厳冬期のちょっと前には
初冬は変態の季節だ。
もっと寒くなると、コートの下は何も履いていないなんて出来なくなる。
丁度コートを着始めた辺りが、女性に恥部を晒す変態のシーズンであろう。
コートの季節になり、厳冬期休日を挟んで、春先の陽気になって来た頃までがレギュラーシーズンとなろう。
まあ後半の方は変態レギュラーだけでなく、陽気に頭がどうにかなった変態の新人も出て来たりするのだが。
なお、プレーオフはない。
そんな訳でシーズン開幕となり、俺の町にも渡り変態がやって来たようだ。
コートの前を開け、
「これ何だ?」
と妙齢の女性とか子供とかに股間を見せつけて快感を得ていた。
だが、今この町には鎌倉武士とその一党が出没するようになっている。
渡り変態はそれを知らなかった。
「これ何だ?」
通り掛かった女性を呼び止め、恥部を開陳する変態。
しかし、その女性は服装を換えただけで、中身は鎌倉時代人のお虎であった。
マジマジとそれを見ると
「威厳無きかな」
と言い放ったと言う。
変態は、マジマジと観察されるのはたまにあったようだが、
「威厳が無い」
という反応が全く理解出来ず、言葉の意味は分からないが兎に角見下された感じがしてショックを受けたそうだ。
「また変態が出てそうよ」
「ここ数年は来ていなかったのにねえ」
「よりにもよって、あの人たちが現れてから、また来るとは災難ね」
井戸端会議で、女性が変態に絡まれたという噂をしているおばさまたち。
「あ、お虎ちゃん。
貴女も気を付けてね。
最近、変なのが出るから」
「変なのとは如何なる者や?」
お虎に聞かれ、どういうものかを説明するおばさまたち。
「ああ、あれか。
昨晩会いたり。
おかしな事をするものと思うておりました」
ここで俺たちは既に遭遇済みだった事を知る。
そして「威厳が無い」という反応も。
(なんか意味は分からないが、男として決定的なナニかを侮辱された気はするな)
俺には変態の気持ちは分からないが、何となく言葉からそのようには感じた。
お虎さんが言うには
「時々身ぐるみ剝がされた挙句に殺された死体を見るから、男の恥部はそれなりに見慣れている」
「女の死体はもっとえげつない」
「着ている服を奪われただけで助かった者は、とりあえず全裸で歩いている」
「貧しい者の中には、下帯もボロボロで、はみ出しているのが居たりする」
との事だ。
布地は貨幣の代わりだから、下帯とて財貨となる。
これが銭の流通が終わった社会だと
「可哀想だから褌くらいは残してやるよ」
となるのだが、この時代は全部持っていくらしい。
「とりあえず、お屋形様に頼んで、武士による警戒をお願いしても良いかしら」
近所の連中、自分たちの先祖と仲が良くなり過ぎて、完全に感覚がおかしくなっている。
そいつらに頼んじゃダメだと思うのだが。
かくして夜間、再び薙刀を持った武士が徘徊するようになる。
渡り変態も、そこで逃げれば良いものを、今度は真っ昼間に出没し始めた。
狙いは公園で遊ぶ子供たち。
(キャーって言って逃げていくのが快感なんだ!
マジマジと見られるのはちょっと違う)
そういう訳で小学生女子を狙うのだが、ここにも危険人物はいるのである。
いきなり変なものを見せられて泣きじゃくっている女子に義憤を感じた八郎は、手下となった小学生たちを集めると声高らかに命令を出す。
「これより玉狩りを行う!」
何の玉かは聞かずとも分かるであろう。
腰に鎌を差した子供たちが
「変態はおらんか~?
