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鎌倉仏教の僧侶の人生相談

 最近「面白い僧侶がいる」という事で、譲念和尚の所に色々と相談に来る人が相次いでいる。

 近所の爺様、婆様が話していたようで、それが口コミで広がった模様。

……良いのか? この人、法衣を着ているが中身は鎌倉武士だぞ。

 何よりも俺の家をそういう場に利用しないで欲しい。

 親父もお袋も、一々お茶出してもてなす必要無いから!




「上司に自分の仕事を取られて、全部その人の功績にされているんです」

 そう言った悩みの相談者に対し、譲念和尚は言った。

「その者は、同じ場に居るのか?」

「え?

 ええ、同じ職場ですから」

「うむ、それはまだまともな者じゃな」

「へ?」

「治承寿永の折も、承久の折も、合戦の場に来てもいないのに手柄を申し出る不届き者が居ってな。

 酷い者になると、無関係の者を殺して、その首を手土産に恩賞を求めておった」

(それ、あんたらだろ?

 それやって、今でも残党からテロされてるんじゃないか……)

 ツッコミたかったが、黙っている事にする。

「まあ恩賞を盗まれる等、古来よりある事じゃ。

 そうされたくなかったら、目印をつけておく、己の名を連呼する、証人を見つける、じゃな」

 鎌倉武士の場合、相手に放つ矢にも自分の名前を書いておくし、戦場でもどこの家の者かはっきりさせる為に笠標を用意するし、複数人で行動してその者に自分の功績を証言して貰っている。

 証人に関しては、相手の功績に対する証人に自分もなる必要があるが。


 その相談者は頷き、以降電子ファイルにも自分の署名を入れる、フッタ部分に自分の名前でコピーライトしておく等をして

「なんで一々こんな事をするのか?」

 と聞かれる事で問題を顕在化させる事に成功したのだった。




「どうやら私の子は、実の子じゃないようなんです。

 托卵で間男の子らしいんです」

 深刻な相談に、譲念和尚は言う。

「我が子として育てよ」

「それじゃあ……」

「そして、長じたら己の為に働かせよ。

 庶子とはそういうものぞ」

 ここの鎌倉武士でもそうだが、側室の子は育てられはするが、成長後は家臣扱いである。

 人生は勝手に決められている。

 元々の五郎だった慈悟僧侶だって、病気で盲目になったら

「出家しろ、修行が終わったら我が家の為に祈祷でもせよ」

 と命令されていた訳だし。

「でも、それじゃ気持ちが収まらなくて」

「当然じゃな。

 その妻と密通した者には報復が必要じゃな。

 太刀を貸すゆえ、殺して来い!」

(仮にも仏教の僧侶が殺して来いとか言って良いのかよ!)

 ツッコミたいが、我慢我慢……。

「頼朝公の尼御台(北条政子)も、頼朝公の妾の館を襲い、打ち壊したのじゃ。

 最初は辛抱しておったのじゃが、そうすると付け上がり、小坪から鎌倉に近い飯島に居を移した。

 これは一度恐ろしさを見せねばならぬと思うたのじゃろう。

 後妻(うわなり)打ちをして、心底怖がらせたのじゃ」


 この言葉に背を押された男は、不倫の二人に壮絶な報復をする。

 そして恐ろしさを見せつけた上で、子供を育てていく事にはした。

 さて、その子が長じてどのように扱われるかは、今はまだ分からない……。




「妻と娘に無視されていまして……」

 この相談に譲念和尚は一言返す。

「なら殺せ」

(それを僧侶が言うのか?)

「とんでもない、そんな事出来る訳ないでしょ!」

「なれば捨てよ」

「それも出来る訳ないじゃ……」

「喝!

 其方、最初から答え等求めておらぬじゃろう!

 耳障りの良い慰めを聞きたいだけじゃ。

 本当に何かを求めておるなら、こんなクソ坊主にではなく、弁護士とか申す者の所に行っておる!」

(自分でクソ坊主って認めてる!?

