それだって犯罪だろ?」

「居合刀って事にして、袋に入れて歩けば良い」

 要は「本物じゃない」ように見せれば良いという事だ。

「太刀持ちが傍に居て、そこに刀があるなら良いですね」

「うむ……、まあ良しとしよう。

 御父君が左様申すなら従うとする」

「じゃああとは、その脇差は腰に差して良いとしましょう。

 武士がいざという時に身を守る刀の一つも無いのは、心許ないでしょうから」

「待て、親父!

 それも犯罪だろ!」

「見えないようにすりゃいいんだよ。

 ちっとは頭使え」

 確かに見えなければ、実はナイフを持ち歩いていました、とか現代でも有る事だ。

 ある程度以上の刃渡りのものが見つかれば、アウトなのだが……。




~~~~~~~~~~

 源頼朝の父、左馬頭義朝が平清盛に敗れた後、尾張国野間の長田忠致の元に逃げ込んだ。

 だが長田父子は義朝を裏切る事にする。

 義朝は入浴中を襲われ、命を落とす。

 その際にこう言ったとされる。

「我れに木太刀の一本なりともあれば」

~~~~~~~~~~




 風呂(当時は蒸気サウナ)に刀を持ち込めば、塚糸から目釘、更には刀身が濡れて綻びる。

 だから風呂には刀を持ち込まないが、それ以外の場所では身を守る刀は、トイレであっても肌身離さず持つのが武士の習いであった。

 太刀はちょっと離れた場所にあっても、腰に一本の刀があれば、それは小刀でも良い。

 これでやっと妥協が成立。


「でも、かなり無理が無いか?」

 俺は親父にそう言うと

「だからお前を頼って来たんだろ。

 お前が何とかしろ!

 差し当っては、これこれ、こういう事情だからと警察に連絡しておいた方が、後々面倒にならないんじゃないのか?」


 そういった処理は俺の担当のようだ……。

 親父が今度は武具屋に行って、刀袋を買って来るまでの間に、俺はその辺の面倒事を処理する事になった。

 その後ろでは何杯もお茶のおかわりを淹れて来る母親と、それをガブ飲みしている鎌倉武士たち……。

 大盤振る舞いの語源は、鎌倉時代にもあった椀飯振舞(おうばんぶるまい)である。

 彼等も出されたものはきちんと飲み食いするのが礼儀と思っていた。

 洋菓子なんか振る舞っているし……。

 ヤルヤルな気質のある母親と、出されたものを食いまくり、飲みまくる者たちを横目に、俺は色々と電話をかけまくるのであった。

中々玄関から出られない……。

こういう面倒臭さも古武士と呼ばれる人たちの特徴ですな。


19時も投下します。

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[良い点] 本日もありがとうございます! >「待て、親父! >それも犯罪だろ!」 >「見えないようにすりゃいいんだよ。 >ちっとは頭使え」 www
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