DQN団地乗っ取り計画~六郎の苦戦を救うのは?~
所謂DQN団地に住まうDQNどもを駆逐し、清浄にした後にオーナーに返し、その作業費としてどこぞに土地を貰う鎌倉武士の計画。
順調に進んでいたが、ここに来て停滞を始める。
ヤワなDQNは鎌倉武士にかかったらひとたまりもない。
それでも残ったのは、それこそ一筋縄ではいかぬ連中なのだ。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ」
またも六郎の叫びが轟く。
勝ったのではない。
負けたのだ。
この麻雀という賭博、六郎の頭ではルールを覚えられないのだ。
六郎は
・防御ガン無視で全ツッパ、その結果トビ
・兎に角、高目(分かりやすい大三元、字一色、大四喜なんか)を狙い続けアガレない
・良い牌が手に入ったら分かりやすく顔に出る、ナチュラルオープンリーチ
・上の役満狙いに絡み、兎に角ポン、カンが多過ぎて狙いバレバレ
・ルールがよく分かっていないからチョンボ多発
・ついには激怒して卓返し
という、どこぞの六つ子のダメ麻雀を一人でやってしまっている。
結果、部屋を賭けた試合に負けまくり、逆に奪われてすらいた。
「自分たちは腕力には自信無い。
だが賭博なら自信がある。
自分とこいつとそいつ追い出したいのなら、博打で勝負だ。
負けたら潔く出て行ってやるよ」
そう言った相手の土俵に乗ったのが誤りであっただろう。
三部屋手に入れるどころか負け続け、勝たねば収まらない武士の気質を逆に利用され、金を巻き上げられていた。
手持ちの金が無くなると、既に確保した部屋も賭金に使われている。
全てが無くなった「血を賭けろ」なんて言われかねないが、それにも勢いで乗りかねない。
「えーっと、多分その人たちには勝てないと思うよ」
ヤケ酒を飲んでいる六郎(もう未成年なのは置いておこう)に俺は言った。
「何だと?」
激昂する六郎。
「じゃあ、俺と勝負してみます?」
リュウ少年を交えてのトランプ勝負。
まずルールを中々覚えない。
そして簡単なトリックに引っ掛かる。
取らせたい札をヒョイと手札から一段高くすれば、必ずそれを引いてしまう。
「こりゃ勝てねえっスわ」
リュウ少年すら呆れていた。
こうなれば、鎌倉武士の屋敷内最強の頭脳を召喚するに限る。
「へえ……双六とかの勝負か」
おそらくこいつが勝てないなら、他の誰も勝てないであろう「見た目は子供、頭脳は鎌倉武士」な八郎である。
とりあえずルールを教えてやる。
ほぼ一日でルールを覚えただけでなく、心理戦を仕掛けてすら来た。
本当に、頭脳だけはチートなんだよなあ。
「何だい、勝てないからって子供を出汁にしているのか?」
次の勝負の時、六郎は挑発されてムキになりかけていた。
本当に博打向きの性格ではない。
そんな相手に、八郎はニコニコしながら近寄る。
「ううん、違うよ。
おじさんたちがゲームが強いっていうから、僕が頼んで挑戦させて貰ったんだ」
「ハハハハハ、そうか。
てっきり、あの兄ちゃんより坊やの方が強いから選手交代かと思ったぜ」
「えー、どうしようかなぁ」
このやり取りを聞いて
(なあ、亮太殿。
あいつは何故、あのような気持ち悪い言葉遣いをするのだ?)
と尋ねて来る六郎。
(ああいう演技が出来るって時点で、賭け事にはあいつの方が向いてるって事)
俺はそう返事をする。
八郎があんな芝居をしている時は、腹に一物抱えているのだから。
「さあて、坊や。
遊んであげるよ。
早くどれかを切りな」
「うー-ん……どれにしたら良いかなあ?」
「どれどれ、見せてみなよ」
「うん、いいよ。
どれも切れないんだよね」
「ハハハハハ、初心者はそう言うよな」
「うん、だって既にツモってるから」
「は????」
所謂「地和」である。
「ねえ、おじさんたち。
これ何点?」
「えーとねえ……8000点かな」
「ねえ、おじさんたち。
もう一回聞くよ。
これ何点?」
二回目は、子供とは思えない程にドスが効いた口調になっている。
「3……32000点……」
「やった!