 まあ、でも言ってる事は正しい。

 時々鋭いんだよなぁ、この武士上がり)

 俺の失礼な感想は兎も角、譲念和尚は説教を続ける。

「妻と娘を斬る覚悟も無い。

 世を捨てて出家する覚悟も無い。

 その弱さが、女子に甘く見られおるのよ。

 どうするか決めよ!

 さもなくばわしは、向後も極端な事を申すぞ」

「妻や娘に尊敬されたいんです!」

「それは希望であって、何をするかではない。

 尊敬されるべく何をするか、決めよ」

「そんな事言われても……」

「手柄の一つでも立ててみるくらい、申せぬのか?」

「手柄?

 手柄ですか……。

 そんな事出来るかな……」

「その弱さ、断ち切るべし!

 どれ、わしの元で修行をつけてやる。

 今のお主では、何事も為せぬ」

 こうして強引に武家屋敷に連れて行かれた相談者は、凄まじい武術訓練を施される。

 当然、ひ弱な一般現代日本人が耐えられる訳もない。

 家庭では相変わらず無視され、仕事終わりには僧侶、中身は鎌倉武士に鍛えられる日々。

 そしてある日ついに

(あれ?

 なんか無視されるより、しごかれる方が生きている感じがするぞ。

 別に妻や娘は居なくても、こっちの方が充実しているんじゃないのか?)

 という感覚になってしまった。

 それ、ランナーズハイとかそっち系の感覚……。

 だがこれで家族を捨てる覚悟が出来た相談者は、黙って出家して姿を眩ませたそうで。

 そうなってから、奥さんと娘さんが慌てていたけど、

「あの者は高野山に向かった」

 と譲念和尚が言っていたから、探せないだろうなぁ。

……現代の高野山じゃなく、鎌倉時代の高野山に行っちゃったから。

「まあ高野山で修行し、立派な僧侶となれば、妾も囲い放題となろう」

 それで良いのかよ!!




「姑が怖くて……」

 そういう相談者を、譲念和尚は一喝した。

「老人はいずれ死ぬ!

 何を恐れる事やあらん!」

「でも……婚家でいじめられるもので……」

「そういう時は実家の力を使うものじゃ。

 婚家も正妻の実家という後ろ盾を失う事になろう」

「……そういう時代じゃないです」

「其の方は弱々しくていかぬ。

 頼朝公の御台所は尼将軍と呼ばれる程に強かったのじゃぞ。

 寒河尼は小山家の当主代行、比企尼も比企家の長として振舞っておった。

 巴女とか板額という女子は、自ら薙刀や強弓を引いて合戦をした。

 女子とてそれ程の強さを持っても良いのじゃぞ」

(待て、今名を挙げた連中、全員チート級の化け物じゃないか。

 真似しろって言っても無理だろ!)

 そしてクソ坊主、とんでも無い事を言い出す。

「まあ、尼御台の北条は、源家を無き者にしたも同然じゃがな。

 右大臣様(実朝)の事は知らぬが、その後に源家の血筋の者を根絶やしにしたのはいただけぬ……」

 嫁ぎ先の家を壊滅させる……その言葉に相談者の目が怪しく光ったのは、見なかった事にしよう、桑原桑原……。




 そしてこの最後の相談と類似の事例で、鎌倉武士たちは実家の恐ろしさを実演してみせる事になる。

短編にしました。

……一個一個は小ネタなので、2000~3000文字の一話分に満たないものでして。


あと、この解決策は作者が「こうすれば良いのに」と思っている事ではありません。

作者の脳内の鎌倉武士が自力本願な解決策を提示して来るだけです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >「まあ高野山で修行し、立派な僧侶となれば、妾も囲い放題となろう」 >それで良いのかよ!! wwww [気になる点] >嫁ぎ先の家を壊滅させる……その…
[一言] そういや鎌倉殿13人でもひきの尼存在感めちゃくちゃあったなぁ
[良い点] 後書き 仕方無いね、坊主のふりした坂東武者だもの
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