悪い子はいねえ~?」
とうろつき始める。
まあ、これはパトロール以上の意味を持たない。
本命は別であった。
変態は、相手が嫌がれば嫌がる程興奮する。
小学生男子が息巻いて、女子を護衛しているのには近寄らない。
一人か少数の女子だけで行動しているものを狙う。
たまたま二人だけで行動している女子が居た為、変態はその子たちを付け狙う。
そして夕刻。
ギリギリの時間帯だろう。
「これなん……」
”だ”を言い終わらない内に、変態は恥部にナイフを突き立てられた。
縦に。
その女の子は、以前イジメを受け、その後鎌倉武士によって精神注入が行われた結果、サイコパスとなってしまった男児が女装したものだったのだ。
小学生中学年くらいまでは、女の子の服を着てカツラをつければ、「男の娘」でなくても普通に女子に見えたりする。
その男児はウィッグを用意したが、同じく女装をした八郎は自前の髪の毛であった。
元服前の牛若丸のように、八郎の髪の毛は女の子も羨む程に長い。
さてこの男児、勝つ為ならどんな卑怯な手も正当化されるという思想に辿り着き、ちゃんとした鎌倉武士なら名を惜しむからしない事でも平気で出来る。
まあ、平治の乱における二条天皇とか、挙兵時の以仁王とか、木曾義仲の嫡子・源義高の鎌倉脱走とかで女装は使われているから、これは古典的な手段と言えよう。
「男のアレを縦に切り裂くとか、中々残忍な事をしたのお。
いや、褒めておるのじゃ。
よくやった。
それに、弱々しく見えるのは暗殺者にとっては長所。
上手く懐に潜り込めたものよ」
八郎が上から目線で褒めている。
「あとは上手く誤魔化すまで。
わしに任せ……」
「いや、若、我等にお任せあれ」
丁度見回りに出たばかりの鎌倉武士たちが、警戒区域に来たのである。
「わしの獲物ぞ。
奪うでない」
「いや、そもそも我等が頼まれておった事。
若がそれを横取りしようとしたまで」
「手柄を横取りする気か?」
「聞き捨てならん!
若とてその雑言許し難し!」
「えーっと……八郎君、まず謝ろうね。
そして、謝罪を受けたら、手柄第一は八郎君たちという事にして、今も血を流しているこの変態の処理は大人に任せて方が良いんじゃないの?」
毎度の事とはいえ、見回りに付き合わされていた俺が、一触即発なのを宥めた。
なんでこういう役回り。
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【御成敗式目第十二条】
「一、惡口咎事
右鬪殺之基起自惡口 其重者被處流罪 其輕者可被召籠也 問注之時吐惡口
則可被付論所於敵人 又論所事無其理者 可被沒收他所領 若無所帶者 可處流罪也」
訳:争いの元だから悪口禁止、重い場合は島流し、軽くても入牢。
裁判中の悪口は、即座に言った方を敗訴にするからな。
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とあり、八郎もこの辺は折れざるを得なかったようだ。
だがこの生意気なガキは
「良いか!
この時代はわいせつ物陳列罪というのがあるのだぞ。
間違っても、この者のアレを切り落として、壁に打ち付けるとか駄目だからな」
と釘を刺していた。
まあ今回の場合、鎌倉武士よりも子供の方が残酷である。
鎌倉武士は、子孫が絶えるのは嫌だから、そこだけは攻撃しない。
子供は平気で攻撃して来る。
単なる変態行為で、鎌倉武士的には大した罪ではない。
御成敗式目には
「路上で恥部を晒す事」
なんて項目は無いのだ。
今回は、普通にこっちの時代の警察に突き出して終了となる。
「子宝を成すモノを斬られたのだ。
こちらの世の薬師なら縫い合わせる事も出来よう。
これ以上は哀れでならぬ」
俺は鎌倉武士が他人に同情しているのを、初めて見た気がした。
おまけ:
E頭「こんな場所で露出しちゃダメ!
イスラム教国とか、もっと刺激がある場所でやらないと!」
K彅「Sんごー! Sんごー!」
S級になると国民からも生暖かい目で見られるだけになるかと。




