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現代日本は林業を持て余しているので……

 子孫の危機を救う事で、鎌倉武士は現代日本において、思わぬ大きさの土地を得た。

 だが実はその土地は、奪った者たちも持て余していたものがある。

 宅地として貸し出している土地は、慰謝料として得た女性がそのまま運用する。

「私が間に入り、貴女にはただ収入が入るだけにします。

 税の問題とか、管理会社との契約なんかもお任せ下さい」

 と、やはり武士の顧問弁護士をするような悪党が、上手く中に入り込んでいたが。


 問題は農地と山林である。

 地主だからそういう土地が多い。

 戦前は、小作人とか奉公人がいて集団で運用をしていた。

 家族も多かったし、昔はそれでやっていけた。

 しかし小作人とかが居なくなり、核家族化も進み、若者の農業離れもあって、その土地は遊んでいた。

 だからこそ、土地は手放したくないそこの家の舅・姑が嫁をこき使って農作業とかさせていたのだが。

 条件闘争で、農地や山林を手放す代わりに有価証券類は残される。

 これがWin-Winの関係となった。

 宅地は痛いが、農地と山林は売っても二束三文にしかならない。

 額としては有価証券類の方が多く、確かに記載されている財産の大半を奪われるも、一番価値がある物は残ったのだから、相手もまだ納得出来た。

 一方で鎌倉武士に「有価証券類」は何の価値も無い紙切れである。

 鎌倉時代では相当な知識人の家政担当者・吉田民部も

「株券?

 国債?

 よく分かりませんな」

 てな具合であった。

 彼等は土地が手に入ったから、大満足であった。

 それが現代日本では無価値に近いものであっても。


「さっさとあの十階堂の制圧を終え、替え地を得たら、こちらの世の所領は六郎に任せたい」

 当主はそう言っている。

 基本的に鎌倉時代は分割相続。

 しかもこちらの時代の土地は鎌倉幕府が認知していない土地。

 地頭を置かれる事も、改めて任命して貰う必要もない。

 勝手に使える地なので、偉い方の武士なので表情をなるべく表に出さない当主も、分かりやすくニコニコしていた。

 嫡男の三郎が、現代日本の医療のおかげで病気をしなくなって来た為、正室腹の六郎には継がせる土地が鎌倉時代には無いかもしれない。

 それがこちらの時代で手に入り、才覚次第で幾らでも増やせるとあらば、家が抱える問題も解決出来るというものだ。


「こちらの時代での登記変更ですが……」

「国衙領ではないですな?

 されど税を納める事は必要で……」

 何やら家政担当の下級公家と悪徳弁護士とが土地活用についての話をしている。

(俺は何でここにいるんだろう?)

 何も口を出せる事も無いのに、同席させられている。

 何だかんだで、先祖は俺の事を認めているようで、とても可愛がってはくれる。

 大相撲における「可愛がり」に近い気もするが。

 こういった場で聞いた話だが、手に入れた山林は放置されていた為、ちょっと問題があったようだ。


 林業は個人経営では中々出来るものではない。

 木を植えても、その周辺は綺麗にしておかないとならない。

 太い枝が出来てしまうと、木材にした時に節になる為、枝打ちとかしないとならない。

 そうして成長した木を切るのも一苦労だ。

 某県での林業従事者死因第一位は、少数で作業をしていて、倒れた木や滑り落ちる木の直撃を受けたものとなっている。

 そうして苦労して木を切ったら、誰がどこに運び出す?

 生木は使い物にならないのだが、どこで加工し、乾燥木材にする?

 生計を立てられる山林所有者は、法人化して作業者との契約や、木材置き場の確保と整地、業者との取引なんかを業務として行っている。

 今はそんな時代だ。

 戦後すぐの頃とかは、木材とは「建築材料の他、鉄道の枕木(交通インフラ)、炭(燃料)、工芸品の材料」として重宝され、ついでに「花が咲く木の下に養蜂箱を置く、椎茸栽培する(食糧生産)」とか「漆の木に傷をつけて樹液を採取する」とかと多岐に渡って有用であった。

