DQN団地乗っ取り計画~目には目を歯には歯を耳には耳を~
「父上に、『火を噴く僧など置いておけぬ』と追い出されてしもうてなあ」
慈悟和尚は、六郎が侵略中のDQN団地の一室に引っ越しをした。
世話を焼く雑色が一人ついて来ただけマシとは言える。
なお、当主が弱視の五男坊を追い出したのは、火を噴く大道芸っぽさが原因ではない。
防災の為である。
木造建築で、漆喰等もない屋敷で火をボーボー噴かれたら、火災防止の観点からも良くない。
「目も多少見えるようになった故、我等の世で生きようが、こちらの世で生きようが好きにせよ、なんて言われ申した」
繰り返しになるが、側室の子で五男坊でかつ障害持ちともなれば、態度は冷たいものになる。
監禁したりしないだけ優しいとすら言えた。
「まあ五郎兄上もこの屋敷に住まうが良かろう。
手狭ではあるが、むしろ兄上には合っているかもしれぬ」
そうだろう。
蛇口を捻れば水が出る、スイッチを入れれば調理も出来る。
鎌倉時代の家屋に比べ、一人暮らしをするなら現代の方が遥かに楽だ。
「坊さん、音楽が好きなんだってな。
俺の友達に紹介してやろうか」
リュウ少年も、このデスメタルもしくはヘビメタ好きの僧侶に好意的だ。
この坊さん、手術の影響で光に弱いのと、まだ弱視程度の視力しかない為、度の入ったサングラスをかけている。
そしてリュウから差し入れられた革ジャンを着ていると、スキンヘッドのそういう人にしか見えない。
「で、この団地の乗っ取り計画はどうなってるんだ?」
俺の質問に六郎はニヤリと笑い、
「既に七、八分程厄介者は片付けた」
と答える。
そして
「まあ兄上といえど、何も無しで住まわせるわけにもいかぬ。
ひと働きをして貰おうぞ」
なんて言っていた。
この辺、兄でも側室の子に対する、正室の子らしい偉そうな態度が出てはいる。
とある部屋は、所謂騒音迷惑な部屋であった。
大音量でロックを流し続ける。
文句を言いに行っても
「うるせえ、ロックを理解しねえ奴は黙ってろ!」
と怒鳴りつけて来る。
あまりの騒音で、その部屋の両隣の住人は引っ越してしまい、空き部屋となっていた。
それどころか、更にもう一つ離れた部屋も空き部屋になっている。
「要するに、あの者を排除すれば五部屋分手に入るのじゃ」
「……慈悟さんに何をさせたいのかは分かった。
でも、大丈夫かな?
仮にも僧侶だし、遠慮するんじゃない?」
「そうっすね。
この兄ちゃん、スキンヘッドにグラサンとそれっぽいけど、体が小さいから押し出しが足りないっすね」
俺とリュウが不安を口にするが、六郎は笑っている。
「其方たちは兄上の日々を知らぬ。
まあ、兄上にはいつものままに暮らして貰えばそれで良い」
それはこういう事だった。
昔の人の朝は早い。
日の出と共に行動開始だ。
僧侶である慈悟は、夜明けと共に行動開始。
朝の読経を行う。
これが、武家屋敷における目覚し時計になるくらいに、大音量なのだ。
マイクも拡声器も無い時代、大規模な寺で仏事を行う時に、声が小さいと聞こえやしない。
更に読経は音楽的な意味合いもある。
その音声の響きが、浄土を思わせるようなものでなければならない。
慈悟は普段通り、特に力も入れていないまま大声で読経を行う。
「うるせえぞ!
何時だと思ってんだ!」
壁の薄い隣の部屋から文句が出るが、
(どの口がそれを言う)
とか慈悟は思いもせず、一心不乱に読経を続ける。
止まない読経に、ついに迷惑隣人がドアを叩いて怒鳴り込んで来た。
「うるせえ!
人が寝ているのに、何だよ!」
「ではもう起きなされ。
日はとっくに上っているのですぞ」
「こっちは夜遅かったんだよ!」
「人は日の出と共に起き、日が沈んだら眠るものです」
「説教かましてんじゃねえよ!」
「説教するのが僧侶の仕事です」
話が噛み合っているようで、噛み合っていないような……。
そして昼になると、今度は隣人がロックを大音量で聞き始める。
だが、今回は相手が悪い。
この坊さん、そういう音楽が大好きなのだ。
洋楽で歌詞が分からずとも
「鳥のさえずりに意味は無い。
そこに意味があると思うのは、その者の心が迷っているからじゃ。
音は音のまま楽しむものです」
というスタンスなのである。
音楽が終わる頃、リュウが仲間を連れてやって来た。
「この人が、メタル好きの坊さんだよ。
仲間に入れてやってくれ。
あと、この部屋ではいくら騒いでもOKだから」
「マジっすか?
俺ら練習場所無くて悩んでたのに。
リュウさん、マジ神っすわ」
「そうそう、この見た目からして嫌われるし」
「坊さん、メタル好きとか、サイコーじゃん。
仲間入る?」
金髪モヒカン、耳だけで無く鼻・舌・まぶたピアス、白塗りに黒の隈取、等等のミュージシャンが喜ぶ。
彼等は根が真面目でも、DQNに分類される存在なのだ。
堂々と受け容れられる環境が嬉しくてたまらない。
「じゃあ、一曲やろうぜ!」
楽器を持ち込み、アンプに繋いで爆音発生!
放送禁止用語のシャウト。
更にはチェーンソーまで稼働。
「うるせー----!!!!」
隣の奴がついにキレた。
「てめえら、うるせ……」
勢いよく怒鳴り込んだものの、バンドメンバーが持っているチェーンソーにビビッて固まってしまう。
「お……おい、そこの坊主。
おめえここ借りてんだろ?
おめえ、殴られたくなかったらここから出て行け!」
一番小柄で弱そうな慈悟に因縁をつける。
だが、慈悟はいきなり火を噴く。
「マジか!
坊さんサイコー!」
「スプリンクラーから水出たぜ!
シャワーだ、シャワー!」
「よし、この状態でもう一曲やろうぜ!」
「報知器の音に負けんな!」
「うおおおお、濡れた楽器で感電して、それもまた刺激的!」
「スゲー、素晴らしいロックだ!
あんたもそう思うだろ!」
火災報知器の音、それに負けじと出すデスメタルのシャウト、顔面に火をつけられた男の悲鳴でボルテージは最高潮!
慈悟は火を噴く琵琶リストとしてバンド入り決定。
そして隣人は、夜には夜の読経も食らい、ついに自分の方が逃げ出して行った。
それどころか、この階の住人全てが
「こんな場所に住んでられるか!」
と去って行ったのである。
「兄上も中々であるな」
「拙僧は普段通りにしていただけじゃが……」
(これが普段通りなのか……)
鎌倉時代って、こんな感じなのか、絶対違うだろうと俺は思うのだが……。
おまけ:
当主「琵琶は高価なのに……」
吉田民部「琵琶を奏でる事が読経と同じで功徳を積む事なのに……」
一同「どうして破壊するかな?」
鎌倉時代の人間にとって、こっちの方が火を噴くよりDQNな事かも。