ねえ、おじさんたち、僕強い?」
「あ、ああ、強いねえ。
おじさん、驚いちゃったよ」
「じゃあ、やっぱり僕がお兄ちゃんの代わりに打つね」
そうしてジャラジャラする。
「ロン。
平和」
「ツモ。
親上がり、一盃口」
「ツモ。
ツモのみ」
「ツモ。
役牌のみ」
兎に角、安上がりを続ける。
最初は苦笑いしていた男たちだったが、次第にヤバいと思い始める。
親で六連勝をされると、当然あの役が頭をよぎった。
「八連荘」
「おい坊主」
口調が変わっている。
「これは博打だって分かっているよな?」
「うん!」
「負けたら、お前の指を貰う。
金は要らねえ。
指を切って貰うぞ」
これは心理戦であった。
麻雀は、賭けるものが有るか無いかで、勝負の質は決定的に変わる、と伝説のパイロットの声の人が言っていた。
負けたら払うものがある、それが打ち方を硬くする。
心を竦ませる。
自由な発想力を無くさせてしまう。
男はこの対戦相手は子供だから、自分が稼いだ訳でもないお金の重みを理解出来ていない、故にプレッシャーから免れている、そう考えた。
子供でも分かる、失えないものが良い。
だから一回でも負けたら肉体的な痛みで支払って貰う。
それで相手に恐怖を与えられる。
そうすれば、守りに入ってしまい、手の内も読みやすくなるだろう。
だが、そんな心理的威圧は通用しない。
鎌倉武士なんてのは、狂気の沙汰程面白い程度ではない。
狂気の状態が通常運転なのだ。
狂気が普通の思考であるから、なんだったら自らの首を賭けてでも勝負に来る。
……狂気のギャンブラーであるが、武士は戦以外は駆け引きの能力皆無だから、現物と西国では使用されている宋銭との交換とか借入とかにおいて、寺社に上手くやられてしまい、土地家屋を失って没落する者が出てしまうのだが。
八郎は幼いながら狂気の中で育ち、一方で頭脳明晰、こんなプレッシャーは意味を成さない。
負けたら指を切られる、分かった上で気にしなかった。
それが日常茶飯事だから。
むしろ
「指程度で良いのか?」
と思ったりする。
冷静さを保ちながら、主導権を渡す事もなく、ついに親での八連勝、役満・八連荘!
勝利を収めるも、
「まだだ、まだ終わらないよ。
賭けを続行。
次は倍にしよう。
いや、もっと上乗せしようか。
こちらとしては、この首を賭けても良い。
で、どうする?
貴方たち、魂を賭けて勝負するか?」
「魂?」
「お互い、相手を殺せば総取り。
これ程分かりやすいものは無いよね?」
(ガキが、何言ってるんだ?)
「殺すのがダメなら、僕が腹を切っても良いよ。
介錯ならしてくれるって」
「よく言った!
見事に首を刎ねてやろう!」
(こいつら、本気だ。
正気じゃねえ……)
心理戦とかそんなチャチなものではない。
負けたら首を切り落とすと、納得し合っている。
鎌倉武士はある意味、死に狂い。
いつ死ぬか分からない以上、死ぬ時は見苦しさを見せたくはない。
現代日本人からしたら狂人。
男たちは完全に狂気に当てられてしまう。
そして、相手の殺気、瘴気、魔力のようなものに気圧されていく。
びびって逃げ回る者に……勝利の女神が微笑むはずもない。
彼等は後はズルズルと負けていき、勝ち分を全て吐き出すのであった。
おまけ:
六郎「しかし、あの最初の勝負で勝ったのが大きいな。
あれで流れを読んだように思う。
承久の乱の折、覚阿入道(大江広元)は
『今夜中に、武州一身と雖も鞭を揚げ被れ者、東士悉く雲之竜に從う可きが如く者り』
(今夜にでも武蔵守泰時一人でも鞭を揚げて出陣すれば、坂東武士は竜に従う雲のように皆従う)
と申されたそうじゃ。
斯様にまず先手を打つは大事な事。
甘くみておったとは言え、あの勝ちが勢いを得るものであった」
俺「えーと……見えなかった?
八郎、積み込みをやったんだけど?」
六郎「なにそれ?」
俺「相手が甘くみてニヤニヤしている間に、イカサマをやってたんだよ。
油断しまくっていたから、相手も気づいていなかったけど」
八郎「イカサマを見抜けなかったのは見抜けない人間の敗北なのさ」
やはり可愛くねえ……。
おまけのおまけ:
後白河法皇「よし、麿と勝負や!」
この人、なんか豪運がついてそう。
麻雀をせんとや生まれける、人だから。