 だから昔の山林地主は、自分では何もしなくても、業者の方から頭を下げて来て、何でもやって貰えた上に大金を手に入れられた「お大尽」だったのだ。

 そのように育っていたからこそ、例の婚家は時代が変わって海外の安い木材に押されようが、傲慢な態度でいられたのだ。


 だがやはり、現代においては手に余る土地で、誰も下草刈りもせず、間伐材の活用もせず、荒れるに任せていた。

 個人ではどうにも出来ない。

 売っても大した額にはならない。

 そんな土地だが鎌倉武士たちにしたら

「(強制的に)働かせる者なら幾らでもいる!」

「売る相手なら知っている」

「薪がこんなに手に入るなら、実に良いではないか!」

 となるのだ。


 こうして労働者を派遣し、山の運用を始める鎌倉武士。

 労働基準法? なにそれ? な武士たちにしたら、過酷・長時間労働・低賃金でこき使うのが当たり前であり、林業経営は苦にならない。

 そして手入れを始めて分かった事があった。

 この山、どこかの者によって不法投棄をされていた。

 窪地になっている場所に、廃家電とかが大量にあった。

「これは行政の方に申し立てをしておきますね」

 と弁護士は言っているが、自力救済が基本の武士がそれで済ませる訳がない。


「又三郎!」

「はっ!」

「彼の所領に砦を造れ。

 そこに入って、不届き者を成敗せよ!」

「仰せのままに」

 鎌倉時代の砦は、後の時代のような大層なものではない。

 寝泊り用・馬用・倉庫用の掘っ立て小屋に、周囲には木柵を巡らせた程度のものである。

 掘っ立て小屋も、竪穴式住居だったりする。

 そんなだから、簡単に作れて、そのまま兵を待機させての監視態勢に入った。


 果たして彼等はやって来た。

 トラックに廃棄物を載せ、不法投棄作業に入る。

 それを確認すると、又三郎は矢を放った。

 暗闇だったから命中はせず。

 頭上をヒョオオオオという音を鳴らして通り抜ける鏑矢。

 びっくりした彼等は、甲冑を着けた武士や雑色が、松明片手に襲い掛かって来るのを見た。


「出た!!

 落ち武者の亡霊!!」

 それは脅かす為のコスプレではない、本物だけが出せる生々しさがあった。

 現代基準では、人間のものとは思えない生臭さ、髪の感じも顔の感じも「落ち武者の霊」のようである。

 暗闇の中、松明に浮かび上がった武士たちは、足が見えなかった事もあり、本当に不気味そのものであった。

 廃棄業者は来たトラックに乗り込み、慌てて逃げ出した。


「おのれ、背を向けるとは卑怯!」

 既に逃げるトラックに何発も矢を命中させてから、又三郎が文句を言った。


 かくして

「あの山には落ち武者の霊が出る」

 もしくは

「頭がおかしい、侍の格好をした何かが住んでいる」

 という事になって、不法投棄は止む事になった。


……ああいう連中には、法で何とかよりも、実力行使の方が効果的なのかなあ……。

おまけ:

山林地主の話は作者の家がそうでして、例えて言うなら

・鉄道関連業者(交通インフラ)

・油田主(燃料)

・ゼネコン(建築資材)

のようなものだった、と聞きました。

田舎の地主だったので、他にも様々な事業をして「いた」そうです。

何せ、黙っていても買い付けに来るから、曾祖父辺りは大旦那様として構えていれば幾らでも儲かったようで。

寺社への「建築素材として、木一本丸ごと寄進」とかもしていたそうで。

また境界を巡っての争いとか、水場をどうするとかの問題もあったとか。

作者が鎌倉~室町辺りの事に何となく興味あるのは、田舎ではそれが割と「リアル」に昭和まで続いていたからでした。


昔は、です。


戦後から今に至るまで色々あったんですよ。

鎌倉時代後期の「財産分割したら零細化するよ」は、リアルな話です。

作者の代では既に大半を手放した後で、残った部分もとっくに持て余してまして。

不法投棄の件も実話だったりします。

実力行使の件は、実際に「やってやろうかな」と思った事だったりします。

(甲冑に弓矢じゃなく、ギリースーツにエアガンで)

林業組合かどこかで何とかしてくれたようですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! 殺伐系コメディとして、なろうでもおそらく数少ない良質娯楽小説であると同時に、現代日本の問題点(※)をそれとなく照らし出す、私好みの話です。 (※今話の場合、…
[一言] 輸入木材も居たかったけど、一番痛かったのはガスの普及らしいですよね(当方の父方実家も元山主でした) おかげで残ったのは丘の上の通うの大変な家と段々畑で伯父の代に叩き売ったらしいですが。
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